第11話 対決!メイドマン!
ハシレンジャーにチェンジした俺たちは、それぞれ銃とダガーを取り出して構える。
「あら〜物騒ですね〜。せっかくの焼きそばが冷めちゃいますよ?」
「生憎焼きそばは頼んでないんでな。覚悟しろホーテーソク団! これからお前を倒す!」
俺がそう言うと、メイド怪人はホワイトブリムをかなぐり捨て、態度を一変させた。
「……チッ。せっかく無害なメイドの振りをしてハシレンジャーを捕まえてやろうと思ってたのに……。勘のいいやつだねえ!」
「どう見ても怪人だろう! むしろ気づかなかったイエローを信じられないぞ俺は」
「あら失礼ね。私だって気づいていたわよ。最近お米が高くなってることに」
「怪人に気づけ! 米の高騰は今関係無いだろう!?」
「でも司令が帰りに米を買ってきて欲しいって言ってたわよ。私たちにも関係のあることだわ」
「なんであいつは戦闘のついでにお使いを頼むんだ! 自分で行け自分で!」
「ちなみに司令の好きな米の品種は『こがねもち』らしいわよ」
「もち米じゃないか! せめてうるち米を選べ!」
俺とイエローが言い合っていると、いつの間にか怪人が戦闘体制になっている。腰を低くして足を大きく開き、高く掲げているのはフライパンか? メイドカフェでメイドがフライパンを使うのかどうか知らないが、一応設定に忠実なのだろう。
「覚悟しなハシレンジャー! あんたらはあたいがとっ捕まえて、ボスに差し出してやるんだ!」
「ボブに差し出すなんて困るわ。どう接していいか分からないもの」
「相変わらず聞き間違いが酷いなお前は……。なんだその陽気そうな外国人は!」
「外国人の名前じゃないわ。髪型の方よ」
「どっちでもいいが……。覚悟するのは怪人、お前の方だな。俺たちは絶対にお前を倒s」
カランカラーン。間抜けな入店音が俺の啖呵を邪魔する。俺とイエロー、怪人が反射的に入口の方を見ると、逆立ちの紅希が入って来るところだった。
「ぶあー! あっちぃー! やっと着いたぜ! お? なんだここ? メイドカフェってやつか? ならあれか! 浅草とか案内してくれんのか!」
「それはメイドじゃなくてガイドだ! 遅いぞ紅希! 何してたんだ!」
「いやー、なかなか俺の好みに合う3Dメガネが見つからなくてさ!」
「何を探してるんだお前は! 3Dメガネなんてどれも一緒だろう!」
「そんなことねーぞ! 結構色々あるんだからな! でも俺には高いのは買えねーからさ、全財産の4500円で買えるのを探してたんだよ!」
「何故そこまでして3Dメガネを買いたがるんだ! 意味が分からないぞ!」
「だってよー、3Dメガネをかけたらずっと日曜日なんだろ?」
「なんでそうなる!? ……いやちょっと待て、まさかお前3Dを『サンデー』って読んでるのか!?」
「違うのかー? ま、いいや! ところでもうチェンジしてんのかよ! 俺を置いてけぼりにすんなよー!」
「お前が勝手に置いて行かれたんだろう!? いいから早くチェンジしろ!」
「仕方ねーなー! ハシレチェンジ!」
紅希の周りを赤いタイヤが回り、特攻服がモチーフの赤いスーツを纏った姿に変わる。
「赤い暴走! ハシレッド!」
「青い突風! ハシレブルー!」
「黄色い光! ハシレイエロー!」
「エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
「ハシレンジャー!」
カフェの中で大爆発が起きる。爆風が怪人に襲いかかるが、怪人はビクともしていないようだ。頑丈なやつだな……。
「はん! チェンジしたってこのあたい、メイドマンには勝てないよ!」
「うるせー! とりあえず倒してやる! エンジン全開だー!」
俺たちは一斉にメイドマンに襲いかかった。
外に転がり出た俺たちハシレンジャーとメイドマンは、完全に拮抗していた。
3対1なのにやるな……。あのフライパン、レッドの鉄パイプやイエローのダガーもだが、俺の銃弾までしっかり防いでいる。厄介なことだ。
そしてメイドマン自身もなかなかに強い。ひらひらのメイド服を着ているにも関わらず、クルクルと回りながら的確に俺たちの頭を狙ってフライパンを振り下ろしてくる。
レッドはそれをまともに食らっているし、イエローは避けるので精一杯だ。かく言う俺も何回か避けきれずに肩に食らってしまっているのだが……。
まずい、勝ち筋が見えない。バカみたいな見た目のメイドマンがここまで強いとは思っていなかったぞ。いや、俺たちの経験値がまだ浅いのもあるのだろうが……。
「ブルー! イエロー! このままじゃ埒が明かねー! 何か策はねーのか?」
「策と言われても……。単純に今の俺たちじゃ倒しきれないとしか思えないが」
「諦めが早いにもほどがあるわね。私にいい考えがあるわ」
そう言うとイエローはメイドマンに向かって真っ直ぐ歩き始めた。
「おいイエロー! 何をする気だ!」
「黙って見てろブルー! 俺は分かってるぜ! イエローがこれからメイドマンとパルクール将棋で勝負を付けることを!」
「それ1発ネタじゃなかったのか!?」
真っ直ぐ歩いて来るイエローに対し、メイドマンは困惑を隠せていない。
「な、なんだいあんた! あたいに倒されたいのかい!」
「はあ……。察しが悪いにもほどがあるわね。じゃ、行くわよ。メイドさーん、オムライスひとつ!」
「はいただいま〜!」
突然メイドモードに切り替わったメイドマンを見て、俺はズッコケる。
「真ん中にケチャップで『鶏卵』って書いてちょうだい」
「原材料を書かせるやつは初めて見たぞ!?」
「お嬢様、それだと文字が潰れちゃいます〜……。もう少し簡単なものに」
「何を言ってるの? 言いつけが聞けないメイドはクビにするわよ?」
「ひ、ひい〜! それだけは……!」
「なら早く書きなさい。あとあなた、カフェの掃除も適当だったわね。トイレの吐瀉物はそのままだったし、全体的にビールの匂いがしたわ」
「居酒屋か! メイドカフェでそんなことあるか!?」
その後もイエローは姑の如くメイドマンをいびりにいびり、メイドマンはすっかり落ち込んでしまった。
「わ、私はダメなメイドです〜……」
「よし今よみんな。暴走バスターでトドメよ」
「お前には人の心が無いのか!?」
「よっしゃー行くぜ! 暴走バスター! ハシレショット!」
レッドがいつの間にか組み立てた暴走バスターから3色のタイヤが飛び出し、メイドマンに向かって行く。
メイドマンは為す術も無く泣き崩れた姿勢のまま3色のタイヤが直撃。大爆発で散っていった。
「っしゃー! 勝てたぜ! ナイスだイエロー!」
「大手柄にもほどがあるわね。基地に帰るまでに私を讃える紅茶を買っておきなさいよ」
「なんだこのモヤモヤとした気分は……。正義のヒーローがこれでいいのか……」
「何してるのブルー? 帰るわよ」
「じゃーみんな! 開脚倒立で帰るぞ!」
「お前は倒立をやめろ! なんでそこに拘る!?」
結局純粋な戦闘で勝てたことはまだ無い。毎回言っている気がするが、こんなのはクールじゃない……。
こんな戦い方をしていて、本当に会社の広告塔としてやっていけるのだろうか?
まあそんなことを言っていても仕方がない。今はとりあえず勝てたことを喜ぼう。
無理やり自分を納得させた俺はチェンジを解き、ポケットのスマホを確認する。
するとそこには大量の通知。全て鳥羽部長からの着信だった。