第54話 思考する碧
今日は珍しく基地に俺1人。紅希は肉フェスへ、黄花は仮面舞踏会があるとか何とかでいないのだ。今どき日本で仮面舞踏会なんてやっているところがあるんだな……。
ちなみに鳥羽部長は逆立ちで滋賀県まで行けるか試すそうだ。早く諦めて途中で帰って来て欲しいものだ。
ということで俺は基地に1人。ゆっくりとコーヒーを啜りながら、ハシレンジャーのスーツについて考えているところだ。
というのも、俺たちのスーツに隠されたもう1つの機能が気になっているのだ。身体暴走は使えるようになったが、ハシレンジャーのスーツにはもう1段階上の機能がある。それが思考暴走だ。
何でも、考えたことをイメージの暴走によって具現化することができる機能だそうだが……。
そんな無敵とも言える機能が本当に俺たちに使えるのだろうか。イメージが何でも具現化するということは、考えるだけで敵に勝てるということだ。やろうと思えばデ〇ノートみたいなこともできてしまうのではないか?
だが本当に思考暴走が使えるようになれば、ホーテーソク団との戦いで相当有利になる。ぜひとも早く習得したいものだ。
そんなことを考えていると、ドアが開いて黒いフルフェイスのヘルメットを被った男が入って来る。ハシレイだ。
「おうおう今日は碧1人か! どないしたんや? ソロキャンプか?」
「そんなわけあるか! 基地の中にいる時点でキャンプが成り立っていないだろう!?」
「ソロキャンプと言えばホットサンドメーカーやな。ワシはホットサンドメーカーでサンドイッチとサンドイッチをサンドイッチするのが好きでなあ」
「サンドイッチサンドイッチうるさいな! はみ出て仕方ないと思うが!?」
「ほんでサンドイッチの写真を撮って、掲示板にスレッドを立てて3回載せるんや」
「サンドイッチ3度イッチするな! 確かにソロキャンプでホットサンドメーカーを使うスレッドとかありそうだけども!」
「サンドイッチを3回載せたスレッドを遠くから見たら、サハラ砂漠の砂と形が同じやったらしいで」
「サンドイッチ3度イッチsand一致するな! スレッドが砂と同じってどんな形だ!?」
相変わらずめちゃくちゃだなこいつは……。俺は真面目にスーツの機能について考えていたというのに、司令官がこれでは何の説得力も無い。
「ほんで碧は1人で何しとったんや?」
「ああ、俺は思考暴走について考えていたんだ。使えれば強そうな機能ではあるが、俺たちはいつになったら使えるんだってな」
俺がそう言うと、ハシレイはデスクに腰掛け、腕を組んでヘルメットのバイザーを上げた。
「うーん……思考暴走はかなり経験値を溜めへんと使えへんからなあ。ハシレンジャーのスーツの機能の中でも上位の機能やからな」
「そうだろうな。まだまだ経験値を溜めないといけないことは俺も分かっている。だがケイシマンやもっと上の幹部と戦う時には必須になってくる機能なんじゃないのか?」
「まあそれはそうやな。ワシはケイブマン以外の幹部をそない知らんけど、ケイブマンの強さが最低限と考えたら必要にはなるな。ところでワシのブーメランパンツを知らんか? 昨日から見つからへんのや」
「知るか! どんなパンツを履いてるんだお前は!? 人が真面目な話をしている時に!」
全く、呆れたやつだ。俺の思考暴走に関する疑問が全部吹っ飛んで行ってしまったぞ。
「とにかく思考暴走を使うには、たくさん怪人と戦うしかあらへんな。幹部クラスと何回か戦ったら使えるようなるんちゃうか? 知らんけど」
「無責任だな……。まあそれは分かった。ところでお前は何をしているんだ?」
「ああ、ワシはケイシマンについて調べつつ、メンフクロウのモノマネを練習しとったんや」
「何をしてるんだお前は! なんでそんなどうでもいいことをしている!?」
本当にどうでもいいな……。意味も分からない。何を目的にして生きてるんだこいつは。暇つぶしか?
「いやだってメンフクロウってかわいいやんか。ワシもメンフクロウのモノマネをして、K-POPアイドルとしてデビューしたいんや」
「日本のアイドルじゃダメなのか!? いや日本でも無理そうではあるが!」
「いややっぱりK-POPアイドルがええやんか。まああかんかったらN-POPでもええけど」
「なんだN-POPとは!? どこの国のアイドルだそれは!?」
「長野県や」
「長野県を勝手に独立させるな! どんな曲を歌うんだそいつらは!」
「そらあれや、木曽のナー 中乗りさん
木曽の御岳さんは ナンジャラホーイ言うてな」
「なんだその本当にありそうな民謡は!? ……おい本当にあるじゃないか! 木曾節って出てきたぞ!?」
「NGN56000の代表曲やぞ?」
「ドジャース〇ジアムの収容人数! 多すぎるだろう!?」
ずっと何の話をしてるんだこいつは……。思考暴走についての真面目な話をしていたはずなのに、こいつのせいでめちゃくちゃだ。
まあ今の段階では思考暴走は使えないということは分かった。なら地道に戦いを重ねて経験値を溜めるしかないだろう。
「お、もう21時か。ワシはそろそろ寝ようかな」
「もう寝るのか。早いんだな」
「健康第一やからな! 早寝早起きがいっちゃん大事やで! そしたらせめて夢の中でだけでもアイドルになってくるわ」
「まだ言ってるのか……。なんでそこまでしてアイドルになりたいんだ?」
「それはワシの夢やからなあ。やからせめて寝てる時に夢の中でだけでも有名になろかなってな」
「やかましいぞ! 落語みたいなオチを付けるな!」
ハシレイは自ら座布団を持って自室へと戻って行った。さて、俺もそろそろ家に帰るか。ハシレイに付き合っていたらこんな時間になってしまった。
足早に基地を出た俺の後ろで、小さな足音が聞こえた気がした。




