あらゆるもの(1)
Kは今日も遅い。形になってはきている。だが、それだけだ。何も規定がないものだから、そのまま大きな問題とはなっていない。だが、忍び寄るものはあるだろう。それが、影となってKをむしばむ可能性もある。きっと、今では、何もないパソコンに向かって作業をする日々。動画を見つつも、プログラミングの諸所をあれこれとやりつつも、さらに歩を進めていく。どのくらい大きな形になるかは、わからないが、まだそこそこといった様子だ。
Kの中にある大きな意識がどんどんと強くなっていく。キーボードを押しながら、丁寧に一歩ずつ進めていく。美味しいパンを買ってきている。すでに、半分はなくなっている。机の横に置いてある。ただの、好奇心に満たされた画面の中で、Kは静まり返る。
Kの祖母が一階から声をかける。何か用事らしい。Kはしぶしぶやりかけの作業を中断して、一階に降りていく。
「どこからか、声がするんだ。あの人の声だ。私は何も知らないのに、いまだに私にたずねてくる。私が秘密を知っているんじゃないか、とか、私そのものが秘密なんじゃないか?とか」
祖母はぶつぶつとKの声に文句を言いながらも、やるべきことを的確に指示していく。そうそう、それやったら、次これ。Kはイライラしてきた。祖母の声があまりにも大きいのと、見知らぬ誰かからの声はどんどん大きくなるばかりだ。みなが同時にしゃべるので、聞き取りにくくもなっている。
祖母の頼みを終えて、自室に戻るK。本が置いてあるのが目に入る。読もうか、読むまいか、悩みの中で、時間がどんどん過ぎていく。10分くらいはたっただろうか?Kは本を手に取る。手にとって、ページをパラパラとめくるが、どこにも、その世界はない。
Kは食事の後の風呂に入る。汗をかかないので、じかに肌に触れる服以外は、2日に一度洗う。そのためのえり分けを行うのが、日課になっている。
プロ野球のオープン戦がやっていたので、次の日、楽しみに見ていると、後ろから父が声をかけてきた。
「どうだ?調子は?元気にしているか?外にはたまに出たらどうだ?家の中にいても、気持ちもふさぎこむだろう?日光に当たるのも大事だぞ」
Kはそういうものか、と思いつつ、誰かから命令されたような気持ちがして、嫌な気持ちになった。実際は父は助言を行っただけなのだが、強く感じすぎてしまうらしい。それでも、父の言うことなので、聞かなければならないと着替え始める。外に出るための準備だ。コートを着て、準備完了。行くぞ、とKは駆けだすように歩き始める。歩き始めると、気分もよくなって、ノッテきた。今日はどこまで行こう、久しぶりに図書館まで行ってみようか。Kは図書館の静けさが好きだった。図書館の本に囲まれたところも好きだった。だが、最近は活字を目でおうことが難しくなってきている。つまり、本が読めなくなっているのだ。それでいて、インターネットの文章は読めるので、不思議だ。
ふいに声をかけられた。初老の男性だ。
「やあ。君。ここにある建物を知っているかい?この建物は明治時代につくられた由緒ある」
Kは男性を見て、なんとはなしに話しを聞いていたが、だんだんと人と話すのがつらくなってストレスを感じはじめた。そこそこに話を切り上げて、また歩き出す。どうしたものか?この世界でうまくやっていく方法はないものか?Kは考えたが、どこにもそんな方法は転がっていないようだった。Kは絶望しながら、図書館に向かう。絶望しながら、歩いて行く。