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2. 銀獣






*********************


「お母さん、銀獣(ぎんじゅう)ってなに?」


「とっても怖い怪物よ。人間を食べちゃうの。」


「ええ、どうして食べるの?お米とかパンで我慢できないの?」


「人間しか食べないの。いい?春家。守ってくれる人を探しなさい。」


「守ってくれる人?」


「そう。怪物を倒せる、強い人。」


「そんな人、どこにいるの?」


「この中にいる。」


「この本?」


「春家、覚えておいて。必ずこの本が、あなたの助けになる。」


「これ、なんて読むの?」


「これはね、春家」


**********************







銀書目録(ぎんしょもくろく)







*********************







第二話 銀獣(ぎんじゅう)







*********************




「おいおいおいおいおい!!!」


柳は全力疾走しながら叫ぶ。

身体中に目がついていた。

二頭身。異形、妖怪。


「なんだあの化物は!」


柳と春家は、風来高校北館の一階の廊下を走っていた。

昇降口に突然現れた化物。

その姿を見て立ちすくんでいた柳は、春家の怒鳴り声で我に返った。


春家と柳が走り出した瞬間、化物は柳のいる靴箱にとびかかった。

間一髪で柳がよけると、化物は腹から靴箱に勢いよく突っ込んだ。

けたたましい音とともに、煙が立つ。


木の靴箱が瓦解している。

ぱっくりと裂けた腹から、牙が覗いている。

したたり落ちる黒い液体から、鼻を刺すような異臭が放たれていた。




死。





自身に迫るそれを、柳は全身で感じていた。


こいつは、ヤバい。


逃げなければ、死ぬ。



「ハア!ハア!」


北館の廊下を全力で走った。


北館廊下の最端までたどり着き、

息が続かなくなる。


「春家、無事か!?」


わき目もふらず走っていたため、春家の安否を確認する。

逃げる途中、背後で走る春家の気配があった。


柱に背を預けて、廊下の奥を見る。

間もなく春家が追いつく。

柱に影に飛び込み、柳の隣に倒れ込んだ。


「春家、、ハア、なんだあれは・・」


息を整えながら柳は尋ねる。

春家も息をきらせ、肩を上下させた。


「銀獣・・・私も初めて見た。」


柳は乾いた喉を潤すため、口にためこんだ唾液を飲み込む。


「ぎんじゅう?よくわからないけど、放置したらどっか行ってくれるのか?」


少なくとも近づいてはいけない。

あれは、絶対に関わってはいけない類のものだ。


「無理。私たちを追いかけて食うのが目的だから。」


「はあ!?」


人間を食う化物、ということだろう。

さっきはバナナをおいしそう(?)にほおばっていたけど。


グギアア、

と言葉にならないような叫びが聞こえてくる。

恐る恐る柱から顔を覗くと、()はいた。


「やべ!目あった!」


身体中にまとうようについた目のうちの一つと、柳の目があう。

目が合った瞬間、化物は狂ったように向かってきた。


「きたぞ!」


息を整える間もなく、走り出す。

北館の階段を上っていく。


「これでも食っとけ!」


手に握っていたバナナを窓の外に放り投げる。


すると、化物はバナナに向かって走り始めた。


「やっぱりバナナも好きみたいだな!知能は低そうだ!今のうちに逃げるぞ!」


春家は返事もせず階段をのぼる柳の後に続く。

ハア、ハア、と春家の吐息が聞こえる。

廊下を全力で走って体力を使い果たしたのか、苦しそうだ。


ゆっくりと春家の足が止まる。

それを見て柳も足を止めた。化物は中庭に落ちたバナナに飛びついている。


「春家、さっきのバナナが増えたことと、何か関係があるのか!?あいつ、バナナに異常に食いつきがいいぞ!ゴリラの突然変異か?」


柳が尋ねる。

すると、階段の途中で春家は足を止めた。

深呼吸して、呼吸を整える。


「バナナを増やしたのは柳君。あの銀獣は、その力自体を食べる怪物。」


春家の頬に一滴の汗が流れる。


「さっき・・・柳君の銀術が発動した。柳君の銀術は・・・【増殖】かな。銀獣は銀術に引き寄せられる。そして術師ごと銀術を食う。だから、逃げて。」


春家はせき込んだ。これ以上は逃げられないかもしれない。

顔から血の気が引いている。


「・・・・銀獣ってのは僕を狙っているんだろ?僕が囮になる。春家は学校からでろ。」


「無理よ。私も銀術をもってる。私もターゲットになってる。」


静寂が流れる。


中庭の方向から、耳をふさぎたくなるような不快な音が聞こえる。

銀獣の叫び声。黒板を爪でひっかいたような、不快な音。


春家が階段の踊り場で座り込んだ。


「もう走れない。私が囮になる。柳君は逃げて。」


春家はそう言った。


「ごめんね。巻き込んじゃって、柳君。」


座り込んだ春家の細い足がスカートから覗く。




震えていた。




「にげて。」




グガアアあああああああ!!!


ガシャン!!


雄たけびと、窓ガラスが割れた音が聞こえた。


階段の下、腹の口を大きく開けた銀獣が、柳と春家を視界にとらえる。


飛び散ったガラスが、太陽を反射させてきらきらと光っていた。



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