第67話 お誘い
ケイシマンを倒してから、しばらく怪人が現れていない。ホーテーソク団としてもケイシマンが倒されるのが予想外だったのだろうか。また新たな幹部が現れるのかもしれないな。
今日は休日。少しだけ涼しくなってきて、また外に散歩にでも行こうかと考えながら顔を洗っていると、スマホに着信が来た。鳥羽部長からだ。
「お疲れ様です。橋田です」
「おお橋田! おはよう! ウミヘビを飼わないか?」
「飼わないです。どうしたんですかこんな朝っぱらから」
「飼わないのか……。ウミヘビはいいものだぞ? 私も前前世あたりでウミヘビを飼っていた記憶が探したらどこかにあるかもしれないという気がしている」
「多分気のせいですね。ウミヘビはどうでもいいんですが、何の用ですか? 休日出勤ですか?」
「ああいや、違うんだ! 実は橋田に付き合って欲しいんだが……」
「……え?」
付き合って欲しい……? いや落ち着け。そういう意味じゃないだろう。多分買いものか何かに付き合って欲しいとかそういう意味だ。
ダメだな、どうも鳥羽部長に対して変な気を起こしてしまっているようだ。気をつけないとな。
「ん? どうした? 何か私が変なことを言ったか? 天狗と鍼治療の専門学校に通いたいとか」
「なんで天狗と同期になるんですか! そこまで変なことは言ってないです!」
「まあいいか。それで橋田、食べに行きたいものがあるんだ!」
やはりそういう話か。ホッとすると共に、どこか寂しい気持ちもある。鳥羽部長のことだ、どうせ変なものを食べに誘うつもりなのだろう。カッパ巻きフォンデュとか。
「橋田は今日予定があったりするのか? もし無ければ一緒に食べに行かないか?」
「特に予定は無いのでいいですが……何を食べに行くつもりなんです?」
「パンケーキだ!」
「……え?」
パンケーキ? あのパンケーキか? 鳥羽部長がそんな普通の女子みたいなものを食べに? 不自然だ。本当にこれは部長か?
「どうした橋田? パンケーキを知らないのか?」
「パンケーキは知ってますが、部長がそんな普通のものを食べるのが意外すぎて……」
「失礼だな君は! 私はギャルだぞ? ジーエーエスと書いてギャルだぞ?」
「ガスじゃないですか! なんで気体になったんですか!」
「私だってパンケーキを食べたい時もあるさ! さあ橋田、私と一緒にパンケーキを食べに行こう!」
「いいですが……何故俺なんです? 会社の女子とか黄花じゃダメなんですか?」
「カップル割があるんだ! 女子だけだとどうしても割高になってしまうみたいでな!」
なるほど、それで俺か。甘いものはそんなに好まないが、最近はベーコンと目玉焼きが乗ったパンケーキみたいなものもある。俺はそういうのを食べればいいだろう。
「分かりました。準備するので少しお待たせしますが、大丈夫ですか?」
「もちろんだ! 駅前にある駅で待っているぞ!」
「じゃあ駅じゃないですか! ……分かりました。なるべく急いで準備します」
「サドンデス! 間違えた、頼んだぞ!」
「どんな間違いですか! 全然違うじゃないですか!」
俺は電話を切り、急いで髪をセットする。しかし部長と2人でパンケーキか……。なんかデートみたいじゃないか? いや、部長はそんなつもりで誘っているんじゃない。分かっているが、少し緊張してしまうな。俺は栞ともまともにデートというデートをしたことが無い。女性と2人で出かける時にどうすればいいのか分からないのが不安だ。
だがあの部長のことだ、話していたらいつの間にか時間が過ぎているのだろうな。気楽に行こう。単に仲のいい上司と食事に行くだけだ。
考えながら準備を終えた俺は、浮き足立って家を出た。
「橋田! こっちだこっち! メッカの方向だ!」
「イスラム教徒ですか!? そんなに大声を出さなくても分かります!」
真っピンクのワンピースに身を包んで大声を出す部長は、駅でかなり目立ってしまっている。私服も全部ピンクなんだな……。相変わらず派手なことだ。
「どうだ橋田? 今日は新品のワンピースを2回ほど着たものを下ろして来たんだ!」
「それは新品じゃないです! 下ろしたって言うんですかそれ!?」
「じゃあ早速行こう! 橋田はどんなパンケーキが食べたいんだ? カッパ巻きパンケーキか?」
「そんな気持ち悪いパンケーキは食べないです!」
やはり部長はカッパ巻きをスイーツに合わせるのが好きなようだ。俺の予想は当たっていたな。
「いやあ、来てくれて本当にありがとう橋田! あそこの店はカップル割を使わないとかなり高級でな、いつか行ってみたいと思ってたんだが、なかなか行く機会が無かったんだ! 橋田がいてくれて助かったよ!」
「いえ、付き合いなので……」
適当に返すが、内心は緊張でいっぱいだ。いつもの鳥羽部長のはずなのに、こんなに緊張するのは何故だろうか……。
「橋田は普段パンケーキとか食べるのか? それとも普段は生のニンジンしか食べないのか?」
「俺はウサギですか! ちゃんと色々食べます! でもパンケーキはそんなに食べないですね」
「そうか、橋田はキャロットケーキしか食べないのか」
「ニンジンを調理しないでください! 話聞いてました!?」
予想はしていたが、案の定アホな会話で話が途切れない。緊張している俺にとってはありがたいことだ。
「橋田、あそこだ! 着いたぞ!」
意気揚々と歩調を早める部長の後を追い、俺は店に入った。




