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3. 銀術




********************





本当、気の毒よねえ。柳さんのところ。


かわいそうに。子供二人は助かったらしいわよ。


家は全焼して、父親と母親は亡くなったって。


子供二人残されるなんて、本当にかわいそう。


引き取ってくれる親族もいないらしいわよ。


まあ、それは本当に。





**********************




「にげて。」



春家が震える声で言った。


窓ガラスが割れる音がした。


その方向を見る前に柳は動き出していた。



「え?あ、ちょっと!」


春家が戸惑いの声をあげる。


柳は春家の身体を担ぎ、背中におぶった。


「つかまってろ!春家!」


柳にとって、選択肢はなかった。

ゆえに、迷いはない。


ガラスの散らばる音がする。


柳は春家をおぶると、階段を二段飛ばしでかけあがっていく。


「やなぎくん!?どうして?」


耳元で春家の声が聞こえる。

そのさらに背後で、銀獣の雄たけびが聞こえる。


静かに追ってこない分、場所がわかって逃げやすい。と柳は思った。


「なあ、春家も銀書の力あるって言ったよな!?」


「はあ!?」


走りながら、柳は尋ねる。


「どんな能力?あいつをぶっとばせる力とかない?ほら、火を出す魔法とか、氷漬けにしちゃうとか、そういう系の!」


「私の銀術・・」


コンマ数秒間をおいて、柳の背中にのった春家は手を伸ばした。


柳の顔の横から手が伸びてくる。


春家が掌を広げて上に向けた。


その瞬間、春家の手のひらの空間から本が飛び出してきた。


「おお!」


と柳が感嘆の声をあげる。

二階の廊下を走り切り、一階へ下る階段へ走る。


ギャア、と銀獣の吐息がかかる。


「キャア!」


春家の悲鳴が聞こえる。

柳は両腕に力をこめて飛び降りた。

踊り場まで、一気にジャンプする。


着地したとき、膝に電気が走るような痛みを感じたが、かまわず駆け下りていく。


「大丈夫か!?春家!」


「おしり、ちょっとあたった・・・」


「大丈夫そうだな。春家、もう一回本出して!」


柳が叫ぶと、春家が再び本を出現させる。


「おお!なんか出そう!魔法でそう!もしかしてザケル?バオウザケルガいける?」


体力も限界が近い。追いかけっこも時間の問題だろう。


奴の狙いが僕と春家なら、倒すしかない。


春家も銀術が使えるなら、僕が足になって、春家が銀術を使って倒す!


それしかない!


「春家!」


柳が叫ぶと、春家は気まずそうに本を揺らした。


フン、と春家が鼻息をもらすと、開かれた本から何かがとびだした。


その何かは走る柳の脇を通り抜けて、廊下に落っこちた。


急ブレーキをかける。


落下した何かをとらえた。


何かが、踊っていた。



松茸が踊っていた。



「この本、戦闘向きじゃないの。」



おわったーーー



目の前の銀獣が柳と春家に襲い掛かる。


食われた、と思ったが、


銀獣は、松茸に向かって飛び込んだ。


ぐじゅぐじゅと不快な音をたてて、松茸を嘗め回している。


「春家、もう一個松茸だして!」


春家がすぐに本から松茸をもう一本だす。


踊り始めた松茸を、横の教室に向かって蹴り飛ばした。


すると、銀獣は目の色を変えて教室に飛び込んだ。


机がとびちって、がたがたと音をたてる。


その隙に柳は北館の昇降口から飛び出た。


柳は叫んだ。春家を背中から下ろす。


「くそおお!死ぬ!本当に死ぬ!変な化け物に食われて死ぬ!」


松茸で時間稼ぎはできても、解決にならない。


あたりには銀獣の食いかけのバナナが散らばっていた。



ああ。



詰み。



詰んだのか、僕の人生。



なんだったんだ。


最後は寿命でもなく、病気でもなく、火に焼かれて死ぬでもなく、

あんな化け物に食われて死ぬのか。


いや、死に方なんてどうでもいい。


僕はあの日、本当は死んでいた。


僕だけが死ぬはずだった。





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