第52話 みんなでトレーニング!
「まだまだ! もっと自分を追い込んでいこうよ!」
「ああー!! 重すぎんだろー!!」
「暑苦しいにもほどがあるわね。私はもっと爽やかにいきたいものだわ。チーズナンのように」
「どこが爽やかなんだ! 激重じゃないか!」
俺たちはジムでひたすらトレーニングを課せられていた。ハシレンジャーにチェンジした姿でだ。
俺たちのトレーニングを指導しているのは、ホーテーソク団の怪人「トレーニーマン」だ。以前トレーナーマンがいたが、今回はトレーニーマン。ややこしいことこの上無い。
「もっと! もっと自分を追い込んで! まだまだいけるって思い込まなきゃ、そのバーベルは上がらないよ!」
「無理だー! もうこれ以上上がんねーよー!」
「私はまだいけるわね。あなたたちと違ってバーベルじゃなくイーゼルを上げているもの」
「画家マッチョか! なんでお前だけイーゼルなんだ!? ……なんだ画家マッチョって!」
何故こんなことになってしまったのか。時は数時間前に遡る——。
俺たちは基地に集まり、ハシレイがケイシマンについて調べた結果を聞いていた。
「——ちゅうことやな。ケイシマンはケイブマンよりも立場が上の幹部。単純な戦闘力で言うたら、ケイブマンとは段違いや」
「厄介ね。直接出て来たら苦戦を強いられることは間違い無いってことよね。ワクワクしてきたわ」
「急にバーサーカーになったのか!? もうちょっと不安になれ!」
何故か戦闘を楽しみにしている黄花に対し、紅希は珍しく不安そうだ。
「どうした紅希? そんな浮かない顔をして」
「あのケイシマン、ムキムキだったろー? 強そうで俺ちょっと不安なんだよ」
「なんでそんなことで不安に……ああなるほど」
1人で勝手に納得してしまったが、紅希がケイシマンと戦うのを不安がるのは理解できる。紅希はバカだ。バカで単純故に、どう見てもムキムキで力が強そうなケイシマンを、「強いやつ」として認識しているのだろう。
逆に言えば今まで戦った敵にはその認識が無かったということだ。それはそれで凄いことだが……。
「そう言えば碧、桃子ちゃんはどうしたんや? 夜間学校の授業参観か?」
「そんな複雑な事情の母親じゃないぞ! 単に残業してるだけだ。ちょっと広告制作でな」
鳥羽部長に広告制作をやり直させたことで彼女は残業になっており、自分の仕事を終えた俺だけが退勤後に基地に来ているというわけだ。あれはふざけた部長が悪い。うん確実に。
「桃子さんがいないと少し静かね。まるで古典の授業中のようだわ」
「それは寝てるだけじゃないのか? いやむしろ部長がいるとうるさすぎるんだと思うが」
「俺はあの部長気に入ってるぜー! 俺とよく逆立ちで坂の上にある酒田さんの家までダッシュしてるぜ!」
「逆立ち坂ダッシュ酒田するな! そんなシュールすぎる競走をしてるのか!? 普段から!?」
「酒田さんと言えば以前私が星占いをしてあげたことがあるわ。もうすぐ奥さんが不倫するけど、相手が実の息子さんだって」
「家庭内でドロドロさせるな! なんだそのめちゃくちゃな占いは!」
「酒田さんはこないだワシと将棋してくれたなあ。ワシのボロ負けやったから悔しいわ」
「なんでお前らは酒田さんと交流があるんだ!? 誰だ酒田さんって!」
「ほんで酒田さんは」
「酒田さんはどうでもいい! ケイシマンの話をしろ!」
本当に誰なんだ酒田さんとは……? 何故か俺以外の面々と交流があるが、俺は名前すら初めて聞いたぞ? いつの間に交流してるんだ?
そんな時、基地にサイレンが鳴り響く。ホーテーソク団の怪人が出た合図だ。
「噂をしてたら出たで! 酒田さんや!」
「怪人だろう! 酒田さんの出没でサイレンを鳴らすな!」
「場所を割り出す! 黄花が好きそうなアンティークなティーセットを置いてる店は……」
「あらいいわね。そこに寄り道しましょう。3日ぐらい」
「そんなことしてる場合か! いいから行くぞ!」
「よっしゃー! 出動だー!」
俺たち3人は基地の外に向かって走り出す。虹色の空間に入り、走り抜けた先はトレーニングジムだった。
そこには、ケイシマンと同じくらいムキムキの怪人がひたすらスクワットをしている姿があった。
「おお! よく来たねハシレンジャーのみんな! 今日は僕のトレーニング体験会に集まってくれてありがとう!」
「そんなものに集まった覚えは無いぞ!」
「なんだい? せっかく集まってくれたのに、僕の言うことを聞いてくれないのかい? なら僕の筋肉の言うことを聞いてもらおうかな! ほら腹斜筋のエリザベス! 挨拶を!」
「どんな名前だ! ホーテーソク団では筋肉に名前を付けるのが流行ってるのか!?」
そう言えばケイブマンも腹筋に名前を付けていたな。ケイシマンもキャラ的に付けてそうだ。気の抜ける相手ばかりだな……。
「危なそーなやつだなー! おめーら、行くぜ!」
「ハシレチェンジ!」
3人同時にハシレチェンジャーのアクセルを回すと、俺たちの周りを3色のタイヤが回り出し、俺たちはハシレンジャーにチェンジした。
「赤い暴走! ハシレッdうわあ!」
名乗り始める前に、レッドの上に巨大なバーベルが降って来る。
すると俺の方にもバーベルが出現し、俺たちは強制的に筋トレをさせられる格好となった。
「さあ! まずはこの重さから始めるよ! 音楽に乗って上げていこう! ミュージック、アラート!」
「危険そうな音楽だな!」
よく見るとイエローだけイーゼルを上げていて、俺たちより遥かに楽そうだ。それはどうでもいいが、このバーベル重すぎるぞ!? ハシレンジャーの姿でこれだけ重いということは……何kgあるんだ!?
「ちなみにこのバーベルは42.195tあるよ! 頑張ってね!」
「フルマラソンみたいな重さ! 中途半端な数字だな!」
——というわけで、俺たちは筋トレをさせれている。トレーニーマンはスパルタ式で、俺たちをトレーニングから解放する気は無いようだ。
どうにかして抜け出さないとな……。




