第二話 ただいまお茶漬け中
基本的に二人の視点を交互に書いて行きます。今回はアオ視点で。
食品庫の奥、普段はあまり手を入れない奥深くからそれは発掘された。料理酒が切れかけていたのでストックはあったかと食品庫をあさっていた。緑・黄色・赤・黒の縞模様パッケージに私はこういうものですと言わんばかりにデカデカと商品名が書かれている。まあ、よく知られているやつだ。しかも二杯分だけ。
料理と言っていいのかも疑問なレベルな料理。必要なのはご飯とお湯だけ。いわゆる、お茶漬けの素というやつである。
なんで二杯分だけ食品庫の奥深くに眠っていたのか、そういえばと浮かび上がってくる記憶の中に、何かの支給品かおまけとして入っていたなとたいした記憶ではないが思い当たった。ただ手に入れたはいいが食べる機会もないまま食品庫に押し込んでそのまま忘れていたようだ。
そもそも、この家ではあまりお茶漬けを食べる習慣がない。普段からいる二人と一羽はもちろん、たまにやってくるのにもない。メインになるわけがなく、朝食に食べる習慣もない。小腹が空いたならそこら辺の菓子でもつまんでる。誰にも食べてもらえないまま気づけば賞味期限ぎりぎりになってようやく日の目を浴びたというわけである。
さて、どうしようか。
見つけてしまって、しかも賞味期限が切れかけている食品を無駄にする気はない。食べ物は大事だ。ただこれを食卓に出して、それだけでいいのだろうか。今現在時刻は午後三時を過ぎた頃。夕飯にはまだ早い、ただ小腹が空いてくる時間。
元々毎日三時になったらおやつを食べるという習慣があるわけではない。何か食べたくなったらそこら辺にある菓子をつまむ。何かちゃんとした菓子を買ってきたりもらったりしたら一緒に食べる。甘くないおやつを食べるという習慣がこの家にはなかった。
ならば明日の朝食にでもしようかと思ったが、賞味期限は今日まで。何ともタイミングのいい発見だった。別に賞味期限が切れてもそれほど問題はないと思うが、食べられるなら期限内に食べてやるべきではないかとも思う。冷蔵庫にはタッパーに入ったご飯がわずかに残っている。二人分の食事にするには少ないが、お茶漬け二杯分にはちょうどいい量。狙ったかのようにそろえられた状況。
さて、改めてどうしようか。
そろそろ来るかなと思った相手が予想通りやってきた。キッチンに入るなり小腹が減ったとつぶやいたその視線の先にあったのは二つのお椀としゃもじ一杯分くらいの白飯。電気ポット、そしてなんか見覚えのあるパッケージ。それらを前にして椅子に座っている子供こと自分。
「こんなの、あったっけ?」
まず一言。まあこの家ではあまりなじみのないものだし言うのもわかる。きっといつからとかなぜあるのかとか覚えていないのだろう。
「見つけた。期限が今日までだったから」
最低限の単語だけで答えてもハルキはわかるだろう。曰く、どこからかお茶漬けの素が見つかった、しかも賞味期限が今日までだったから食べようか。
まあお互い小腹は空いてたし、おやつは甘いものではないといけないという決まりではない。それをわかっているのだろう。特に反論もなく、
「わかった、それじゃあ食うか」
いつもの席に座ったハルキを見て少しほっとした。もしかしたら嫌がられるのではと危惧していたからだが、心配するほどではなかったらしい。むしろ新鮮だったらしくなぜかノリノリだ。
まあそんなわけでお茶漬けタイム(ハルキ命名)。ご飯にお茶漬けの素をかけ、ポットからお湯を注ぐ。うん、いい匂いだ。ご飯を軽く混ぜて完成。ハルキとアオの三秒クッキング。開始して終了。では召し上がれ、召し上がります。
まだ熱々のお茶漬けをすする。噛むというよりはすするで、流し込むという感じ。お箸よりスプーンの方が食べやすいのかもしれないが、今更取りに行くのは面倒くさい。それよりも食べたい欲求が勝る。一気に掻き込むハルキに対し、自分はフーフーと息を吹きかけ少しずつ食べている。悪いかよ、猫舌なんだよ。
ただひたすら無言で一心不乱にお茶漬けをすするハルキに、そんなに腹が減っていたのかと思ったが、あとで聞いたらお茶漬けは一気に掻き込むのがマナーらしい。
よくわからない礼儀だが真似できないししたいとも思わない。だってやけどしそうだし。実際のどまで熱くなってるんじゃないだろうか。後で冷たい水でも飲ませるか。
そんな風にそれぞれのペースでお茶漬けを食べ進めていたときだった。
ジリリリと昭和懐かしい音が食事の邪魔をした。出所はハルキのスマホだ。しかも鳴り続けていて止まる気配がない。あんまりうるさいので視線で早く止めろと訴えた。こちらは少しずつしか食べれないからまだ三分の一程度しか食べられてない。ハルキは最初、なぜか感心したのか感動したのかみたいな顔したがそれは最初だけ。だんだんうっとうしくなってきたらしくスマホをにらみつける。視線でスマホが止まるわけなく鳴り続ける。止まる気配がないと悟るとスマホの画面、表示された名前を確認もせず、通話ボタンを押し一言。
「ただいまお茶漬け中」
それだけ言って相手が何かを言い返す前に通話を切ってしまう。そしてそのまま電源オフ。なんだその切り方。あまりにもな態度に
「何やってんだ」
アホなんじゃないかと言葉だけでなく視線も一緒にあきれる。そんな自分に対しハルキは悪びれもなく、
「いや、古来よりお茶漬け中は邪魔してはならないという決まりがあるんだよ。CMでもやってるだろ」
だってメーカーがそれを推奨してるわけだろ。あ、せっかくだからあの紙も用意しとけば良かった。「ただいまお茶漬け中」ってやつ。しかし同じシチュエーションになるなんてあるんだな。なんて一人でテンション上げてるが、
「CMって何」
シチュエーションって何。メーカーってお茶漬けメーカー? 永○園?
まったく話しがわからない自分を置き去りにしていたハルキがその一言で固まった。なぜかこちらを凝視し信じられないという顔をしている。
「え? 知らない? マジ?」
「知らない」
なぜかそのまま突然崩れ落ちうなだれるハルキの口から「ジェネレーションギャップ・・・」という言葉がこぼれ落ちた。何の話だ。
そんな馬鹿やってる間にお茶漬けはどんどん冷めていった。礼儀はどうしたのだろうか。
ちょい足し設定
ハルキ・・・自分が年寄りになった気分。けっこうショック。ちなみに後で電話かけ直した。その話をしたら怒るどころか一緒にショック受けてた。
アオ・・・後でCM動画サイトで見た。台詞まったく言わないCMは珍しいなと思った。なんでハルキがショックを受けてたのがよくわからない。