第59話 続々!ボディビル!
虹色の空間を抜けると、そこは何かのステージ上。屈強な男たちが放り投げられたような格好で倒れている中、1人だけ真っ黒な筋肉を見せつけるロボットのような人影があった。こいつが怪人だな。
「ふんっ!」
「はあーっ!」
「ほおっ!」
息を吐き出しながらポーズを決める怪人。ボディビルか。ということは今回の怪人はボディビルマンとかそういう名前だな。ボディビルダーたちに何をしたんだこいつは。さっさと倒してやらないとな。
俺が怪人の方へ向かおうとすると、舞台上に怪人よりひと回り小さい男が現れた。茶髪を立ち上げて赤いパンツ一丁でステージに上がったその男は、上腕二頭筋を見せつけるようなポーズを取った。
「きょ、きょえええええ!!」
「どんな掛け声だ! おい何してるんだ紅希!」
「何って、ボビー・ビルだよ!」
「誰だそれは!? 変なアメリカ人を捏造するな!」
「ボビーは3食豆の煮物を食うナイスガイだぜ!」
「修行僧か! そんなやつがボディビルの大会に出るな!」
「でもボビーは」
「ボビーはどうでもいい! 降りてこいバカ!」
渋々いつもの赤いレザージャケットを羽織りながら、紅希がこちらに降りて来る。
なんでこいつは怪人に乗っかるんだ。今そこでボディビルダーが多数倒れているというのに、呑気にしてる場合か!
「ちぇー! せっかく俺の鬱陶しい筋肉を見せよーと思ったのによー!」
「そんな煩わしい筋肉があるか! 美しいとかじゃないのか!?」
「ちゃんと俺の筋肉は話しかけてくるぜ! 『今日のモルディブの天気を教えて』とか」
「AI代わりにされてるじゃないか! なんで筋肉がモルディブの天気を知りたがるんだ!」
「そりゃー知りたい時だってあるだろ! だから俺は『今日のモルディブは米が降るぜ!』って返してやってんだ!」
「そんなライスシャワーみたいな天気があるか! 無駄にめでたいな!」
俺が紅希と言い合っていると、今度は下手から黄色いスポーツブラに黄色いショーツという格好の女が出て来る。そしてステージの真ん中まで来ると、ポーズを決めた。
「はんむらびほうてんっ!」
「だからどんな掛け声だ! やり返されそうな声を出すな!」
「マナーがなっていないにもほどがあるわね。ボディビルは静かに見るものよ。ポージング中の撮影・録音は10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金が科せられるわ」
「映画か! ボディビルの大会なんてむしろうるさいものだと思っていたが!?」
「NO MORE泥棒よ」
「ただの犯罪撲滅キャンペーンじゃないか! いいからお前も降りて来い!」
女——黄花は、これまた渋々髪をかき上げながらステージを降りる。
全くこいつらは何をしてるんだ。横でずっとポーズを決めている怪人がどんどん脇役になっていくじゃないか。戦闘回になると思っていたのに……。
「バカやってないで早く怪人を倒すぞ! 部長も行きますy……部長?」
俺の後ろにいたはずの部長の姿が見当たらない。周りを見てもどこにもいない。
ちょっと待て、ものすごく嫌な予感がしているぞ。この流れで部長がいないということは、まさか……。
俺の悪い予感は的中し、ピンクのタンクトップにショートパンツ姿の鳥羽部長がステージ上に現れた。
「間もなく2番線に電車が参ります。危ないですから黄色い線までお下がりくださいっ!」
「長すぎますよ掛け声が! なんで前回から電車に拘ってるんですか!?」
「見てみろ橋田、私のこの美しい溶連菌を!」
「それは筋肉じゃなくウイルスです! 早く病院に行ってください!」
「ぬうう、怪人めやるな。私ももっとウキウキになりたいものだぞ!」
「ムキムキでしょう!? 楽しみにしてどうするんですか! ちょ、いいから早く降りて来てください!」
喉の痛みを訴えるポーズを決めている部長をステージから引きずり下ろし、俺たちはようやく怪人と向き合う。
「待たせたな怪人。今から俺たちハシレンジャーがお前を倒す!」
「いや待たせすぎじゃん? だらだらしないでさっさと戦ってくんね?」
「お前ムキムキのクセにそんなギャル男みたいな喋り方なのか!?」
「吾輩だってそんなに暇じゃないじゃん? お前らみたいなのと戦ってる暇があったら筋トレしたいし?」
「一人称は吾輩なのか!? その感じで!?」
「吾輩はボディビルマンだし。代謝アゲアゲの筋肉見ておくんなまし?」
「もうそれはギャル語でもないぞ!? おくんなましってなんだ! 花魁か!」
ボディビルマンの迷走するキャラに呆れつつ、俺たちは左手のハシレチェンジャーに手をかける。
「おめーみてーな自分の筋肉しか見えてねーやつは、俺たちがぶっ潰す! もし俺たちが勝ったら、今日からおめーの食事はキクラゲだけだ!」
「2食目で飽きそうなチョイス!」
「へえー迎え撃ってやろうじゃん? キクラゲだけでも筋肉には十分だし?」
「十分なわけあるか! お前負けたら生涯キクラゲしか食べられないんだぞ!? もっと危機感を持て!」
「行くぜおめーら!」
「ハシレチェンジ!」
俺たちの周りを赤・青・黄・ピンクのタイヤが回り出し、俺たちはハシレンジャーへと姿を変えた。




