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3話

一般的に侍女とは、主人の好きなものを把握して、完璧に身の回りの世話をこなすものなのだろう。だが、私の主人、ラニ様は本当に本心の分からない方だ。王家の血を持つ、この国で最も揺るぎない権力を持つ公爵家の長女。


つまり、ほぼ確約された未来があるというのに、彼女は少しも傲慢ではない。


だから好みも、趣向も、それどころか、嫌いも苦手も分からない。陛下や王妃勤めの侍女たちからは本当に羨ましがられる。部屋の花の種類や、掛ける曲で怒鳴られたと。それなのに、私はいつもよく勤めてくれていると褒美を多くもらえる。ラニ様個人の懐から多く報酬を与えてくれる。


たまには家族のために休むといいと、帰省を許されてしまった。実家では王家の血を持つ方だもの懐が広いのかもしれないねとのんきなことを言われたが、本心が読めず、恐ろしくて仕方ない。


私は、セル殿下に触れる勇気がないのに。


あれほど高貴な血を持つラニ様はセル殿下にだけ微笑む。まるで彼女は、セル殿下が王になると疑いがないように。それが何より、何より恐ろしいのだ。


普通に考えれば平民の血の混じるセルなど、セル殿下など、王に相応しいわけがない。それどころか、私があんな男の世話使いの一人など屈辱だと思うのに、ラニ様が恐ろしくて蔑ろにできない。


今日も、好みの分からないラニ様の食事に迷う。料理長に、


「文句言わないなら何でもいいだろう。毎日毎日面倒なこった」


そういわれるが。こちらからすれば。


「嫌いな食べ物が一つもないわけないじゃないですかッ」

「ラニ様は我々従者どころか平民にも手を差し伸べる頭のおかしい方だぞ。考えを読もうとするだけ無駄だ。今日の一番人気のないメニュー持ってけよ。どうせどれ持っていても文句なんか言わないんだから」


そういって授けられた野菜だらけのメニュー。知っている文句なんか言わないことも、おいしい食事をありがとうと料理長に微笑みに行くことも。でもそれが私には、頭のお花畑な馬鹿には見えない。


知っているんじゃないか?私たち従者がバカにして蔑ろにしていることを。


また一番人気のないメニューを12時を過ぎた、時間遅れに、セル殿下の分と一緒に持っていく。だがその日はおかしかった。ノックをしても返事がない。おかしい。屋敷に来たときにセル殿下にお菓子とお茶を持っていってお話をするから、レンもいるし何かしてもらうこともないから、昼食の時間以外好きに過ごしていいと指示されていたはず。


昼食の指示はあったと思うから部屋にいると思うのだが、どこかに出かけたのだろうか。


ラニ様なら多少の無礼も怒ったりしないという慢心。だから返事がないのに部屋をのぞくという愚かな行動を取ってしまった。


パリン。


驚きで食事を落としていた。だが誰もそんな音には振り返らない。


「その汚れた手でラニ様に触れるなっ……!!貴様ッ、自分が何をやっているのかわかっているのか、」

「何をやってるか?分かっているさ。大帝国。セントラルをぶっ壊す。これは大義だ。王族を皆殺しにして俺が死んだら尋問も不可能。敵の多いセントラルは犯人の捜索も難航するだろうなぁ。もしかしたら敵は内部かもしれないぞ」


床に寝転んだ血まみれの陛下と王妃。そして、レンが血まみれになりながら叫んでいた。腹から大量の血を出したラニ様は意識も無いようで、騎士の男に首に剣を添えられて人質に取られているようだった。


腕と太ももに傷を負ったセル殿下が私に気づいた様子で、足を引きづって近づいてくる。血まみれの手に触れられる。この手に触れられて、穢れを気にしない日が来るなんて思いもしなかった。


「ミィ、騎士を呼んで来てくれるか、私はこの足では、げほッ」

「っ……」


咳込んだ瞬間に自分のメイド服が血に染まった。セルの、平民の、穢れた血が、手を振りほどいて走り出す。助けを、誰に対してだ。セルに触れられたこと。違う。ラニ様が人質に取られて、陛下が、あぁ、なんで、こんなことに。


「あのっ、助けて、助けてください。ラニ様が、陛下がッ、殿下の部屋に間者がいて、みんなみんな血まみれで」

「ミィお前何をたわごとを」


そう言いかけて私の服を見て目を見開く。


「何があった。殿下の部屋だな。お前たち剣を持って、準備のできたものから殿下の部屋へ!ミィ、間者はどこの国の者だった」

「え?」


あの部屋には間者と、ラニ様とレンと殿下と、倒れた陛下と王妃と。間者の服装なんて。


「そ、そこまでは」

「そうか、皆の者。間者を必ず生け捕りにするぞ」

「了解」


走り出す騎士団を眺める。数時もたたないうちに、私は責められることとなる。間者の顔は、服装は、何を言っていたか、レンと殿下との証言が私と一致するか。でも、気が動転して、何度思い出そうとしても間者の顔が、男だったということくらいしか、思い出せない。


血なんて、初めてで、そんなに責められても。なんで私に。あの時は騎士団のもとへ行くのに必死で。分からない。分からない。ラニ様、助けて、早く、早く目を覚まして。私はラニ様のように物事を順序だてて話すのがうまくないのです。


早く目を覚ましてください。ラニ様。お願いだから、こんな尋問の毎日から、開放して。


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