第18話 広告、完成?
「なるほど、それは大変だったな」
俺は鳥羽部長に基地でのエアコンを巡るドタバタ劇を話していた。
あれだけ苦労させられて、最後には普通にエアコンが設置されたのだ。多少愚痴を言いたくなるというものだろう。
「しかし冷凍肉を触るのはいい涼み方かもしれないな。私も今度やってみよう」
「やらないでもらえます? すぐ影響されないでくださいね……」
「やはり紅希くんと黄花くんの発想には驚かされるな。涼むために肉を使うなんて、目から塩タンだ」
「鱗じゃなくてですか!? 掠ってもないでしょう! 肉に引っ張られすぎです!」
「肉に引っ張られるというのは何とも新鮮だな。普段は肉を引っ張る側だというのに」
「普段肉引っ張ってるんですか!? 何が目的なんです!?」
「いや、引っ張るとなんだかストレス発散になるだろ? 最終的に引きちぎってしまうから、それをフライパンに放り込むんだ。包丁を使わなくて済むし、スッキリもするしで一石二鳥だ!」
「もしかして前世がゴリラだったりしますか?」
全く、相変わらず部長の相手は疲れるな……。元々部長と話す時にツッコミ役にされるのが今までだったが、ハシレンジャーになったことで紅希、黄花、ハシレイの3バカの相手もしなければならなくなった。
俺はクールでいたいだけなんだが、何故ツッコミを強要されているのか……。こんなのはクールじゃない。俺の目指す人物像とは大きくかけ離れてしまっている。
どうにかしてクールな俺を取り戻さなければな。
「そういえば橋田、お前を使った広告なんだが……」
「そういえばそんなの作るって言ってましたね。まだ何も撮ってないですが、どうするんです?」
「ん? 素材ならこの間撮ったぞ? それを使って動画広告を作ったんだ。見てくれないか?」
「……はい? 俺は撮られた覚えなんて無いんですが?」
「何を言ってるんだ。基地でエナジードリンクを飲んだだろ? それに水族館での戦闘の時は私もいた。あの時十分素材が撮れたんだ!」
いつの間に動画を回していたんだ……。全く気が付かなかったぞ?
まあでも確かに、基地でエナジードリンクを飲んだ時とトレーナーマンとの戦闘なら、自然な俺が撮れているはずだ。変に演技をさせられなくて良かったと思おう。
「なるほど、あの時撮ってたんですね。では早速広告を見せてもらえますか?」
「よし! じゃあ再生するぞ! テレビに注目してくれ!」
部長がテレビのリモコンを取り出し、画面に向かってボタンを押した。すると画面に俺と紅希、黄花の姿が映し出される。画面の中で俺たちは、一斉にエナジードリンクの缶を開けて口をつけた。
『うおー! なんか力が湧いてくるぜ! 今なら牛30ダースは食えそうだ!』
『牛をダースで数えるな! 何故湧いてきた力を食べることに使う!?』
『私も今なら何でもできる気がするわ。試しに原付で高速道路に乗ってみようかしら』
『お前のパワーはどうか知らないが、原付には限界があるだろう!?』
『大丈夫よ。原付に限界が来たら自力で走るわ』
『なら最初から乗るな! 高速道路を自分の足で走るやつは見たことが無いぞ!』
「このシーンを使ったんですか……」
「そうだ! ハシレンジャーらしさが存分に出てるだろ?」
「俺はもっとクールな印象を与えたいんですが」
「まあまあそう言うな! 続きも見てくれ!」
鳥羽部長にそう言われ、俺は視線をテレビ画面に戻した。
『あーあー。皆さんこんにちは! ワシはハシレンジャーの司令官、ハシレオ・ハシレイや! 今のハシレンジャーのやり取り、どうやった? キレキレやったやろ! あんなキレキレのやり取りができるんもこのエナジードリンクのおかげ! さあ、自分らもエナジードリンクを飲んで、ハシレブルーみたいにツッコミを入れてみるんや! これで自分らもハシレンジャー!』
「なんですかこれは! なんでハシレイの長ゼリフが入ってるんです!?」
「ああ、君たちが戦闘に向かってしばらくは暇だったからな。司令官に協力して少し出演してもらった」
「少しっていうかメインこいつじゃないですか! いきなりこんな意味不明のフルフェイスが映ったらびっくりするでしょう!?」
「そうか? 私はフルフェイスのヘルメットを見ると安心するぞ」
「親がレーサーだったりしますか!?」
酷いなこの広告は……。何故よりによってハシレイがメインで出て来るんだ。俺を押し出すと言っていたのはどこに行ったんだ?
まあそれはいい。俺は自ら進んで広告に出たりしたくないからな。だが問題はチェンジ後の戦闘シーンが一切無いことだ。素材を撮ったと言っていたはずだが、何故ハシレイの長ゼリフで終わってるんだ?
「部長、ハシレンジャーの戦闘シーンは……」
「ああ、今の時代コンプライアンスが厳しいからな。モロに怪人を殴っていたから、戦闘シーンはお蔵入りだ!」
「戦隊全否定じゃないですか! 俺たちはエナジードリンクを飲んでボケとツッコミをするだけですか!?」
「ああそうだ! 立派なツッコミ役として、若手芸人たちのお手本になるんだぞ!」
「俺はツッコミの先生じゃありません! こんなのはクールじゃない……。作り直してください!」
「ええ!? なんでだ! よくできたと思ったのに!」
全く、部長の相手は疲れるな。うん? 冒頭でも同じことを言った気がするが……。まあいい。とにかく部長にはきついお灸を据える必要がありそうだ。
「鳥羽部長、俺たちは世界を守るために怪人と戦っているのであって、暴力を振るっているわけじゃ……」
そこまで言いかけたところで、スマホに通知が来る。スマホの画面に映っていたのは、文面からでも慌てていることが分かる紅希からのチャットだった。