第72話 ハシレイ捜索隊
「司令ー! どこだー! 聞こえてたらブレイクダンスを踊って目立ってくれー!」
「そんなティッ〇トックみたいな見つけ方やめてもらえます!?」
俺と部長はハシレチェンジャーの反応を頼りにハシレイを探していた。反応によるとこの辺りにいると思うのだが……。
場所はゴミ山。もし埋まってしまっていたら、ハシレイを探すのは困難を極めるだろう。
「橋田、一旦休憩しないか? もう3時間もぶっ続けで探し続けてるから、そろそろしゃぶしゃぶが食べたい」
「唐突に贅沢言わないでください! ……でもそうですね、幹部と出会うかもしれないことを考えたら、そろそろ休憩を挟むのが良さそうです」
その辺にあった壊れかけの椅子を引っ張り出して腰掛ける。ゴミだから当たり前だが、ガタガタで座り心地は最悪だ。
「司令、見つからないな。このままじゃお母さんに連れて帰られてしまう」
「かくれんぼしてるわけじゃないですよ!? しかし見つからないのは困りますが……。誰かがいる気配がしないですね。埋まってしまっているのかもしれません」
「なら私はそれを掘り起こし、見事なトップスターに育てあげてみせよう!」
「才能を発掘するのは後にしてください! ハシレイを何にするつもりなんですか!」
「空き巣専門のコメンテーターだ」
「ニッチすぎる需要! それでトップスターになれます!?」
そんなことを言っていると、俺の背後でガサガサと音がした。部長に目配せしてゆっくりと椅子から立ち上がり、チェンジャーに手をかけていつでもチェンジできる姿勢を取る。
「げえーっぷ! げえっぷ! げえっぷ!」
「なんでゲップなんだ! そこは普通咳き込んだりするところだろう! ……だが無事で良かったぞ、ハシレイ」
俺たちの前にゲップをしながら現れたのは、ハシレンジャーの司令官、ハシレオ・ハシレイだった。
「なんや自分らこんなとこで! どないしたんや! スパーキングか?」
「そんなわけあるか! お前を探しに来たんだ!」
「おおそうなんか! ワシはこの通り無事やで! キンキンしとる!」
「ピンピンだろう! なんで今かき氷を食べた!?」
相変わらずマイペースなやつだ。だがとりあえず無事で良かった。問題は残りの幹部だ。
「ハシレイ、お前と一緒に飛んで行った幹部2人を知らないか? 実は基地に残っていたケイシカンマンはまだ生きている。他の2人はどうか知りたいんだ」
「うーん、ワシもスカイダイビングを楽しんでたから、それを気にする余裕は無かったなあ」
「なんで余裕なんだお前は! むしろそれなら気にする余裕があったんじゃないのか!?」
「まあまあ橋田、今はとりあえず再会を喜ぼうじゃないか。えんだあああああああああああいやああああああああああ!」
「そこまで感動的じゃないです! ああもう叫ばないでください! ゴミが崩れてくるでしょう!」
一旦ハシレイを座らせ、俺と部長も向かいに座る。ハシレイは特に疲弊していないようだし、いいタイミングだ。この際だから、正面から疑問をぶつけてしまおう。
「まずは無事で良かった。だがもう正直に言おう。俺はお前を疑っている」
「ブタ飼う……? それは好きにしたらええんちゃうか?」
「『疑う』だ! なんでこのタイミングでブタを飼うかお前に相談するんだ!」
「……まあこっちも正直言わしてもらうと、碧がワシを疑っとるんは分かっとった。あまりにも動きが不自然やったからな」
やはりバレていたか。だが俺も疑っているのがバレないように動いていたわけではない。分かって当然だろう。
「なら話が早い。さっさと白状してもらおうか」
「分かった。ワシは実は耳フェチなんや。耳の形を観察するのがこの上なく好きでなあ」
「めちゃくちゃどうでもいい! なんで今それを告白した!?」
「え、その話ちゃうかったんか? 他になんかあったか?」
「お前がホーテーソク団側の人間なんじゃないかという話だ!」
俺がそう言うと、ハシレイはキョトンとした目でこちらを見た。
「ワシが……ホーテーソク団側? ヌルナビャビャビャビャビャビャ! そんなわけ無いやろ!」
「笑い方が気持ち悪すぎるが!? ……お前はホーテーソク団側じゃないのか……? なら何故……」
「ワシがホーテーソク団に詳しいからそんなこと思ったんか? それならまあ納得や。ワシがホーテーソク団に詳しいのには理由があってやな……」
ハシレイはホーテーソク団側の人間じゃないのか……。ここまで笑い飛ばすのだから本当にそうなのだろう。これで嘘をついていたらとんでもない演技力だ。
「前にワシの故郷、ボーソー星がホーテーソク団に滅ぼされたっちゅう話はしたやろ? そん時にワシはトイレ掃除のバイトでホーテーソク団の宇宙船に忍び込んだんや。ほんで小便器を掃除しとる時に、ケイブマンとちょっと仲良くなってな。やからワシが知っとるホーテーソク団の情報はケイブマンから聞いたもんや」
「なんだそのアホみたいな経緯は……」
それが本当なら、今まで何故言わなかったのだろうか。いや、ハシレイの立場に立って考えると、こんなしょうもない理由を敢えて言う必要が見当たらない。ハシレイにとってはどうでもいいことだっただけで、別に俺たちに隠していたわけではないんだな……。
「そんなこと疑っとったんか碧は! アホやなあ。ワシがホーテーソク団側やったら、自分らに怪人をあんな倒させるわけないやんか!」
「いや、ハシレンジャーのスーツを実験として使い、怪人を強化しようとしているのかと……」
「そら自分疑いすぎやで! ワシは単にホーテーソク団を倒したいだけ。そのためにハシレンジャーを組織したんや。あと地球のトイレットペーパーの使い心地が良くて地球に居座っとるのもある。別にワシは宇宙船におってもいいわけやからな」
「なんだそのくだらない理由は! トイレットペーパーとハシレンジャーを同等に語るな!」
めちゃくちゃしょうもない理由を聞かされたが、ハシレイはホーテーソク団側でないと分かったからそれで良しとしよう。
ホッとして俺が座り込むと、またしても背後でガサガサと音がした。




