第53話 自分を追い込め、ハシレンジャー!
「ぬあー! もー無理だー!」
レッドがバーベルに押し潰されるのを皮切りに、俺とイエローも限界を迎えてしまう。いやイエローはイーゼルを上げているのだから限界など迎えないで欲しいが。
「何諦めてるんだい! まだまだこれからだよ!」
「いやもう無理だろう……。腕がパンパンになってしまっているぞ?」
「私なんて腕がペインターになってしまっているわ」
「画家になるな! イーゼルなんか上げているからだろう!」
しかしこのバーベル、えげつない重さだ。実際に42.195tあるのだとしたら、俺たちはチェンジを解除した瞬間潰されて死ぬことになる。つまり、トレーニーマンが普通に攻撃などしてきた時には一巻の終わりだ。
「レッド、イエロー、潰される前に身体暴走を使うぞ!」
「そうは言われてももう腕が上がんねーよ! チェンジャーまで持っていけねー!」
「私はいけるわよ。あと美しい絵も描けるわ」
「後者はどうでもいいから早く使え!」
「仕方ないわね。じゃあまずはこの状況を模写して……」
「絵はどうでもいいと言ったところだ! 早く身体暴走しろ!」
「はあ。うるさいにもほどがあるわね。行くわよ、身体暴走!」
イエローの体中の筋肉が盛り上がり、ゴリラのような体型に変化する。イエローはそのままイーゼルをそっと横に置き、俺たちの上に乗っているバーベルを放り投げて退かした。何故イーゼルをそっと置いたんだ……。さては後で絵を描くつもりだな?
「ちょっとちょっと! トレーニング器具は大切に扱わないと!」
「だからそっと置いたじゃない。バーベルは危ないから退かしただけよ」
「イーゼルはトレーニング器具じゃなく画材だ! そこだけはしっかり分かっていて欲しいが!?」
トレーニーマンはゆっくりとポーズを決めながら息を吐き、少しずつ俺たちに近づいて来る。暑苦しいやつだな。
「しょうがない、なら僕がパーソナルトレーニングを担当してあげよう! イエローさん、覚悟しておくんだね!」
「精々言っているがいいわ。私1人でもあなたぐらい5捻りよ」
「捻りすぎだ! 蛇口か!」
「行くよ! ぬうん!」
トレーニーマンはその丸太のように太い腕で、イエローにラリアットを仕掛ける。
だがイエローはそれをサッと避け、トレーニーマンの腹に拳をぶち込んだ。
「今……何かしたかい?」
「固いにもほどがあるわね……。身体暴走の力でビクともしないなんて……まるで2日目のドーナツのようだわ」
「例えはそれで合ってるのか!? もうちょっと固いものがあるだろう!」
「こいつの筋肉をなんとかするには、武器が無いと無理ね。でも私のダガーで通じるかどうか……」
近接武器だと不利かもしれないということか。確かに、それだけ固い筋肉ならレッドの鉄パイプやイエローのダガーが通じるかは未知数。なら俺の銃で……と言いたいところだが、それでも破壊力が足りるのかどうか……。
こんな時部長がいてくれたら勝ち目が見えるんだがな。
そう思った瞬間、ジムのドアが開いてピンクのジャージを着た鳥羽部長が入って来た。
「退勤だー! やっと広告制作が終わったぞ! 今からトレーニングをして発散しy……おお? 怪人とハシレンジャー? 何してるんだ? 新作の弁当の案出しか?」
「そんなわけないでしょう! 俺たちは弁当屋じゃないんです! いいから早くチェンジしてください!」
「何をそんなに焦ってるんだ。ここはのんびり行こうじゃないか。まずは冷凍の唐揚げを10分温めて……」
「なんでこの状況でのんびりできるんですか! 早くチェンジしてください!」
「あ、ああすまない。分かった分かった。行くぞ、ハシレチェンジ!」
冷凍唐揚げが乗った皿を持ったまま、部長の周りをピンクのタイヤが回り出す。そして部長の姿はハシレピンクへと変わっていた。
「ピンクに突撃! ハシレピンク!」
「お、君もハシレンジャーなんだね! なら一緒にトレーニングをごっはあ!」
「ごちゃごちゃうるさいぞ。さっさと倒されて私の仲間を解放しろ!」
ピンクはいきなりトレーニーマンに爆弾を投げつけ、問答無用で吹っ飛ばしていた。
さっきまでのんびりしていた人と同一人物だとは思えないな……。よく見ると冷凍唐揚げが乗った皿は丁寧にラップをかけられ、ベンチプレスの上に置かれている。何がなんでも食べたいんだな……。
「ハシレンジャー、今助けるぞ! 助けられるまでの間はジェンガでもして待っていてくれ!」
「そんなことをしている余裕は無いです! 呑気すぎるでしょう!?」
「おいピンク! そこの唐揚げ俺も食っていーか? 腹が減って仕方ねーんだ!」
「もちろんいいぞ! 10個あるから4.5個とかでいいか?」
「なんでそこまであげて素直に半分にしないんですか! ややこしいでしょう!?」
結局ピンクに助けてもらった俺たちは、改めてトレーニーマンに向き直った。
「覚悟しろよ怪人! こうなったら俺たちは無益だぜ!」
「無敵だろう!? 何故利益が無いことになっている!?」
「呑気にもほどがあるわね。早く武器を合体させるのよ」
「ついでに唐揚げも詰めていいか? ハシレ唐揚げボンバーを撃ちたい」
「食べものを粗末にしないでください!」
「しゃー! 行くぜ! 暴走バスター! ハシレボンバー!」
「ぐぎゃあああああああ!! トレーニングの後はすぐに食事を摂って筋肉を作るんだぞおおおお!」
余計な会話が挟まったが無事トレーニーマンを撃破した俺たちは、パンパンになった腕を回しながら帰路に着いた。
ケイシマンが派遣してきた怪人だったのだろうか。恐らくそうだな。厄介なものだ……。




