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第13話 基地への届けもの

 大量のダンボール箱を台車に乗せて運びながら、部長が楽しげにメロディーを口ずさむ。


「真ん中で分けろ〜♪ 黒髪センター♪ 艶のある髪の毛〜♪ は〜し〜だあお〜い〜♪ かっ飛ばせー! は・し・だ!」


「その応援歌歌いながら歩くのをやめられますか?」


「ん? なんでだ? なかなか出来のいい応援歌だと思ってるぞ」


「出来は良くないですし髪のことしか言ってないですしそもそも俺は野球しません! かっ飛ばさないですから!」


「橋田は野球しないのか。やってみると楽しいものだぞ? ブルペンから出ていくピッチャーの背中を見守るのは」


「なんでブルペンキャッチャーなんですか! 楽しさが伝わらないです!」


「なんてことを言うんだ! 野球の醍醐味と言えばブルペンキャッチャーがリリーフ投手の背中を叩いて送り出す瞬間だろ!」


「テレビに映るか映らないかの場面じゃないですか! 逆にいつもそこ注目してたんですか!?」


 カツカツと早いリズムで部長のヒールの音が響く。10cm以上はあるであろうピンクのヒールが器用にコンクリートの上を進んで行く様子は、いつ見ても感心するものだ。


「ところで橋田、基地はこっちで合ってるのか?」


「方向は合ってますよ。ただこのまま辿り着けるのか……」


「どういう意味だ? 方向が合ってるなら着けるんじゃないのか? あとそこの漬物屋に寄ってもいいか? お茶請けが欲しい」


「何故今お茶請けが要るんですか! それがちょっと基地に行くのに特殊な行程が必要なんです」


「特殊な行程? ふんどし一丁でソーラン節を踊るとかか?」


「何の罰ゲームですか! いえ、基地に行くには虹色の空間を通らないといけないんです。チェンジャーを持っていない部長も通れるのかどうか……」


 その瞬間、俺と部長の周りが虹色の空間に包まれた。


「おお! これが虹色の空間か! てことは私も基地に行けるんだな!」


「みたいですね……。チェンジャーを持っている人間がいればこの空間には入れるようですね」


「よし! このまま基地へエナジードリンクを届けるぞ! みんなで一気飲みするところが見られるのか……感動だな」


「一気飲みを強要するのはやめてくださいね!? タチの悪い飲み会じゃ無いんですから」


「だがアルコールは強要してないぞ? カフェインだカフェイン! カフェにインだ!」


「それはカフェに入っただけでしょう! そろそろ着きますよ!」


 虹色の空間を抜けると、コンクリート打ちっぱなしの部屋に出る。いつもの基地だ。

 ソファに寝っ転がり、右足の指に唐揚げを挟んで口に運ぶ紅希と、試験管からチビチビ紅茶を飲む黄花の姿が目に入る。


「足で肉を食うな紅希! せめて手を使え! あと黄花! 実験器具で紅茶を飲むのをやめろ!」


「おー! 碧じゃねーか! お前も唐揚げ食うか?」


「足で唐揚げを投げようとするな! 不潔が過ぎるぞ!」


「碧、あなたの分の試験管もあるわよ。今タコスを詰めてあげるわ」


「せめて紅茶を注いでくれるか!? 何故無理やりタコスを詰める!」


 マイペースな二人に呆れている俺を余所に、部長は目を輝かせてキョロキョロと基地を見回している。


「ここがハシレンジャーの基地か! 無骨な内装が素晴らしい……! 私もそのソファに座っていいか? 座りソーラン節をしたい」


「なんですか座りソーラン節とは! それより早く用を済ませましょう」


 部長の存在に気づいた紅希がソファから飛び起き、器用に足で唐揚げを食べながら口を開く。


「碧ー! そいつ誰だ? とりあえず肉食わせてもいいか?」


「なんでお前はすぐ肉の話になるんだ! ここにいるのは俺の上司、鳥羽部長だ。唐揚げを食わすのはやめろ」


「でも美味いぞー? このラジコンの唐揚げ」


「じゃあ肉じゃないじゃないか! ……そんなことはどうでもいい。お前たちにはこれを飲んでもらいたいんだ」


 鳥羽部長と俺が押して来た台車を指差す。大量のダンボール箱が乗った台車を見て、紅希と黄花は対照的な反応を見せた。


「なんだこれー! 俺が前住んでた家とそっくりじゃんかー!」


「ダンボール箱に住むな! 捨て犬かお前は!」


「エナジードリンクよねそれ。私は基本的に紅茶以外の飲みものを飲まないの。それを飲めって言われても、無理にもほどがあるわ」


「そこまで紅茶に拘る理由は何だ……。とりあえず、お前たちにはこれを一緒に飲んでもらう。でないと無くならないんでな」


 目を輝かせた紅希が、早速ダンボール箱を開ける。


「おー! 見たことねー飲みもんだな! これ飲んでもいいのかー?」


「ああ、存分に飲んでくれ。こればかりはお前を1番頼りにしてるぞ」


「よっしゃー! 黄花、飲むぜ!」


「私は飲まないと言っているわ。どうしても飲んで欲しいと言うのなら、あとでおすすめの紅茶を教えなさい」


「割と条件が軽いな……。それぐらいならしてやる。いいから飲んでくれ」


「仕方ないわね。飲んであげるわ」


 あっさり飲んでくれるんだな……。あれだけ紅茶に拘っていたのに、そんな条件で飲んでくれるならありがたいものだ。

 しかし鳥羽部長が発注したエナジードリンク、確かに見たことの無い商品だな。俺も飲んでみるか。

 俺はダンボール箱からエナジードリンクを一缶取り出す。

 それに倣って紅希と黄花は揃ってエナジードリンクの缶を手に取り、プルタブを上げた。

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