5. 柳一華
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起きると、朝だった。
柳は身体を起こす。
身体中が痛い。
腕をさする。昨日、銀獣につけられた傷が確かにあった。
目覚まし時計を見ると、針は7時を指していた。
15時間も寝たことになる。
カーテンを開けると、日差しが容赦無く網膜を刺す。
小鳥が鳴いている。
銀髪のクラスメイト、増殖するバナナ、叫ぶ怪物。
柳の日常は、突然一変した。
「僕の、力。」
柳は手のひらを見て、つぶやいた。
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銀書目録
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第三話 凪楽
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「僕の、ちから。」
背後で、声が聞こえた。
振り向くと、妹がドアノブを握ったまま立っていた。
「ぎゃははは、お兄ちゃんヤバあ!」
妹が腹を抱えて笑っている。
風来高校 1年1組 出席番号31番 柳一華
好きなもの:辛い食べ物、陸上
嫌いなもの:可愛い子ぶる女
「一華!いたのか!」
肩まで伸びた黒い髪、陸上部で鍛えられた筋肉質のふくらはぎ、焼けた肌。
白い八重歯がちらりとのぞく。
「ぼくの、ちから」
ここぞとばかりに兄のモノマネを連発する。
「やめろ!」
手のひらを眺めながら、「僕の力」とつぶやいている瞬間を目撃されてしまった。
「お兄ちゃん厨二病まだ治ってなかったの?」
「厨二病じゃない!」
「ええ、うそだあ。じゃあもう一回やろうか?ぼくの・・・」
「もうやめろ!」
とびかかる柳を、妹は軽々とよける。
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「お兄ちゃん、そういえばさ」
パンをかじりながら、一華は言う。
「石鹸買ってきた?それも大量に」
ブッと柳は息を吹き出す。
「ああ、あれね、、少し買いすぎちゃったかもな。」
昨日、増殖の力を確認するため、風呂場で目についた石鹸に力を使った。
あっという間に石鹸は足元を埋め尽くすほどに増殖した。
1、2個増やすくらいの気持ちだったが、コントロールがまだできていないようだった。
「少しって・・・ネットで一桁間違って発注したぐらいの量だったけど」
「いやあ、あははは、、、」
柳は笑ってごまかすのだった。