第10話 黄花を取り戻せ!
「この辺りのはずだが……」
俺は地図を確認し、立ち止まった。ハシレイの地図によると、黄花が捕まっているのはこの辺りだ。だが俺の目の前にはイギリス風の洒落たカフェが一軒あるだけ。本当にここに黄花とホーテーソク団がいるのか……?
紅希はまだ来ていない。あいつのことだから本当に倒立前転で向かっているのかもしれないな。もしそうなら回し蹴りを食らわせてやろう。
地図は間違い無くこのカフェを指している。
仕方ない。ここに入ってみて、黄花がいなかったら出るしか無いな。
意を決して俺はカフェに入る。するとホワイトブリムを付け、メイド服を着たロボットのような怪人が俺を出迎える。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
「なんでメイドカフェなんだ! そんな雰囲気じゃなかっただろ!」
「オムそばでよろしかったですか?」
「良くない! 頼んでないし普通はオムライスだろう!?」
「では焼きそばをご用意いたしますね!」
「勝手に決めるな! せめてオム部分は残せ!」
なんだこの怪人は……。何故メイドカフェを営んでいる? 意味がわからない。
だがホーテーソク団の怪人であることは間違い無さそうだ。ということはここに黄花もいる。どこにいるのか探し出さないと。
ん? 奥の席に黄色いワンピースが見えるな……。
「あら碧。あなたも来たのね」
「何をしてるんだお前は! 何故のんびり紅茶を飲んでいる!?」
「ここの紅茶、なかなかいけるわよ。お好み焼きの風味が食欲をそそるわ」
「そんなことは聞いてない! あとなんで出てくる料理が全部B級グルメなんだ!」
「あなたも早く席に着いたら? メイドさんがそろそろお料理を運んで来るわよ」
「俺はお前を助けに来たんだ! 捕まってるって聞いてたんだが!?」
「捕まってる? そんなわけないでしょう。私が自分からここに来たのよ」
自分から……? どういうことだ?
なるほど分かったぞ。黄花はホーテーソク団の情報を嗅ぎつけ、怪人を倒すために単身乗り込んだのだ。勇敢なことだ。
だがそれなら俺たちにも声をかけてくれれば良かったと思うのだが……。黄花もあんな感じだが、意外とヒーロー意識が強いのかもしれないな。
「なるほどな。そういうことか。それで、怪人を倒す目処は付いたのか?」
「怪人を倒す? 何を言っているの? 私はただ、最近人気のメイドカフェに入っただけよ」
「は!? ホーテーソク団の情報を嗅ぎつけたんじゃないのか!?」
「このメイドカフェとホーテーソク団に何の関係があるのよ。紅茶が冷めるから余計な会話を長引かせないで」
ダメだ。こいつはやっぱりこういうやつだ。ただ無自覚にメイドカフェに入り、結果的にホーテーソク団の怪人のところへ来てしまったというわけか。
……はあ。何故俺の仲間はこんなにバカばかりなんだ。どう見ても怪人がやっているメイドカフェにのこのこ入って行くなんて、何を考えたらそうなる?
ダメだダメだ。こんな状況でも、俺はクールに乗り切らなければならない。逆に考えれば、黄花にホーテーソク団のことを伝えてしまえばいい。そうすれば俺と黄花で怪人と戦うことができる。よし、そうしよう。
「黄花、よく聞け。このメイドカフェは……」
「焼きそば大盛り、お待たせしましたー!」
「だから頼んでない! 何勝手に大盛りにしてるんだ!」
「では、マヨネーズで落書きしちゃいますね? 軽減税率っと」
「それを書いてどうする! どういうメッセージなんだ!」
「食べる前に、一緒に美味しくなる魔法をかけましょう! せーの、萎え萎えシュン!」
「不味くなりそうな魔法をかけるな! 萌え萌えきゅんとかじゃないのか!?」
「あら、碧はそういうのが好きなのね。メイドカフェに通い詰めていると見たわ」
「違う! 通い詰めてない! それより黄花、お前このメイドを見て何も思わないのか?」
黄花はまじまじと焼きそばを持ったメイドを見る。明らかに機械的な見た目をしたそのメイドは、ホワイトブリムとメイド服以外は完全に怪人だ。むしろこの見た目のメイドを見て普通に入店したのが信じられないぞ。
「ああ、碧の言いたいことが分かったわ」
「やっとか! 察しの悪いやつだ……」
「確かに美味しい焼きそばを作りそうな雰囲気のメイドね」
「そんなことを言ってるんじゃない! そもそもメイドカフェで焼きそばを作るな!」
「マヨネーズのかけ方がとても慣れていたわ。ベテランメイドさんなのかしら」
「軽減税率と書ける時点で慣れてるんだろうが、それはどうでもいい! どう見てもホーテーソク団だろう!」
「あらほんとね。よく見たら今まで戦った怪人とそっくりの服装をしているわ」
「服装だけは似てないだろう! それ以外の部分だ!」
「うるさいにもほどがあるわね。要するにこのメイドが怪人ってわけね」
分かればいいんだが、分かるまでにその本気なのか冗談なのか知れないボケを挟むことは必要なのか?
「とにかくこいつを倒すぞ! 行くぞ黄花!」
「OKよ。倒したらここの紅茶も飲み放題になるかしらね」
「だといいな……。さあ、チェンジだ!」
「ハシレチェンジ!!」
俺たちはハシレチェンジャーのハンドルを回し、ハシレンジャーへと姿を変えた。