第3話 出動!ハシレンジャー!
「ほな早速出動してもらうで! このハシレチェンジャーを付けるんや!」
そう言うとハシレイは俺たち三人に何かを投げ渡してきた。
キャッチしたそれを見ると、ブレスレットにバイクのハンドルのようなものが付いている。
「おー! こいつでチェンジするんだな!」
「待て、まだ話は終わってn」
「このハンドルでアクセルを回せばチェンジできるのね? 良いじゃない、暴走戦隊ハシレンジャーっていうだけはあるわ」
「少し聞いてもらえるか!?」
俺の話を全く聞くことなく紅希、黄花の二人は出動しようとする。
「何してんだよ碧! 俺たちは三人揃っての戦隊だろ? 早く出動しようぜ!」
「なんですんなり受け入れられるんだ! 勝手に仲間に加えるな!」
「わがままにもほどがあるわね。そんなにわがままだと、雷様に目玉を取られちゃうわよ?」
「そんなえげつない雷様がいるか! お前はわがままを何だと思ってるんだ!」
「さあハシレンジャー! 出動や!」
「聞け!!」
結局ハシレイは俺の左腕に無理やりブレスレットを装着し、俺たちの背中を押した。
すると周りの景色がまた虹色に変わり、気づくと俺たちはさっきまでいた場所に戻って来ていた。
さっきよりも酷い有様だな……。戦闘員らしい白い全身タイツの男たちが、人々を押さえつけて連行している。リーダー格らしいロボットのような怪人は、腕を組んで頷きながらその様子を見ているようだ。
その光景を見た紅希が突然飛び出した。
「おいこら怪人! 俺たちが相手ひでゃぶ!」
「噛むな!! 威勢良く出て行ったのは何だったんだ!!」
怪人はこちらをギロリと睨みつけ、腕を組んだ姿勢のまま答えた。
「なんだ貴様らは? 我々の計画の邪魔をするというのか?」
「俺たちは暴走戦隊ハシレンジャー! お前たちの野望を止めにきてゃぼふ! 俺たちの強さに震えてねみゅりぇみまみかみました!」
「噛み過ぎだろう!? お前実は緊張してるな!?」
「いくぜお前ら!」
「おい仕切るな! そもそも俺はまだ了承していない!」
「うるさいわよ碧。いいからお色直しするわよ」
「結婚式か! チェンジのことをお色直しと言うな!」
黄花に背中を押されて紅希に並んだ俺は、仕方なくハシレチェンジャーのハンドルに手をかけた。黄花は俺の反対側に回り、紅希を挟む格好だ。
俺たちがハンドルを回すと、エンジンがかかったような音が鳴る。
そのまま俺たちは叫んだ。
「ハシレチェンジ!!」
すると俺たちの周りを赤・青・黄のタイヤが回り出す。青のタイヤは足元から頭にかけて俺の体の周りを回り、気づいた時には俺の体には青いスーツが着せられていた。
特攻服がモチーフなのだろうか、襟付きのスーツにグローブが嵌められ、足はブーツで覆われている。顔を触ると、小ぶりなフルフェイスのヘルメットが被せられているようだ。
右に並ぶ二人を見ると、色は赤・黄と違うがほぼ同じスーツを身に纏っている。黄花のスーツだけはスカートが付いていて、女性戦士と分かるようになっている。
本当にチェンジしたぞ……。おい、俺はこのままヒーローになってしまうのか?
そんなことを考えていると、紅希が再び叫んだ。
「赤い暴走! ハシレッド!」
名乗りまでやるのか……。待て、次は俺の番か? 何て名乗るのが良いんだ? いやいや、そもそも俺はヒーローになんて……。
「おい碧! 名乗りだぞ! 早くお前のキャッチフレーズを叫べ!」
「キャッチフレーズと言われても……。これが初チェンジなんだから分からないが」
「真面目だなぁお前! じゃあ俺が決めてやるよ! ブルーだから……青カビが生えたチーズ! とかどうだ?」
「誰がブルーチーズだ! ああもう、じゃあこれでどうだ!」
やけになった俺は腕を組んでポーズを決め、腹の底から声を出した。
「青い突風! ハシレブルー!」
「おー! 良いじゃん! 黄花はどうだ?」
「私はこれね。黄色い光! ハシレイエロー!」
黄花が名乗り終わると、紅希は右腕を高く上げた。
「エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
俺と黄花は紅希の横に並び、再びポーズを決める。
「ハシレンジャー!!」
名乗りと同時に背後で大爆発が起こる。これも定番とは言え、突然爆発するのはやめて欲しいものだ。
「おっ……?」
爆発が起きた時、紅希——ハシレッドが何か思いついたような声を漏らした。
何を思いついたのか知らないが、とりあえず敵を倒すことに集中して欲しいものだ。
「ハシレンジャーだと? 貴様ら、我々に歯向かうつもりか!」
「その通りだぜ! 俺たちはお前らにはにかむ!」
「恥ずかしがってどうする! ああもう、とにかく行くぞ!」
俺が走り出そうとすると、レッドが右腕で俺の動きを制する。
「いやちょっと待てブルー! 俺はとってもいいことを思いついたぜ!」
「あら、唐突ね。悪魔のおにぎりを召喚する方法でも思いついたのかしら」
「カロリーの高そうなおにぎりを召喚するな! ……まあいい。レッド、何を思いついたんだ?」
俺が聞くとレッドはくるりと振り返り、俺たちの後ろを指差した。
「爆発だよ! あれを使って敵を倒すんだ!」
「爆発……? 名乗りの時のか?」
「そー! 今のところ俺たちが名乗ると爆発が起きるってことが分かってるだろ? ならそれを最大限使うって話だ!」
「おい、そんなアホな戦隊があるか!? ずっと名乗り続けるということか!?」
「いいじゃない。今のところその戦略が1番効率がいいわ。なんならお父様に連絡して、火薬を追加で買っておきましょうか?」
「余計なことをするな! 何故そんなことができる金がある!?」
「あら、だって私の家はあの宗院財閥よ。お金なら小川のようにあるわ」
「あまり無さそうな例えだが!?」
「よーし! ブルー、イエロー! 行くぜ!」
俺たちはまず戦闘員たちの前に立つと、奴らに背を向けて再びポーズを決めた。
「暴走戦隊! ハシレンジャー!」
ドッゴオーン! 大爆発が起きる。
「ぎゃああああああ!!」
戦闘員たちが宙に舞う。
「暴走戦隊! ハシレンジャー!」
ドッゴオーン!
「ぎゃああああああ!!」
「暴走戦隊! ハシレンジャー!」
ドッゴオーン!
「ぎゃああああああ!!」
「暴走戦隊! ハシレンジャー!」
ドッゴオーン!
「ぎゃああああああ!!」
俺たちはあっという間に戦闘員たちを殲滅した。こんなんでいいのか? こんなのはクールじゃない……。いや、実際いきなり戦えと言われても困るのは困るのだが、名乗りの爆発で敵を倒す戦隊など未だかつていただろうか?
「さあ! 後はお前だけだぜ怪人!」
「ふん! 貴様らなどに我々ホーテーソク団が負けるものか! 我が名はジュンバンマン! あらゆることに順番を付け、貴様らを地獄に落とs」
「暴走戦隊! ハシレンジャー!」
ドッゴオーン!
「ぐあああああああ!! せめて最後まで喋りたかったああああ!!」
爆発を背に立ち、俺たちの初戦闘が終わった。いや、戦闘はしていないが。ただ連続で名乗っていただけだ。
しかしこんなことで勝って良かったのだろうか……? 何度も言う、こんなのはクールじゃない……。そもそも俺はヒーローになるつもりなんて無かったのだが……。
まあなってしまったものは仕方ない。このバカレッドと天然イエローみたいにならないよう、せめて俺だけはクールなヒーローを目指すんだ。
……ん? だが会社はどうする? この戦隊としての活動に給与は出るのか?
ちょっとその辺をあのハシレイに問い詰めなければ……。
「よっしゃ! 勝ったぜ! さー、基地に帰って牛脂食うぞ牛脂!」
「牛脂を単体で食べるな! せめて肉を持って来い!?」
「牛脂って何かしら? 私A5サイズのお肉しか食べないから」
「A5ランクだろ! なんで文庫本みたいな肉を食べるんだお前は!」
——これが俺たちの初戦闘だ。この時俺は、自分の仲間がバカだと知った。ここから俺たちハシレンジャーのホーテーソク団との戦い、そして俺のバカメンバーとの戦いが始まった。
しかしこいつらがバカなのは戦闘中だけじゃない。むしろ戦闘が終わってからの方がバカだ。
あれはいつだったか、とある怪人を倒した後のことだ——。