最終話 頼むから俺を振り回すな
「くっ……! 前より強くなってるな……!」
ハシレンジャーロボに乗り込んだ俺たちは、敵ロボ相手にかなり苦戦していた。
以前に倒した時は割とサクサクやられてくれた印象だが、ケイシソウカンマンも調整を加えてきたのだろう。
「しゃーない! ワシが作ったバイクを使うで! イエロー、頼んだ!」
「了解よ。ついでに何か持ってきて欲しいものはある?」
「せやな。キッチンペーパーが無くなりそうやから買ってきてもらえるか?」
「何故このタイミングで日用品を買う!? 目の前の敵に集中しろ!」
「キッチンペーパーね。分かったわ」
「分かるな!」
イエローがロボから飛び降りると、物凄いスピードでロボの隣にやって来た黄色いバイクに跨った。
イエローはバイクを操り、ハシレンジャーロボの方へ飛び上がる。
するとバイクは2つに分かれ、イエローが使っているツインダガーと同じ形に変形した。
俺たちはハシレンジャーロボを操って、イエローダガーを掴む。
「ハシレンジャーロボイエロー!」
ダガーを持ったハシレンジャーロボを動かすのはイエロー。あのバイク武器を装備すると、バイクに対応する戦士がロボを操作することになるようだ。
ハシレンジャーロボは素早い動きで敵ロボの後ろに回り込み、背中を刺す。そして蚊が血を吸うようなポーズを決めた。
「おいイエロー! お前の戦闘スタイルそのままなのはいいが、蚊のポーズはやめろ!」
「あらどうしてかしら。あれが私のスタイルよ」
「恥ずかしいからだ! むしろよくお前は恥ずかしくないな!?」
「恥ずかしいなんて感情は、とうの昔に捨てたわ。物心ついた時にはもう無かったわね」
「じゃあ最初から羞恥心が欠けているな!? なんでそんなことになったんだお前は!」
アホなポーズは置いておいて、イエローのおかげで敵ロボを一体撃破。ブラックは次に俺を指名した。
「次はブルーの番や! 頼むで!」
「了解だ!」
俺はイエローと同じくロボの横に来た青いバイクに跨る。
バイクは青い銃に変形し、ハシレンジャーロボが装備した。
「ハシレンジャーロボブルー!」
銃を敵ロボに向けて引き金を引くと、巨大なタイヤが敵ロボに向かって飛んで行く。そのまま連射して敵ロボをまた一体撃破。ハシレンジャーロボから分離し、俺はロボの中に戻った。
「最後はレッド! 頼んだで!」
「おうよ!」
赤いバイクがハシレンジャーロボに向かって来る。バイクは鉄パイプに変形し、ハシレンジャーロボは両手でそれを掴んだ。
「ハシレンジャーロボレッド!」
「よっしゃー! こいつで叩いて伸ばしてピザ生地にしてやるぜ!」
「やめておけ! なんでお前はいつも機械を食おうとする!?」
「魚と野菜より機械の方がうめーじゃんか!」
「1度舌を引っこ抜いてもらったらどうだ!?」
レッドがハシレンジャーロボを操り、鉄パイプを振り回す。敵ロボは為す術も無く鉄パイプでボコボコにされ、爆散した。
「見たか! これが私たちハシレンジャーの力だ! でも私も何かしたいな。ハシレンジャーロボにソーラン節とか踊らせてみてもいいか?」
「なんでですか! アホなことしてないでケイシソウカンマンを倒しますよ!」
俺たちは全員でハシレンジャーロボから飛び降り、ケイシソウカンマンの前に並んだ。
「これで残るはあなただけね。暴露しなさい」
「覚悟させろ! こいつの何を暴露されたらいいんだ!」
「実は自分まだ彼女いたことないっす!」
「だから乗るな! 言われたことをなんでもやるなお前は!」
ケイシソウカンマンはこちらを睨みつけ、拳を握りしめた。
「覚悟するのはそっちっすよハシレンジャー! さ、さあ、いくっすよ!」
ん……? 心做しかケイシソウカンマンの声が震えているような気が……。まあいいか。
「行くぜおめーら!」
「ちょーっと待ったー!」
レッドの声を合図に走り出そうとした瞬間、男の声が俺たちを制止する。
誰だこんな時に? また新たな敵か?
振り向くと、蕎麦屋のエプロンをしたケイシチョウマンが、息を切らして立っていた。
「ハシレンジャー! ボス……いや、元ボスを倒すのはやめてやってくれないかい?」
「何故だ? まさかお前、またホーテーソク団に……」
「違う違う! オイラはもう悪いことはしないよ! でも、元ボスを倒すのは本当にやめて欲しいんだ!」
どういうことだ……? 意味が分からない。ホーテーソク団に戻る気は無いが、ケイシソウカンマンを倒すのはやめろ?
筋が通ってなさすぎて理解ができないぞ。
「ケイシチョウマン……。それ以上はやめるっす!」
「いややめないよ! オイラは知ってるんだからね! 元ボスがめちゃくちゃ弱いってことを!」
「……は?」
ケイシソウカンマンが弱い……? そんなはずは……。いやちょっと待て。そう言えばこいつ、自分で戦ったことがあったか? 全て戦闘員やロボットに戦わせ、自分は何もしていなかった気が……。
「元ボスは人柄だけでホーテーソク団のボスに成り上がったんだよ! いつもオイラたちをコンビニやスーパーに連れて行ってくれて、必ず煮卵を奢ってくれるんだ!」
「なんで煮卵限定なんだ! もっと弁当とかあるだろう!?」
「お会計の時も必ず店員さんに『お願いします』と『ありがとうございます』を言っていて、とっても礼儀正しいんだよ! そんなことを繰り返してるうちに、元ボスは勝手にボスに祭り上げられたんだ! 元ボスは、本当は戦いたくないんだよ!」
ケイシチョウマンが言っていることが本当なら、俺たちがこれ以上ケイシソウカンマンと戦う意味は無い。戦う意思があるのかどうか、確かめておかないとな。
「ほんまかケイシソウカンマン? 戦いたくないんか?」
「そ、そんなわけないっす! 自分は、ハシレンジャーを倒して地球を征服するために……」
「残念、テレパシーが使える私にはお見通しよ。あなたの心は戦いたくない。もう帰ってスマハラしたいって言ってるのが聞こえるわ」
「なんでこいつもスマハラしてるんだ! え、本当に流行ってるのかそのゲーム!?」
しばらく俯いて体を震わせていたケイシソウカンマンだが、顔を上げて口を開いた。
「ああそうっすよ! 自分はホーテーソク団のボスになんかなりたくなかったし、戦いたくもないっす! 帰ってスマハラしながらホットかき氷を食べたいっすよ!」
「それはただの水じゃないのか!?」
「そもそもホーテーソク団に入ったのだって、押しの強い地元の先輩に、強引に入れられただけなんっす!」
「ラグビー部みたいな入り方してる!」
「じゃーもう戦わなくていーんじゃねーの? おめーもう悪いことしたくねーんだろ?」
ケイシソウカンマンは少し戸惑った様子を見せるが、レッドの言葉に頷いた。
「なら話は早い! ケイシソウカンマン、もう更正して地球で暮らせばいいじゃないか! 私たちと一緒にスマハラして過ごそう!」
「……いいんすか?」
「もちろんだ! だが私はスマハラに関しては容赦ないぞ?」
「まだ攻略終わってないんですよね!?」
こうして俺たちはケイシソウカンマンと和解し、そのまま一緒に基地へ戻った。
——そして1年後。俺は青いタキシードを着て、ウエディングドレスを着た鳥羽部長の隣に立っていた。
「皆様、本日は我々の結婚披露宴にお越しいただきありがとうございます。我々としてもたくさん催し物を用意してありますので、ぜひ楽しんで……」
「碧ー! なげーよ! 料理まだなのかよ料理ー!」
「よく披露宴の挨拶を遮れるなお前は! どういう神経をしてるんだ!」
「私はもう紅茶をいただいてるわよ。流石結婚式場の紅茶。なかなかのものね」
「おいまだ乾杯もしてないだろう!? 何故お前だけもう飲んでいる!?」
「ワシはこのドリンクメニュー表で鶴を折ったんやけど、見るか?」
「ドリンクメニューが見られないじゃないか! ていうかお前は誰だ! ヘルメットを取ったらただのおじさんじゃないか! ハゲてるし!」
「ああ言うたな碧! やからワシヘルメット取りたくなかったっちゅうのに!」
やかましい披露宴になりそうだ……。隣にいる鳥羽部長は、そんな様子を見て微笑んでいる。
「碧、私の拘りを全部披露宴に入れてくれてありがとう! 本当に嬉しいぞ!」
「いえ……。それにしてもケーキをハイヒールに詰めたいと言い出した時は耳を疑いましたよ」
「いいじゃないか! ハイヒールは私の象徴だからな! それより碧、敬語! いつまで私に部下として接するつもりだ?」
「あ、ああすまない鳥羽部長。慣れなくてな」
「こら! 部長も禁止! 名前で呼んでくれ!」
「しまった、つい癖が……。すまない桃子。これからはちゃんと夫として接するよ」
「そうしてくれ全く! 披露宴で怒鳴り散らさせないでくれよ!」
「そこまではしてなかっただろう!?」
披露宴は順調に進んでいき、ゲストたちが挨拶に来る。ハシレンジャーの面々はもちろん、ケイシソウカンマンとケイシチョウマンも出席してくれた。
「ハシレブルー! ハシレピンク! 結婚おめでとう! 君たちが付き合ってるなんて、オイラビックリしちゃったよ!」
「ほんとっすよ! 1年前はもう付き合ってたんすか?」
「いや、あの時はまだだったが……」
「でも碧はもう私のことが雨季だったんだろう?」
「好きだったんだ! なんで雨が降るんだ!」
「お? 珍しく躊躇無く言ったな? 私は嬉しいぞ!」
「しまった……。ハメたな? こんなのはクールじゃない……」
披露宴も終盤になった頃、司会者が突然とんでもないことを言い出した。
「それではここで新婦からのサプライズ! 暴走戦隊ハシレンジャーによる、新郎のジャイアントスイングです!」
「おい待て! そんなの聞いてn」
「よっしゃー! みんないくぜー! エンジン全開だー!」
紅希、黄花、桃子、ハシレイが順番に俺の足を持ち、ジャイアントスイングを始めた。
「それわーっしょい! わーっしょい!」
「ああもうやめろ! こんなのはクールじゃない!」
「わーっしょい! わーっしょい!」
「頼むから俺を振り回すな!」
ハシレンジャーの暴走は、これからも続いていきそうだ。
「戦隊ブルーはクールでいたい〜頼むから俺を振り回すな〜」はこれにて完結です!
前作「この神が送り届けよう」ではギャグ一点突破の作品を書いたので、今作は戦隊王道のストーリーを入れつつギリギリのラインでギャグを貫いてみたのですが、いかがでしたか?
最後まで笑って読んでいただけていれば幸いです!
物語はこれにて完結ですが、次のページからキャラ紹介があります! ぜひそちらも読んで、こいつこんなキャラだったなとか、こんな怪人いたなとか思い出して欲しいです!
それでは、また次回作でお会いしましょう!




