第25話 占いの館
「占いの館は……ここか?」
黄花の送ってきた地図に従って歩くと、人通りの少ない路地に出た。いかにも怪しい場所だが、インチキ占い師がいる場所としては相応しい。
黄花の姿が見当たらないが……とにかく入ってみるか?
俺が占いの館のドアを開けようとした瞬間、俺の手に誰かの手が重なった。
顔を上げると、黒いベールをした女がこちらを見ながら立っている。
こいつか、怪しい占い師というのは。怪人なら倒す、ただの詐欺師なら通報。どちらにせよ今日で終わりだ。
「やああああっふううううう!! どーーーーしたんだい迷える子羊くうううん! 私の占いに導かれに、来たのかあああああい!?」
「おおう!?」
予想外のキャラとテンションにドン引きしてしまう。占い師というのはもっとこう、ミステリアスな雰囲気を醸し出しているものではないのか? これならまだ黄花の方が占い師っぽいぞ。
「さああああさああああ! 入って私の占いを受けるんだあああ! ちなみに君には明日幸運が訪れるよおおおお! 四葉のタクシーを見つけられるううう!」
「しょぼいな幸運が! そんな幸運なら要らないぞ!」
「なーーーーーにを占って欲しいんだーーーーい!? 遠慮せず言ってごらあああああああんよおおおおお!」
うるさすぎるぞこいつ……。いや確かに怪しいのは怪しいが、本当に黄花が言っていたのはこいつか? 想像していた占い師と違いすぎるんだが……。
そんな時、黄花が呆れた顔でこちらに歩いて来るのが見えた。
「碧、何をしているの? 騒がしいにもほどがあるわね」
「お前が送ってきた地図通りに来たら、こんなのに捕まったんだ! お前が言っていた占い師はこいつで合ってるのか!?」
「やれやれね。その人は私が言った怪しい占い師ではないわ」
「ならこいつは何なんだ! 占い師のテンションじゃないぞ!」
黄花は一度ため息をつき、俺を掴んでいる占い師を引き離した。
「この人はハイテンション占いのシャウト高山さん。占い師らしからぬハイテンションで占ってくれるのがクチコミで好評の人よ」
「本当に好評なのか!? ちょっとうるさすぎるぞ!」
「ちなみにアロマ占いを得意としているわ」
「キャラと合ってないぞ! アロマに集中できないだろう!?」
「この辺りは占いの館が多いのよ。ほら、この隣も占いの館。向かいも占いの館。2軒挟んで3軒連続で占いの館」
「なんで占い激戦区なんだ! どこで占ってもらえばいいか占って欲しいレベルだぞ!」
なんでこんなところがあるんだ……。占いに興味が無かったから知らないだけなのか? インパクトが強すぎるぞ。
「とにかく、シャウト高山さんは置いておいて、問題の場所へ行くわよ」
「あ、ああ。案内してくれ」
「まあああああた来いいいいいてねえええええ!!」
「うるさい! 占い師ならもう少し落ち着け!」
先導する黄花の背中を追って歩き出す。占い好きだけあって、迷うこと無く進んでいるようだ。
「迷ったわ」
「何をしてるんだお前は! すいすい行ってたじゃないか!」
「だってこの辺り占いの館が多いんだもの。こんな激戦区に館を構えるなんて、浅はかにもほどがあるわね」
「そこに文句を言っても仕方ないだろう……。地図を見ろ地図を!」
「ああ、その手があったわね。早く言いなさいよ」
「むしろ何故見ないんだ! 意味が分からないぞ!」
再び歩き出した黄花の背中を追う。ちなみに、紅希にはチャットしたがまだ既読が付いていない。だからハシレチェンジャーで連絡を取りたいと言うのに、何故あいつはチェンジャーの存在を忘れてるんだ……。
「着いたわ。ここよ」
黄花の指した占いの館を見ると、看板には「占い、始めました」と書いてある。
「冷やし中華か! そんなノリで占いをするな!」
「何をしているの碧、入るわよ」
躊躇無くドアを開ける黄花に急かされ、俺は慌てて館へと入った。
「アナタノ明日ノ運命ハ、大凶デース!」
「なんでだよー! 俺はただ肉にありつきてーだけなのによー!」
そこには既に何かを占ってもらっている、赤いレザージャケットを着た男の姿があった。
「紅希……。何をしている!?」
「おー! 碧に黄花じゃねーか! 俺はよー、明日肉にありつけるか占ってもらってたんだー! あと仕事を見つけられるか」
「最後だけ深刻だな! お前、占いとか信じるタイプだったのか?」
「いやー占いって何か知らなくてよー、飲食店かと思って入ったら大凶とか言われて困ってるぜ!」
「黄花、近くに本屋はあるか? 国語辞典を買いたい」
「本屋は無いけれど、美味しい紅茶を出すカフェならあるわよ。みんなで行く?」
「今行くわけがないだろう!」
全く、こいつらは本当に何をしているんだ。ホーテーソク団の怪人かもしれない相手を目の前にして、のんびり占いをしてもらったりカフェに行こうとしたり……。相変わらず俺の仲間は偏差値が低い。
……いや、そんなことを言っている場合ではない。この占い師が怪人かどうか確かめなければならないんだった。
「アナタタチも占いマスカ? このおみくじを引いてクダサーイ」
「なんでその話し方で占い方がおみくじなんだ! タロットとかじゃないのか!?」
「碧、とりあえず占ってもらいなさいよ。その間にこの占い師がどう怪しいのか話すわ」
「本人の目の前でか!?」
「ええそうよ。占い師なら怪しいと言われるのなんて慣れっこでしょ?」
「そういうものなのか……」
俺は仕方なく占い師の前に座る。同時に黄花が話し始めた。