第49話 ハシレイを探せ!
……おかしい。ここ1週間ほどハシレイの姿を見ていない。いや、見ていないどころか声すら聞いていない。ハシレチェンジャーへの通信すら来ないのだ。
ハシレイが自由なやつであることは重々承知だが、ここまで姿を見せないのは不自然だ。いつもなら「おうおうお疲れさん! どうや? 最近の日経平均株価は?」とか言って基地に顔を出すはず。何かあったのか? それとも、何かをしているのか……。
流石に仲間たちもおかしいと思い始めたようで、それぞれハシレイを探している。
「おーい! 司令ー! どこ行ったんだよー? うめー焼肉連れてってやるから戻って来いよー!」
「そんなんで戻って来たらいいんだがな……。どこへ行ったのやら……」
「私のスプーンの裏占いによると、司令は出雲大社にいるわ」
「なんで島根にいるんだ! 早く戻って来させろ!」
「ハシレイちゃんっていうんだが、どこかで見ていないか? フルフェイスのヘルメットを被って、首輪に『闘球』って書いてあるんだが」
「迷いラグビー部の探し方やめてください! ……なんですか迷いラグビー部って!」
こんな調子だ。見つけることよりそれぞれボケることに尽力しているのだから、見つかるはずもない。いや、本人たちは至って真面目なのかもしれないが。1番信憑性があるのが黄花の占いというのが悲しいな……。
しかし本当にハシレイのやつはどこへ行ったんだ? 今までこんなことは無く、大体いつも部屋で高校野球だか高校クリケットだかを見ていたのだが……。
基地に戻って来た俺たちは、ソファに座って頭を抱えていた。
「あーもう! これじゃシャチが明かねー!」
「埒だろう! 急に海の生態系の頂点に立つな!」
「なんとかして司令を見つけよーぜ! なんだっけあの、グランピング?」
「ダウジングのことを言ってるのか!? そんなんで見つからないだろう! ハシレイは金属か!」
「じゃあ私はチューニングするわ」
「ギターを弾くな! 何を演奏するつもりだ!」
「それはあれよ、『KYUURI』とか」
「なんだそのカッパのロックンロールは!」
「カッパンロールよ」
「知らない言葉を作るな! 新手のロールパンみたいになってるじゃないか!」
相変わらずの紅希と黄花だが、珍しく鳥羽部長は真面目な顔で考え込んでいる。流石に自分がハシレンジャーに加わった途端、ハシレイがいなくなったことは気がかりなのだろう。
「うーむ……どうすればオリンピックを淡路島に誘致できるんだ……」
「めちゃくちゃどうでもいいこと考えてた! 淡路島じゃオリンピックはキャパオーバーでしょう!?」
「何を言ってるんだ! 淡路島には牧場があるんだぞ!」
「だから何なんですか! オリンピックと1ミリも関係無いでしょう!?」
「バター作り競走日本代表チームはどうなるんだ!」
「知ったこっちゃないです! 日本代表を独自に組織したそいつらが悪いですよ!」
「せやせや。せめて新潟代表くらいに留めとかんとな」
「淡路島は兵庫だ! 新潟のは佐渡ヶ島だろう!? ……はあ!? ハシレイ、お前いつの間にいたんだ!」
俺たちが言い合っている間に、どこからか現れた黒いフルフェイスヘルメットの男が指定席のデスクに座っていた。
全く気が付かなかったぞ? いつどこからどうやって現れたんだこいつは!
「司令、唐突にもほどがあるわね。今までどこに行ってたのかしら?」
「ああすまんすまん。何も伝えとらんかったか。ワシは出雲大社に行っとったんや」
「黄花の占いが当たってるじゃないか! 何しに行ってたんだそんなところ!」
「出雲大社って神さんが集まらはるやろ? それに託けて『紙フェス』っちゅうのをやってたんや」
「かみ違い! ややこしいフェスだな!」
「司令ー、それはどんなフェスなんだー?」
ハシレイはヘルメットのバイザーを上げ、顔を手で仰ぎながら語り始めた。
「それはそれはもう凄いフェスやで! 世界中の紙製品が集まってるんや! 紙おむつや紙パンツ、紙袴まであったんやで!」
「なんで下半身に履くものばっかりなんだ! 紙袴とか落ち着かないだろう!?」
「ほんで自分らにもお土産を買うて来たんや。ほら、紙でできた神様ヘアーのウィッグや。おまけにガムも付いてるから口に入れても大丈夫なんやぞ」
「紙神髪噛み!? どんなややこしいものを買って来たんだお前は!」
「でや。そんなんはどうでもええねん。紅希、碧、ワシに話さなあかんことがあるんちゃうか?」
急に真面目なトーンになったハシレイの声で、俺たちの間に緊張が走る。
そうだ。俺たちはハシレイに報告しなければならないことがある。先日のケイシマンのことだ。
「さあ言うてみい。どんな落語を聞かせてくれるんや?」
「誰がこのタイミングで小噺をするんだ! そんなんじゃない! 俺と紅希が新たな幹部に会った話だ!」
俺の発言に、黄花と部長は立ち上がって驚いた様子を見せる。そう言えばこの2人にも言ってなかったか。
「信じられないにもほどがあるわね。なんでそんな大事なことを今まで黙っていたの? 私の故郷がアルジェリアだから?」
「お前の故郷はナイジェリアじゃなかったか!? いやナイジェリアでもおかしいけれども!」
「私も初耳だ。まさか指にワセリンを塗ると間違って接着剤が付いても指がくっつかないなんて」
「そんな話はしてません! 接着剤好きですね!?」
「碧、どんな幹部やったか話してくれるか?」
ハシレイは改めて俺たちをソファに座らせる。俺はハシレイと仲間たちに、ケイシマンと出会った時のことを話した。