第60話 筋肉はちゃんと鍛えましょう
「赤い暴走! ハシレッド!」
「青い突風! ハシレブルー!」
「黄色い光! ハシレイエロー!」
「ピンクに突撃! ハシレピンク!」
「エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
「ハシレンジャー!」
俺たちの背後で大爆発が起こり、天井に穴が空く。外の光に照らされながら、俺たちはボディビルマンへと向かって行った。
「かかってこいしー! 吾輩の筋肉に勝てるわけないしー!」
「それはどうだろうな! 私たちだって無駄に鍛えてるわけじゃないぞ! 普段謎解きとかしてるし」
「脳トレしてどうするんですか! しょうもないこと言ってないでさっさと倒しますよ!」
ボディビルマンに近づくと、全員で拳を叩き込む。だがその体はビクともしない。とんでもない固さだな……。
「そんなんで吾輩に勝てると思ってもらったら困るじゃん? マイナンバーの暗証番号忘れた時ぐらい困るじゃん?」
「妙にリアルな例えをするな! 確かに困るけども!」
「おめーら! こいつを倒すには身体暴走を使うかタンパク質の雑学勝負を仕掛けるしかねー!」
「めちゃくちゃ負けそうな勝負を仕掛けようとするな! 絶対あいつタンパク質に詳しいだろう!」
「仕方ないわね。なら私が単泊室に連れて行ってあげるわ」
「なんだその1泊専用の部屋は!? 連泊させろ連泊!」
「私は家の隣にあるホテルに30連泊して、昼は家で過ごして寝にホテルへ帰っていたことがあるぞ!」
「もっと時間とお金を大切にしてください!」
アホなことを言っている場合ではない。紅希の言うように、身体暴走を使うのが必須だろうな。
「お前ら、身体暴走を使うぞ!」
「よっしゃー! 行くぜ! 身体暴走!」
俺たちはハシレチェンジャーのアクセルを回し、身体暴走を使った。すると体の筋肉が大きく盛り上がり、ゴリラのような体型に変化する。
「これでやつの体にも攻撃が効くはずだ!」
「でも身体暴走を使うのも何度目かしらね。思えば最初の頃はブルーと殴りあったりしていて、懐かしいわね。あの頃は若かったわ。私たちも歳をとったわね」
「思い出話を語ってる場合か! のんびりするな! 行くぞ! ……ってピンク?」
後ろを見ると、体もそのままのピンクが立ち尽くしていた。どうしたんだ?
……いやちょっと待て、身体暴走は経験値を溜めることで使えるようになる機能。ピンクはまだ加入したばかりだから、身体暴走を使えないのか?
「ピンク、もしかして身体暴走が使えないんですか?」
「そこの角を曲がった通りだ」
「『その通りだ』でいいでしょう!? なんで1回コーナーを経由したんですか!?」
「気分的にフレンチトーストを咥えながら角を曲がって転校生のイケメン男子とスクラムを組みたい」
「ラブコメを全部間違えてますよ!? とりあえずフレンチトースト咥えてたらぶつかった相手べちょべちょになるでしょう!?」
「とにかく私はまだ身体暴走が使えないから、爆弾で援護射撃するぞ!」
「了解です。頼みますよ!」
ピンクが両手に爆弾を取り出したのを見て、俺たち3人は再びボディビルマンに向き直る。
「なんかいい筋肉してるじゃん? 吾輩とも張り合えるかもしんないし?」
「かもな。じゃあ食らえ!」
問答無用で再び拳を叩き込むと、ボディビルマンが後ろに吹っ飛んで行く。だがボディビルマンはくるっと空中で1回転し、華麗に着地を決めた。
「なかなかやるじゃん? この吾輩を吹っ飛ばすなんて、いいpowerじゃん?」
「なんでネイティブ発音なんだ! ケ〇ン・コスギか!」
「じゃあ今度は吾輩のmuscleをfeelしてkneekneeしろしー!」
「意味が分からないぞ!? 膝膝してどうするんだ!」
するとボディビルマンは一瞬で俺たちとの間合いを詰め、拳を振り上げる。レッドの腹に拳がぶち込まれると、煙が舞い上がった。
「レッド!! 大丈夫か!!」
「レッド! 紅茶は飲む?」
「今飲ませてる場合か!」
「レッド! フレンチトーストを咥えていいか?」
「出会おうとしないでください!」
煙が少しずつ晴れ、拳を受け止めたレッドの姿が浮かび上がる。
「レッド!!」
「なんだー? こいつ全然弱っちいぜー?」
「……は?」
ボディビルマンの拳は、確かにレッドに届いていた。だがレッドはビクともしていない。どういうことだ?
「おいおめーら、こいつ見せ筋だぜ!」
「はあ!?」
「ていっ☆」
レッドがしっぺすると、ボディビルマンは遥か彼方へ吹っ飛んで行き、そのまま星になっていった。
「ええ……? さっきまでの強キャラ感は何だったんだ?」
「痩せ我慢ね。無理をしていたんだわ」
「ええ……?」
困惑する俺のところに、爆弾を持ったピンクが寄って来る。
「やったな! だが私の爆弾は1度出すと爆発するまで消せないんだ。供養していいか?」
「ちょっと待ってください! え、ここでですか!?」
「そーれっ!」
バッゴオーン。大爆発が起こり、俺たちは空中に放り出された。
「もう二度とやめてくださいね……」
「いやあすまないすまない! だが気持ち良かったぞ!」
こうして、俺たちはボディビルマンを倒すことができた。そして迂闊に部長に近寄らないことを決めた。
だがそんな部長のハチャメチャなところが、どうも気になって仕方ないのは何故だろうか……。




