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第二十一話 たいやきくんは海外の海も泳ぐ


 『およげ! たいやきくん』は子供の頃からよく知っている歌だ。『たいやき号』とかと間違えたりしてたけど、とりあえず一番と最後だけは今でも歌える。テレビで紹介していた情報によると、1974年くらいに発売して以来大ヒットして、シングルとしては日本で一番売れている曲なんだとか。俺からすれば子供向けの歌というイメージだったのだが、どうも当時のサラリーマンたちに人気があったのだとか。社畜のように働くお父さんたちの心に刺さる菓子だったらしい。あとこの曲の影響で鯛焼きブームが起こってめっちゃ売れたのだとか。

 ただ昔はよく見たたい焼きも、なぜかここ数年減少している気がする。屋台でもフードコートでも売っているのは見ない。大判焼きはまだよくあるが、なんか違う。たい焼きを食べたい時の気分って、大判焼きとかじゃ満足できないんだ。なんかこれじゃないって感じ。材料とか作り方は似てるのに。すごくたい焼きが好きとか、大判焼きよりも好きとかではないけど、なぜか無性に食べたくなるのがたい焼き。

 それよりも最近はベビーカステラみたいなサイズのたい焼きや、たい焼き型のクロワッサン(クロ鯛とか言うらしい)が生息域を拡大している。なんだか外来種が侵略してきてる気分だ。ちなみにたい焼きはあんこ一択の俺だが、クロ鯛に関してはカスタードやチョコの方が良いと思ってる。というか、これは形が違うだけで味は変わらないのならクロワッサンやパイで良いのでは? もはやたい焼きではなく新たな菓子として自立している。まあこれはクロ鯛に限らないが。たとえ材料が同じでも、形が違うだけで別の菓子に進化するらしい。

 今では国固有種のたい焼きもたまに来る催事とかでしか見かけない、絶滅危惧種(俺の周囲だけの話)。せっかく見つけたたい焼きも好みのものじゃないと満足感が低下する。皮の厚さとか、あんこがしっぽまで入っているかとか。

 まあたまに食べるたい焼きだからこそ、好みもうるさくなるのかなと。

 なんでたい焼きの話になったかと言うと、やはりテレビで紹介されていたから。海外で日本のたい焼きが進化しているという話を聞きつけアナウンサーが突撃した女子だらけの店。ただしそれは俺が思い浮かべるたい焼きと違っていた。たい焼きは店によって形も大きさも違う。それは当然だし文句を言うつもりもない。ただその鯛は口をあんぐりと上に向けて開けていた。口を開けたままのたい焼きは見たことがない。たい焼きの中にはあんこなどが入っているものだが、鯛の口からはソフトクリームがあふれていた。というか、ソフトクリームのコーン部分が鯛焼きなのだ。さらにクリームはカラフルなチョコスプレーやソースでデコレーションされていてかわいらしいとアメリカンガールズたちが写真を撮っているのだが、その様子を見ていたアオが一言。

「なんかグロい」

 うん、俺もそう思う。日本でも海外のスイーツが別の形にカスタマイズされて流行ることがしょっちゅうだが、これをたい焼きと認めていいのだろうか。なんかつり上げられたたいやきくんにクリームを無理矢理詰め込んでいるようにしか見えない。さらにはクリーム部分がグラデーションかかっていたり、クリームの先に角が生えてたりと、もはや鯛なのかユニコーンなのかもわからない。というかこれはどっちがメインなんだ?

 果てしなくこれじゃない感がわき上がっているのだが、あいにく近所のたい焼きは絶滅していてすぐに買える状態ではない。いっそ冷凍のやつを買いに行こうかとさえ思うほどたい焼きに飢えていたのだが、そのタイミングで玄関の鍵を開ける音が聞こえた。それと同時にアオが玄関へと駆け寄る。これで誰が来たのかもう予想できて気分はさらに下がった。

 リビングにズカズカと入ってきたのは予想通り、セイジだった。

「よお」

 やる気のない挨拶。正直歓迎したくもないが、いそいそとお茶を用意するアオを見ると口には出せない。手に持っていたビニール袋をちゃぶ台の上に遠慮なく乗せた。何か良いにおいがするそれは、ちょうど焦がれていたものに似ている。いやいや、期待しすぎるな。大判焼きの可能性だってあるのだから。それはそれでありがたいのだが。

「大判焼きか?」

「ちげえよ」

 否定された。ならば

「土産だ。ありがたれ」

 そう言って取り出されたのはまだ暖かさが残る鉄板の上を泳ぐ鯛、もといたい焼き・・・・・・にしては形が?

「セイジ、これ何だ?」

 アオが疑問を口に出した。

「たこ焼きだろ?」

 セイジが答える。ソースの香りなど一ミリもない。あるのは小麦を含む甘い香り、鯛にはない長い足。

 タコの形をした、たい焼きがあった。




「・・・・・・なんか違う」




 ちょい足し設定


 ハルキ・・・たい焼きは頭から派。羽つきでもなくても可。でも皮は薄皮より厚めの方が好み。ちなみにセイジが買ってきたのはイカ焼きも甘かった。やっぱりなんか違う。

 アオ・・・たい焼きはしっぽから食べる派。羽がある場合はそちらをすべてかじり取ってから本体を食べる。なんでたいとタコとイカで違う料理や菓子になるんだろうと思ってる。セイジの買ってきたたこ焼きにタコは入っていなかった。

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