第69話 トリプル幹部
「どうした? ハシレイか?」
「ハシレイ、ねえ……。そんなやつはもう口を封じちゃった☆」
「……お前、誰だ?」
ハシレチェンジャーから聞こえてきた声は、俺たちの仲間の誰のものでも無かった。高くキンキンした女の声だ。
「あたしー? あたしのことが知りたいわけー? なーに、かわいいじゃーん!」
「ふざけるのも大概にしておけ。俺はお前が何者かと聞いている」
「かったーい! そんな固くちゃモテないぞ?」
「……」
こいつ、まともに話す気が無いようだな。だが状況から察するに、こいつはホーテーソク団の怪人、しかも幹部クラスだろう。
「おいケイシセイマン、そろそろ代われよ! オイラも話したいよ!」
「えー、ちょっと待ってよー。あたしまだこの子と話し足りないんだからー! まだこの子の好きな風邪薬聞いてないしー?」
「聞いてどうするそんなこと! 薬に好きも嫌いもあるか!」
「ちなみに、あたしの好きな電子レンジはオーブンレンジだよー!」
「せめて風邪薬の話をしろ! いつ電子レンジの話になった!?」
待ってくれ、この幹部もアホなのか? なんで俺はチェンジャー越しに敵幹部にツッコミを入れてるんだ。緊張感が一気に薄れてしまったぞ。
「やっほー! オイラはケイシチョウマン! 半分は使命感、半分は論破したいという気持ちでできてるよー!」
「嫌なバフ〇リンか! まだ風邪薬を引っ張るのか! ていうかその喋り方で性格が悪いタイプなのか!?」
「オイラの性格が悪いかどうかは君じゃなくて世論調査で決まるものだよね?」
「そんなしょうもないことで世論調査するな! どんな論破の方向性だ!」
こいつもアホだな……。敵幹部2人が基地を乗っ取り、恐らくハシレイを拘束しているというにも拘わらず、全くピンチに感じない。いや、ボケが増えたという点ではピンチではあるが……。
「おい、代われ。いつまでもお前らアホ2人に話させてられるか」
まだいるのか!? だが今度はまともに話せそうな幹部だな。落ち着いた低い声で話していて、敵なのに安心感があるぞ。
「俺はケイシカンマン。3×3は2だ」
「ストレートなアホだった! 嫌になるぞそろそろ!?」
「ポチ好き。間違えた落ち着け」
「お前多分犬好きだろう!?」
「俺たちが今お前に通信を送っているということは、どういうことか分かるな?」
「ある程度推測はできる。ハシレイを拘束し、基地を占領しているといったところだろう。この通信は紅希と黄花にも聞こえているということも推測できる」
「ああいや、レッドとイエローな、お前より先に通信したんだが肉だ紅茶だ逆立ちだ占いだって話にならなかったんで、最後にお前に懸けたんだ」
「それはなんと言うか、すまなかった」
忘れていたが、俺の仲間もアホだったな。確かにあいつらは人の話を聞かないが、こんな危機的状況でもマイペースなのか……。呆れたものだ。
「だが何故同時に通信しなかった? 俺より先に紅希と黄花に通信した理由は何だ?」
「ああ、なんかレッドに聞いたらデート中って聞いたからお邪魔かなって」
「素晴らしい気遣い! 親友かお前は!」
「どう? デート上手くいった?」
「だから親友か! お前が気にすることじゃないだろう!」
「ねえケイシカンマン、まだー? あたしそれそろ好きな風邪薬聞きたいんだけどー?」
「まだ聞きたいのか! 聞いてどうするそんなこと!」
「それは後で聞いてやるから、本題に入らせてくれ」
やはりこいつが1番まともではあるな。相対的にだが……。恐らくケイシカンマンが1番序列としては上なのだろう。
「えーっと、オマエタチハシレンジャーガケイブマントケイシマンヲタオシタトキイテオレタチガヤッテキタ」
「カンペを読むなカンペを! 大体でいいから覚えて来い!」
「すまん、頭が悪いんだ」
「自覚はあるんだな!? まあなんかそんなストレートにバカならこちらとしても責めづらいが……」
「あーもうオイラが代わるよ! 要するに、オイラたちはあんたたちハシレンジャーを倒しに来たってわけ!」
「話が早くて助かるが、俺たちだってそう簡単に倒されるわけにはいかない。全身全霊でお前たちを倒させてもらうぞ」
「へー? そんな感じなんだー? あたしたち、強いよ? その辺の幽霊には負けないぐらい強いからね?」
「強さが分かりにくい! なんで比較対象が怪異なんだ!」
「ということで、お前たちの基地は俺たちが占拠した。司令官も捕まえてるから、両方返して欲しければ全員で基地に来い。手土産は東京〇ナナがいいな」
「持って行くわけないだろう! なんだお前甘党なのか!?」
「あの限定のドラ〇もんのやつがいいぞ」
「だから持って行かないと言っている! なんで東京土産なんだ! 関西帰省か!」
全く気が抜けるやつらだ……。だが、ここは従うしかない。全員でこいつらを倒し、基地とハシレイを取り返すしか……。
待てよ、ハシレイは本当に捕まっているのか? 俺はあいつをホーテーソク団側の人間だと思っている。だがもしそうなら、ハシレイがホーテーソク団の幹部に捕まるわけがない。
本当にハシレイがこいつらに捕まっているのだとしたら、ハシレイはホーテーソク団側の人間ではないということか?
「どーしたのー? なんか引っかかることでもあったー?」
「いや、1つだけ確認なんだが、ハシレイは今本当に捕まっているのか?」
「ああ。かんぴょうでぐるぐる巻きにして、明太子を咬ませている」
「食べものを粗末にするな! 明太子を咬ませても美味いだけじゃないのか!?」
「とにかく、君たちの司令官は拘束しちゃってるよ! 猿轡が明太子だからそのうち話せるようにはなると思うけど!」
「だろうな! だが分かった。仲間には俺から伝えておこう」
「なんて言うか、お前も大変だな。あんな話の通じない仲間ばっかりで」
「お前には言われたくないぞ! だがまあ確かにそうだな……。最も話の通じない人が今隣にいるのは置いておくが……」
チラッと隣を見ると、鳥羽部長は不安そうにこちらを見ながら酢昆布をしゃぶっている。なんでこの状況で酢昆布を出せる!?
「じゃー時間を指定するよー! 明日の12時! 夜じゃないよ? 朝だよ?」
「そんな時間は存在しない! 昼か夜かどっちだ!」
「じゃ昼でー! そこんとこお願いしまーす!」
ケイシセイマンはそう言うと、ブチッと通信を切ってしまった。
「橋田、今のは……」
「敵幹部からです。どうやら俺たちの基地が占拠され、ハシレイが拘束されたようですね。明日の昼12時に全員で来るよう言われました」
「なるほど。東京バ〇ナを買って行かないとな」
「聞いてましたよね絶対!? 手土産は要らないですが、とにかく紅希と黄花に伝えないと! 部長は黄花に通信してください!」
「魚介団! 間違えた了解だ!」
「なんですかその魚の軍団は!」
俺は相変わらずハシレチェンジャーの使い方を知らない紅希にスマホで連絡をし、一旦全員で落ち合うことにした。




