第70話 幹部を倒すために
「碧ー! こっちだこっちー! あ、こっちって言っても分かんねーか! 今お前の正面にあるビルの37階だー!」
「なんでそんなところにいるんだお前は! 早く降りて来い!」
「面倒にもほどがあるわね。碧たちが上って来なさいよ」
「お前らが上るからだろう!? いいから降りて来い!」
ブーブーと文句を言いながら紅希と黄花が降りて来る。何故か階段で降りて来たのでかなりタイムロスだ。なんでこいつらはこんなに呑気なんだ?
「紅希、黄花、作戦を立てるぞ」
「作戦ってなんだー? 名前がペンの韓国人かー?」
「それはパク・ペンだ! ……誰だパク・ペンとは!?」
「パク・ペンを知らないなんて損してるわね。今大人気のK-POPアイドルグループ『WHITE FIY』のメインハッカーよ」
「グループ名が白飛びだが!? あとなんだメインハッカーって! アイドルが何してるんだ!」
「サブハッカーのソン・ユギョンも人気よ」
「知らないがアイドルがハッキングするな!」
「おい橋田、そんな話をしに来たんじゃないぞ!」
「ああそうでした。ありがとうございます部長」
鳥羽部長が珍しく会話を元の路線に戻す。流石にハシレイが捕まり、基地が占拠されていては部長も焦っているか。
「紅希くん、黄花くん、大変だ! 例のパンケーキの店に行けたぞ!」
「期待した俺がバカでした! 今その話はいいです!」
「カリフォルニアロールが特に美味くてな!」
「なんであれほんとに注文したんですか! いやだからいいんですその話は!」
結局部長はボケなんだな……。まあそれは分かっていたことだから仕方ない。
「さっき伝えたが、ハシレイが捕まって俺たちの基地が占拠された。ホーテーソク団の幹部3人の仕業だ。ハシレイと基地を取り返すには、俺たちが全員で明日の昼12時に基地へ行く必要がある。つまり宣戦布告された形だ」
「何かしらその話。私は聞いてないわよ」
「……は? え、部長、黄花に通信してくださいって言いましたよね?」
「ああ、通信したぞ? しりとりをして楽しかったぞ!」
「何呑気なことしてるんですか! 敵の情報を伝えろって意味ですよ!」
「ああそうだったのか? それはすまないことをした。ちなみに黄花くんが『コンスタンティン』と言って負けた」
「黄花お前負けに行ってるじゃないか! ……いやそれはどうでもいい!」
「そーだぜおめーら! まずはしりとりが何か俺に教えろ!」
「自分で調べろ! 作戦の話をさせてくれ!」
本当にこいつらは……。ピンチの時ほどアホな話ばかりして全然話を進めさせてくれない。これは何とかならないのだろうか……。
「正直に言って、ケイシマンを倒せたのは奇跡だ。ハシレイの試作品のリーゼントが無ければ、俺たちは相当追い込まれていただろう」
「確かにそうね。今の私たちがその幹部3人を一気に相手して勝てるとは思えないわ。ところで37階から降りて来たから喉が渇いて仕方ないの。うどん出汁とか持ってないかしら?」
「余計喉が渇くものを飲もうとするな! 適当に水でも飲んでろお前は!」
「幹部3人か……。何故ホーテーソク団はいきなりそんな大物を送り込んで来たんだろうか? そこが不思議じゃないかと私は思ってるぞ」
確かにそうだ。以前ケイシマンが来た時は、ケイブマンが倒されたことでホーテーソク団に派遣されたと言っていた気がするが……。ケイシマンを倒したことで、ホーテーソク団が焦ったのだろうか。それにしても幹部3人はやり過ぎだと思うぞ。
「それはよー、さっさと俺たちを潰そーとしてんじゃねーの? 幹部を送り込んでもひゃめひゃもんめんもん」
「何を食ってるんだお前は! 大事なところが聞き取れないじゃないか!」
「わたあめだぜ! 美味そーだろ?」
「祭りにでも行ってきたのか!? それはいいから大事なところを言い直せ!」
紅希はわたあめを飲み込むと、改めて真面目な顔で話し出した。
「俺がホーテーソク団ならよー、幹部が2人倒されたらやべーって思うと思うんだよ! 俺たちで言うと碧が2人倒されたよーなもんだろ?」
「なんで俺ばっかり倒されるんだ! 俺と誰かでいいだろう!?」
「そーなったら本気でこいつら倒さなきゃなーって思わねーか? つまり、ホーテーソク団は本気で俺たちを潰そーとしてんだよ」
なるほどな。紅希のくせにまともな考察だ。俺たちが変に幹部を2人も倒してしまったから、ホーテーソク団を本気にさせたということか。
逆に言うと今まではホーテーソク団にそこまで脅威とは見られていなかったということ。
つまりホーテーソク団が本格的に俺たちを狙ってきたのなら、それは俺たちハシレンジャーと全面的に戦いますよという宣言だ。
「納得ね。ということは1人ずつ順番に出て来るとかいう舐めた戦い方は期待できないのね……。3人全員が同時に襲って来るとしたら、私たちに勝ち目は……」
「そこでなんだけどよー、俺にいい考えがあるんだけど、乗ってみねーか?」
「おお! そんなものがあるのか! ぜひSNSに書き込んで教えてくれ!」
「なんでネット越しなんですか! 今直接聞けばいいでしょう!?」
「俺の作戦ってのはよー……」
紅希は俺たちを集め、ひそひそと耳打ちし始めた。




