第4話 基地にて
「暴走戦隊! ハシレンジャー!」
ドッゴオーン!
「ぎゃああああああ!!」
今日も今日とて名乗りの爆発で怪人を倒した俺たちは、基地へ戻って体を休めていた。
「いやあー、今日も気持ちよく勝ったな! このまま名乗り続けてれば、ホーテーソク団なんて一瞬で解説させてやれるぜ!」
「壊滅だろ! ホーテーソク団の専門家になってどうする!」
「でもそろそろ火薬にバリエーションを出したいわね。へのへのもへじの花火を仕込むのはどうかしら?」
「間抜けな花火を仕込むな! そんなのはクールじゃない!」
「なら扇風機の花火にしようかしら。これならクールじゃない?」
「無理やりクールにしようとしないでもらえるか!? 扇風機の形をしていても花火は花火だからな!?」
「黄花、そこは保冷剤の花火にした方がいいと思うぜ!」
「形の問題じゃない! 花火をやめろと言っているんだ!」
俺はもう流石にこいつらが大バカだと気づいていた。もちろんこの会話だけでもこいつらがバカだと分かるが、それ以上に行動もバカなのだ。
紅希は戦闘が終わって基地へ帰って来ると、肉をおかずに肉を食う。しかもひき肉をおかずに塊肉を食うのだ。せめて逆だろうと思わされた時点で、紅希のペースに飲まれてしまっているのだろう。
黄花は基地でずっと紅茶を飲んでいる。ティーカップで飲んでいる時はいいが、容器がいつも違うのだ。湯のみにワイングラス、ジョッキなんて可愛いもので、ピッチャーやメスシリンダーで飲んでいることもある。
メスシリンダーに関しては体積を測る道具なのだが、黄花はそれを分かっているのだろうか。初めてメスシリンダーから紅茶をぐいぐい飲んでいる姿を見た時はギョッとしたものだ。
そして俺はもう一つ大事なことに気がついていた。それは、俺しかツッコミ役がいないことだ。
……なんてことだ。俺はあくまでクールに生きることを信条としていて、バカにツッコミを入れることに使命感など覚えていない。
そんな俺が何故ツッコミ役を一手に担わなければならないんだ……。
司令官のハシレイも俺がツッコめるのを知ってどんどんボケてくるし、この基地に味方はいないのだろうか? 辛いものだ。
噂をすればそのハシレイが入って来た。
「おうおうお疲れさんみんな! お、紅希身長伸びたか? 前に見た時よりでかなっとるな〜」
「親戚のおじさんか! ほぼ毎日会っているだろう!?」
「黄花はまーた紅茶飲んどるんか。いっそのこと血液を紅茶にしてみるか? 飲みたい時にいつでも飲めるで」
「そんなことで人体改造するな! どこのヒーローが血液を紅茶にするために手術されるんだ!」
「碧はあれやな、左腕だけ太くなったな」
「なってない! 俺はテニス選手か! あとなんでサウスポーの前提なんだ!?」
ハシレイはデスクに座ると、フルフェイスヘルメットのバイザーを上げて話し始めた。
「順調に戦隊活動してるみたいやな! どうや? ここ最近の物価上昇は」
「それを俺たちに聞いてどうする! 戦隊の話はどこに行ったんだ!?」
「ああすまんすまん。間違えてしもうた。もう戦隊には慣れたか?」
ハシレイの問いかけに、紅希と黄花は大きく首を縦に振って答える。
「おう! もうバッチリ腫れたぜ!」
「慣れただろ! 角に頭でもぶつけたのかお前は!?」
「私も慣れたわね。ヒーローに適正があったみたい。やっぱり私がハシレンジャーになったのは、メデューサが導いてくれたからだわ」
「何に導かれてるんだ! 石にされて終わりだろう!?」
「それでも私の意思は固いわ」
「上手くないぞ……。それよりハシレイ、聞きたいことがあるんだが」
「なんや? 一次方程式の解き方か?」
「俺は中1か! そんなことじゃない! 今まで仕事の合間を縫って戦隊活動をしているが、生活はどうしたらいいか聞きたいんだ! 最近は怪人が出る度に早退しているし、会社に迷惑をかけている。そもそも俺は戦隊になることを了承していないし、このまま戦隊活動を続けるのならちゃんと給与を出して欲しいのだが?」
俺の言葉を聞いて、ハシレイはうんうんと頷いた。
「安心せえ。給与はちゃんと出す。図書カード500円分でどうや?」
「読書感想文で賞でも取ったのか!? ちゃんと生活できるだけの金を出してくれ!」
「分かっとる分かっとる。自分らの戦隊活動にはちゃんと給与は出す。家賃補助まで付けたるわ。あ、この基地に住む場合は家賃補助は出さんで」
その言葉に紅希が目を輝かせる。
「おー! この基地に住んでもいいのか? だったら俺住みたいなー! 今住んでる家は風通しが良すぎるんだよなー」
「紅希お前……今どんな家に住んでいるんだ?」
「ん? 家って言うか椅子なんだけどな。公園の中にある個室で、白い椅子に丸い穴が空いてんだ。水も流れるぜ!」
「それはトイレじゃないのか!? なんでそんなところに住んでいるんだお前は!」
「あー、前まで住んでたアパート追い出されちゃってさ! 壁にびっしり肉って書いただけなのによー」
「どんな呪いだ! せめて教科書に載っている偉人のおでことかにしておけ!?」
ダメだダメだ。こいつらにペースを崩されてしまっている。俺はあくまでクールに振る舞わなければならないんだからな。
「給与が出るのはいいけれど、どれくらいもらえるのかしら? 私はお父様のカードがあるからそんなには要らないけれど、そこのトイレ在住の二人には要るんじゃないの?」
「俺はトイレに住んでない! ちゃんとマンションに住んでるぞ!」
「そーだそーだ! 俺だってちゃんと家に住んでんだからな! 個室だし!」
「お前はトイレで合っているだろう!」
ハシレイはヘルメットのバイザーを触りながら、黄花の問いかけに答えた。
「基本給が25万で家賃補助が5万や。単位はウォンでいいか?」
「いいわけないだろ! 十分の一くらいまで減ってるじゃないか!」
「しゃーないなあ。ほな円で渡すわ。そんなことより自分らに伝えなあかんことがあってな。実はハシレンジャーのスーツには隠された能力が……」
ハシレイがそこまで口走った時、基地にサイレンが鳴り響く。
「あかん! またホーテーソク団や! ハシレンジャー、頼むで!」
「おう! 小舟に乗ったつもりでいてくれよな!」
「もう少し大きめの船を出せるか!?」
「さあ行くわよ二人とも。今日の爪ヤスリ占いでは、私たちが勝てると出ているわ」
「何で占いをしてるんだお前は!」
俺たちは怪人が現れた場所へ向かって走り出した。