あらゆるもの(4)
留羽は驚いて、後ろを見た。別れた妻が立っている。昔に比べて多少やせたかもしれないな、と思った。明るい色の帽子を身につけている。何か言葉を出さなければならない、と口を開く。「やあ」
元妻はルリという名前だ。ルリは表情を少しゆるめて「久しぶり」と言った。
「こんなところで何をしているの?」留羽がきくと、ルリは「仕事の帰り。この先にカフェがあってね。そこで勉強しているの」「なんの勉強をしているの?」「それは……秘密」
そこで沈黙が流れた。「良かったら、一緒にそのカフェに行ってもいいかな?ちょっと話がしたいんだけど」留羽が言うと、ルリは「いいよ」と軽くうなずく。
留羽とルリは2人で街中を歩いて行く。何も社会のことなど知らなかった頃を思い出しながら2人はカフェに向かった。人通りは多くもなく、少なくもなく、ほど良い感じだ。自然と話しは共通の友人である木庭の話にむかう。
「木庭さんは、今は現場の仕事をしているみたいよ。この前見た時はずいぶん老けていたみたい。疲れもあるんでしょうね。きっと、今はとてもつらい時期みたいだから。ほら、息子さんが、、、」
「亡くなったの?」
「いえ、病気にかかってひどいらしいの。暴れたりするんだって。暴言はいたりとかね」
「それはつらいな、、。亡くなるよりもつらいかもしれない。もし、私に子どもがいたら?の話だけどね」
「木庭さんは、そんなこと絶対に言わないと思う。亡くなるより生きていたほうが絶対に良いと思うし」
「そうなのか。それはそうかもな。でも、それなら仕事どころじゃないんじゃないか」
「そう。だから、なんとか仕事に行ってるんだけど、難しいみたい。ミスして怒られたりしてるんだって言っていたよ」
木庭は気の良い男だが、どこか得体のしれない怖さのある過去をあまり語りたがらない男という印象だ。留羽は木庭のことを思い出しながら、話していると、目的の店に着いたらしい。