第15話 魚肉は専門外!?
青暗い照明の下、落ち着いた空間に似合わない大きな声が響く。
「んだよー! 魚かよ! 魚肉は専門外なんだよ俺ー!」
「食う前提で話すな! なんでカエル肉やヘビ肉は良くて魚肉はダメなんだ!」
「だってよー、魚は食ってる時動き出すじゃんか!」
「ちょっと待て、お前まさか魚の踊り食いしかしたことが無いのか!?」
「他に食い方あるのかー? 俺知らねーぞ?」
「無知にもほどがあるわね。日本男児のクセにカルパッチョを知らないなんて」
「カルパッチョはイタリア料理だ! そこは寿司とかだろう!?」
相変わらずとんでもないなこいつらは……。そもそも水族館に来て魚の食べ方の話をしている時点で不謹慎極まりない。泳いでいる魚に謝るべきだと思うぞ。
それはさておき、怪人がいる場所に来たはずなのだが……。パッと見回した感じ、怪人はどこにも見当たらない。ハシレイのやつめ、適当な場所を送ったのか?
そう思った矢先、奥の方からスタッフが歩いて来るのが見えた。……いや、よく見ると帽子の下にある顔はロボットのような機械的な顔だ。お出ましか。
「みなさんようこそ! 魚肉水族館へ!」
「名前が不謹慎すぎるぞ! 今すぐ改名しろ!」
「ここにはたくさんのぎょに……お魚たちがいますよ! ぜひお名前を覚えて食べ……帰ってくださいね!」
「食べる気満々だろう!? 全然隠せてないぞ!」
よくスタッフの格好でそんなことが言えるな。ある意味悪の組織らしいと言えばらしいが。
しかし前から思っていたが、気の抜けた怪人が多いぞ。登場でズッコケさせに来ているのか?
「スタッフがいるのかー! なら案内してもらおーぜ! 俺でも食える魚肉があるか知りてーし!」
「だから食うな! いやスタッフの方が推奨している気がしないでもないが!」
「スタッフさん、持ち運びできる紅茶は無いのかしら? 言っておくけど私、純金のタンブラーしか使わないわよ」
「贅沢がすぎるぞ! なんだその趣味の悪いタンブラーは!」
なんでこいつらは怪人に気が付かないんだ……。黄花の言葉を借りるなら、勘が悪いにもほどがあるぞ。毎回俺が気づかせなきゃいけないのか。手のかかるやつらだ。
「紅希、黄花、落ち着いてあのスタッフの顔を見ろ。何か思うことは無いか?」
「おー! 目がパッチリしてて俳優みてーだな! 電球みたいに光って見えるぜ!」
「同感よ。四角い輪郭が昭和の大俳優を思い出させるわね。顔立ちもどこか人間味が無くて、無機質な雰囲気がミステリアスだわ」
「分かっていたがバカだなお前ら!? よく見ろ! 怪人だ!」
紅希と黄花は目を凝らしてスタッフの顔を見る。
「あらほんと、怪人ね。気づかなかったわ」
「ほんとかー? 俺よく見えねーぞ! 視力が0.04しかねーから!」
「お前そのキャラで目が悪いのか!? コンタクトを入れろコンタクトを!」
「うるさいにもほどがあるわね。いいから倒すわよ」
正体がバレた怪人は狼狽える様子を見せ、その場から立ち去ろうとする。
「逃がすかー! 行くぜおめーら!」
「ハシレチェンジ!」
俺たちの周りを3色のタイヤが回り出し、ハシレンジャーのスーツが装着された。
「赤い暴走! ハシレッド!」
「青い突風! ハシレブルー!」
「黄色い光! ハシレイエロー!」
「エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
「ハシレンジャー!」
俺たちの背後で爆発が起こり、その明かりで逃げる怪人の姿が照らされる。
「しゃー! 追っかけるぜー!」
レッドの声を合図に、俺たちはスタッフ風の怪人を追って走り出した。
距離にしておよそ20m。怪人も走っていることを考えると、追いつくのには少しばかり頑張らないとな……。そう思っている間に、俺たちは怪人に追いついていた。
「おー! なんかはえーぞ今日!」
「なっ!? ここまで走るのが早いとは聞いていませんよ!?」
「驚きにもほどがあるわね。私、ここまで早く走れたのね」
「ああ、俺も驚いているが……。恐らくさっき飲んだエナジードリンクのせいだろう。部長は何を仕入れてきたんだ……」
困惑しながらも、怪人を拘束する。俺が右腕、イエローが左腕を捕まえ、レッドが怪人の腹に思い切り拳を叩き込んだ。
「ぐああああ! ……なんて言うと思いました?」
「違うのかー! じゃあひょええええ! とかか?」
「叫び声の種類の問題じゃない! 効いてないんだ!」
怪人は不敵な笑みを浮かべ、拘束されたままの姿勢で口を開いた。
「私はトレーナーマン! 私の言うことに、あなたたちは逆らえない! 訓練を重ねて、ボスにハシレンジャーショーをお見せしましょう!」
水族館でトレーナーと言えば、イルカショーなんかに出るイルカを訓練するスタッフだ。芸を仕込んだり言うことを聞かせるのが仕事。そしてこいつの言い方だと、そのイルカに当たるのが俺たちハシレンジャーということか? もしそうなら、俺たちはこいつの言うことに逆らうことができない。
俺が思考を巡らせている中、レッドは首を傾げている。
「トレーナー? なんだそれー? 抑えピッチャーのことかー?」
「それはクローザーだ! 恐らくイルカショーやアシカショーのトレーナーだろう! つまり、あの怪人の能力は俺たちを従わせることだ!」
「厄介にもほどがあるわね……。それじゃあ、私たちは何もできないってこと?」
トレーナーマンは俺とイエローを順番に見てから、大きな声を上げた。
「ハシレブルー! ハシレイエロー! 私を離して足つぼマッサージをしなさい!」
「なんだそのセルフ罰ゲームは! 普通肩を揉ませるとかだろう!」
「でも確かに逆らえないわね。この怪人の言うことを聞かないと、どんどんお腹が空いていく気がするわ」
実際にトレーナーはご褒美に魚を与えることで芸を仕込む。俺たちも言うことを聞かないと、どんどん力が奪われていくシステムなのだろうか。
「ハシレッド! 逆立ちをして足でひとりジャンケンをしなさい!」
「いつもの紅希じゃないか! なんだその指示は!」
レッドは何も言わず逆立ちをし、足でひとりジャンケンを始めた。
俺とイエローは怪人の足つぼマッサージをさせられ、誰も動けない状況。まずいな、このままでは本当に見世物にされてしまう。どうにかしてこの状況を打破しなければ……。
「ハシレンジャー! これを使えー!」
そんな時、遠くから走ってくるピンクのスーツが見えた。