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4. 立って、走れ

 


 ************************




 家が全焼したあの日。



 僕の部屋で使っていたストーブが、カーテンに触れていて火が付いた。


 気が付いたときは、火が天井までのぼっていた。


 煙を吸って意識が遠のいたとき、死を悟った。


 そのとき、部屋があいて、怒号が聞こえた。


 父と母だった。


 駆け寄ってくる二人に安堵を覚えると同時に、罪悪感を覚えた。


「ごめんなさい。」


 僕は確かにそう言った。


 そこからは覚えていない。


 気づいたときには病院にいた。


 のちに、父と母は焼死体になって発見されたときいた。




 **************************





 破壊された靴箱、散乱したくず、黒い液体。

 怒号。



「思い出した。」


 柳がつぶやく。


「柳君?」


 柳は微笑む。


「親父が死ぬ前に、言われたことを思い出した。」


 柳は春家の腕を引く。

 春家を支えて、立ち上がらせた。


 近くに落ちていたバナナを一本、拾い上げる。

 バナナを握ると、数本、近くで新たなバナナが出現した。


 柳は自分の能力を改めて認識する。


 増殖。


「春家、その本、刃物かなにか出せるか?」


「出せない・・・けど、刃物ならもってる。」


 春家がポケットから小さなナイフをとりだした。


「なんでこんなのもってるの?」


「護身用よ。」


「ハハ、了解。」


 絶叫が近づいてくる。

 壁に身体をぶつけながら、銀獣が向かってくる。

 巨大な瞳が、柳をとらえた。

 磁石に吸い寄せられるように、走ってくる。


 北館の扉を破壊する。


 柳達まで、距離およそ5メートル。


「柳君!!」


 春家が叫ぶ。

 しかし、柳は逃げない。

 銀獣に身体を向け、拳を突き出す。

 手に握られているのは、一本のバナナ。


 グギアア!!


 ぱっくりと開いた銀獣の腹。

 無数の牙が柳を狙う。


 柳は腹が開いた瞬間、


「ああああ!」


 右手に持っていたバナナを裂けた腹に向かって投げつけた。


 投げたバナナは腹に飛び込んだ。


 柳は投げた勢いでそのまま体勢をくずし、銀獣の牙をかすめた。

 かすめた牙が、柳の腕を切り裂く。

 柳の腕から血が噴き出した。


 勢いあまって北館に突っ込む。

 背中を校舎にぶつけた。


 銀獣の動きが止まる。

 仕留め損ねた獲物を追うため、方向を変える。


「増えろ。」


 柳はつぶやく。


「ア・・」


 銀獣の瞳がカッと開かれた。

 苦しそうに何かを吐き出そうとしたそのとき、

 身体中から大量のナイフが突き出した。

 全身を引き裂かれた銀獣は断末魔を上げる間もなく、黒い液体をばらまいて絶命した。

 液体と肉体が、溶けて、やがて消滅した。


「バナナの中にナイフを入れて、増殖させたのね。」


 消えた銀獣の奥で、銀髪の少女が立っていた。


「ああ。やろうと思えばできるもんだな。」


 柳は腰をさすりながら立ち上がる。


「お父さん、なんて言ってたの?」


 春家は尋ねた。

 柳の父親のことだ。



「ああ、まあ、別にかっこいいセリフでもないよ。」


 柳が言っても、春家は黙っていた。


 真っすぐ柳を見つめる春家を見て、柳は言った。


「立って、走れ」


 柳は笑った。


「親父に命を助けられたのは、これで二回目だ。」



 *つづく





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