第33話 激突!ケイブマン!
「さあ、おいでヨ碧くん……」
ジリジリと近寄って来るケイブマン。俺は少しずつ後ろに下がりながら、黄花の方に視線をやる。
(黄花、聞こえるか?)
(ええ、聞こえているわ。早速この能力を使うことができてテンションも上がっているわよ。日本舞踊とか踊り出してもいいかしら?)
(テンションの上がり方が特殊だな! いいから一度話を聞け!)
脳内で黄花と会話をする。この間のハシレイの実験は二度目で成功しており、黄花はテレパシーを使えるようになっていた。
(お前、本当に自分からここに来たのか?)
(ええそうよ。タクシーを乗り継いでね)
(なんで乗り継いだんだ! 1台で来られるだろう!?)
(そんなことはどうでもいいわ。何が言いたいの?)
「どうしたんダイ碧くん? 何か考えているようだケド。さては坐禅のシミュレーションをしているネ?」
「そんなわけあるか! シミュレーションが1番必要無い行為だろう!?」
「はは、そうだネ。ザーゼン」
「サーセンみたいに言うな! やかましいぞお前!」
ボケてくるのが逆に不気味だな……。ケイブマンの狙いが分からない以上、とりあえず黄花を早く引き戻さなければ。人数はいるに越したことはない。
俺は再び黄花に思念を送る。
(黄花、お前実は紅希を助けに来たんじゃないのか?)
(……よく分かったわね。紅希は今ケイブマンに洗脳されているわ。でもそこのケイブマンには一人じゃ勝てないと思ったのよ)
(やはりな。よし、なら俺が合図を送るまでそのまま女将のフリをしていてくれ。恐らく紅希の洗脳を解くのに1番手っ取り早いのは、こいつを倒すことだ。しばらくは俺が引きつけるが、合図をしたら背中から刺すんだ。不意打ちで倒すぞ)
(了解よ。合図はほら貝でいいかしら?)
(戦か! 普通に『今だ!』とか言うから大人しくしてろ!)
脳内でツッコミを入れる俺に、ケイブマンが更に近寄る。
「だーいじな話があるんダ。さあ碧くん、大人しくボクのところへおいでy」
「ハシレチェンジ!」
ハシレチェンジャーのアクセルを回し、そのままケイブマンに向かって走り出す。拳を振りかぶった頃には、俺の姿はハシレブルーに変わっていた。
俺の拳がケイブマンの下腹に突き刺さる。
「うぐおあッ! い、いきなりとは物騒だネエ……。ボクとやるつもりカイ?」
「ああ、1人でもやってやる。俺は正義のヒーローだからな」
「クサいネエ……。そっちがその気なら、こっちも本気を出さないとネ!」
「おい、いいのか? さっきからしめ鯖握りがお前を待ってるぞ」
「オオ、本当だネ! 早く食べないト! いただきマース!」
カウンターで寿司を食べ始めたケイブマンの頭を狙って、俺は銃の引き金を引いた。
「ギャアアアアア! 何をしてるんダイ!」
「そっくりそのまま返すぞ! よくこの状況で寿司の方に行けるな!?」
「よくもやってくれたネ! キミも洗脳して、ホーテーソク団の発展に役立ってもらうヨ!」
怒りに任せてこちらに走って来るケイブマン。俺は黄花に目配せし、叫んだ。
「今だ!」
「ハシレチェンジ!」
ハシレイエローがケイブマンの背中に飛びかかり、両手に持ったダガーを突き刺した。
「イダアアアアアア! 黄花チャン!? キミはこっち側じゃないのカイ!?」
「低脳にもほどがあるわね。私がホーテーソク団側につくわけがないでしょう。さあ、紅希を返してもらうわよ」
珍しく格好良いセリフを吐く黄花に少しの感動を覚えながら、俺はケイブマンの脳天に銃を突きつける。
「観念しろ。ノコノコ出て来たのが間違いだったな。紅希の洗脳を解け」
「……だヨ」
「なんだ? 何を言った?」
「暴行、公務執行妨害、銃刀法違反、食事中のマナー違反で現行犯逮捕だヨ!」
「最後のは罪なのか!?」
ケイブマンは三角形に尖った両目から、突然何かを発した。ズシンとGがかかったような感覚を覚え、俺とイエローは圧に押されて床に手をついてしまう。
「ホーテーソク団お手製の牢屋にぶち込んであげようネエ。ボクに本気を出させたことを後悔させてあげヨウ! 覚悟しなy」
「あーもうやってられっか! こんなもんこーだ!」
カウンターの奥から大きな声が聞こえたかと思うと、ケイブマンに向かって銀色の大きな物体が飛んで来る。
ケイブマンが振り向いた時には、既に遅かった。銀色の物体はその顔面に突き刺さり、そのままケイブマンは仰向けに倒れた。
「これは……マグロね」
「紅希か? お前洗脳されていたはずじゃ……」
嫌そうに両手を振りながらいつもの服装の紅希が出て来る。
「洗脳? あーなんか突然魚を握りたくなったのはそれか! でも俺魚肉は専門外だからよー、だんだん気持ち悪くなってきて投げちまったぜ!」
「バ、バカ……な……自力でボクの洗脳を……?」
「そこまで魚が嫌いかお前は……。まあお前が無類の肉好きかつ魚嫌いで良かったぞ。ケイブマン、どうする? 俺たちをどうにかしようとしていたみたいだが?」
「クッ……今日のところは退散ダヨ! 今度来る時は高原に呼び出すからネ!」
「おい口駒高原するな! 絶対するなよ! 振りじゃないぞ!」
なんとか立ち上がったケイブマンの背後にモノクロの渦巻きのようなものが現れ、ケイブマンはその中に消えて行った。
「おー! 追い払ったぜ! ババア見ろバーカ!」
「ざまあみろだろう! なんで老婆を見ることを強要する!?」
「結局ケイブマンは私たちに何をする気だったのかしらね。ダンス&コーラスユニットとして売り出すとかかしら」
「そんなわけあるか! なんでメインボーカルはいないんだ!」
バカ全開の仲間たちだが、取り戻すことができて良かった……。
今回の件で分かったことがふたつある。ひとつは、ケイブマンが俺たちに何か提案しようとしていること。
そしてもうひとつは、本物の紅希もマグロを投げるということだ。ケイブマンの変装は、あながち間違っていなかったようだな……。
魚臭い両手を必死でアルコール消毒する紅希を見てため息をつきつつ、俺はほっと胸を撫で下ろした。
「ハシレブルー、やるネ……。だけどボクの本気はこんなものじゃないヨ。やはり狙うべきはハシレッド……。彼一択だネ……」