第66話 リーゼント裏話
基地へ戻った俺たちは、早速ハシレイを問い詰めていた。
「おい、あんなの聞いてないぞ! いつの間に作ってたんだ!」
「そーだそーだ! あんなカーペット知らねーぞ!」
「リーゼントだろう! カーペットを被るな!」
「私も知らなかったわね。あれは紅希専用なのかしら? それとも全員分があるの? それともわ・た・し?」
「新婚か! 最後の選択肢は要らないぞ!」
「しかしリーゼントで強化とはなかなか思い切ったアイテムだな! もし私の分もあるなら矢を貫通させておいて欲しいものだ!」
「落ち武者じゃないですか! リーゼント落ち武者っていつの時代のヤンキーなんですか!」
一斉に質問攻めに遭ったハシレイは、俺たちの様子を気にすることなくタンブラーから何かを飲んでいる。
「司令ー、今度はそれ何飲んでんだー? 粉ミルクかー?」
「粉のまま飲むな! むせて仕方ないだろう!」
「ワシが飲んでるのは、粉ミルクや」
「粉ミルクだった! なんでそのまま飲める!?」
「どうでもいいにもほどがあるわね。私たちが聞きたいのはそんなことじゃないわ」
「あ、ああそうだったな。俺たちが聞きたいのは、あのリーゼンt」
「司令の好きな空気入れを聞きたいわ」
「そっちの方がどうでもいいぞ! 聞いてどうするんだそんなこと!」
「ワシは足で踏んで空気を入れるタイプが好きやな。あれは浮き輪膨らましやすいんや」
「真面目に答えるな! なんで今浮き輪を膨らませる!?」
「司令はそっち派なのか! 私は耳で空気を入れるタイプが好きだ!」
「聞いたことないタイプ! 部長耳から息吐けるんですか!?」
「うん? 橋田はできないのか耳呼吸」
「できないです! できたくもないです気持ち悪い!」
一通りボケ組の気が済んだところで、ようやくハシレイが本題に入った。
「さっき紅希に転送したんは、ワシの新発明品、暴走リーゼントや。あのリーゼントカツラを被ることで、強化フォームに変身できるんや!」
「なんでまたカツラなんて変なものを……。だが確かに威力は凄かったな」
「せやろせやろ? 暴走族と言えばリーゼントやんか! やからリーゼントを武器にするっちゅう発想で発明したんや!」
「その発想は理解できないが、まあパワーアップするに越したことはないだろう。ケイシマンも無事倒せたことだし、良かったと思うか」
「ところで司令、さっきは流されたのだけれど、あのリーゼントは紅希専用なのかしら? それとも私たちの分もあるの?」
黄花の問いに、ハシレイは困ったような目をする。バイザーから覗く目だけでも表情が分かるものだな。
「それがあれはまだ試作品なんや。ほんまは自分ら全員の分を作ったろと思ってたんやけどな、ケイシマンとの決闘には間に合わへんかったんや」
「おい不穏なルビを振るな! 別にトレーディングカードゲームで戦ったわけじゃないぞ!?」
「でもトランプはしてたわよね。神経衰弱」
「ちょっとしてたけども! あんな無駄なシーンを引っ張り出すな!」
ケイシマンとの決闘は気の抜ける場面ばかりだったな。ケイブマンの時もそうだった気もするが……。ホーテーソク団の幹部はアホしかいないのか? いやそれを言ったら俺たちもほとんどがアホなのだが。
「まあとにかく、あん時試作品が上手く機能して良かったわ!」
「うん……? 上手く動かない可能性もあったのか?」
「せやな! 確率的には強化フォームに変身できるんは63.4%ぐらいやったかな」
「スカイツリーみたいな確率! 割と失敗する確率もあるじゃないか! そんな状態で試したのか!?」
「せや。まあでもあの状況で何もせんと見てたら、自分ら負けてたかもしれへんやろ? しゃーないしゃーないパッタイ」
「タイの焼きそばはどうでもいい! お前はそろそろ語感だけで適当に話すのをやめられるか!?」
おちゃらけているが、実はとんでもないことをしているな……。紅希の身に何かあったらどう責任を取るつもりだったんだ?
「司令ー、もし俺がリーゼント変身に失敗してたら、どーなってたんだー?」
「そらあれや、ヘソからしだれ桜が生える」
「無駄に風流なディスアドバンテージ! 上から桜が見えて新鮮な花見とか言ってる場合か!」
「あと片耳がでっかくなるで」
「マ〇ー審司か! なんでそんな地味な変化をしだれ桜の後に持って来た!?」
「碧、疲れてきてユーモラスになってるわよ。落ち着きなさい。ポウポウ」
「どうどうだろう! なんだそのアメリカのポップスターみたいななだめ方は!」
ツッコミを入れてはいるが、実際黄花の言う通りだ。気を抜くと感性がユーモラスになってしまうのは、相変わらず俺の悪い癖だな。クールを目指さなければならないと言うのに……。
「橋田。司令は失敗の可能性も分かっていて、紅希くんにリーゼントを託したんだ。そのリーゼントに紅希くんが応えた。リーゼントもリーゼントとしての役わリーゼントを果たした。リーゼントブルなリーゼントリーをリーゼントリートメントしたんだ」
「いい話かと思ったら後半でぶっ潰しに来ましたね!? なんで最後トリートメントしたんですか!」
「安心しろ、洗い流さないタイプのやつだ」
「洗い流すことを心配してないです! 流した後髪乾かすの面倒だなとか思ってないですから!」
「リーゼント橋田はちゃんと面倒くさがらずに髪を乾かすタイプのリーゼントか」
「リーゼントリーゼントうるさいですよ! 誰がリーゼント橋田なんですか!」
「橋田・リーゼント・碧か?」
「ミドルネームにリーゼントを入れないでください!」
結局俺はこのまま部長の相手をすることとなり、ハシレイはいつの間にか部屋からいなくなっていた。
部長はハシレイを擁護しようとしていた……ように見えたが、俺はハシレイをまた疑ってしまう。
俺たちを何だと思ってるんだあいつは……。やはりホーテーソク団側の人間なのかもしれないな……。




