第十六話 タコパしよう
ある日、突然ハルキが言い出した。
「タコパしようぜ」
しばし思考を巡らせる。まずタコパに該当するものがすぐに思いつかない。
答えに行き着く前にハルキが持ち出してきたのは、昨日夕飯に使ったホットプレート、それに付属されていたたこ焼きプレートだった。そこでようやくタコパ=たこ焼きパーティーにつながった。というかうちのホットプレートにそんなもの付いていたのか。
ハルキの方も昨日夕飯の片付けをしている際に見つけたらしく、そして使いたくなったらしい。さらにタコパは人が多い方がいいという理由で急遽召還。
「よくわからないけど楽しそうですね」
おまえもけっこう暇なんだなとは口に出さなかった。朝一番で呼び出されたアキヒコは特に不満そうな顔もせずスーパーの袋を抱えて昼前に現れた。たこ焼きに入れる具材まで買いに行かされてたらしい。普通ならここで申し訳なく思うわけだが、袋に入っているものを見るとまったくそう思えない。
袋から出されたのはイカ、こんにゃく、鶏肉、エビ、明太子などたこ以外で人気のある具材らしい。ソーセージやツナ缶、チーズは家にある。そこまではいいのだが、他にたこ焼きとは結びつかなさそうなあんこやチョコ、バナナ、やたらスイーツ系が多いのと、罰ゲームかと思うようなものまで。いわく、せっかくのタコパなんだからおもしろくしないと。
「男は何歳になっても少年の心を失わないのが大切なんだ」
ほとんど高校生のテンションに戻って盛り上がるバカコンビを冷めた目で眺めていた。それは忘れてないのではなく、成長していないの間違いではないだろうか。
とりあえず永遠の少年どもを無視してたこ焼きの準備を始める。
ネットや動画サイトで作り方を調べ、まず生地を作る。たこ焼きは大阪と東京で違うらしく、ハルキの希望で大阪風のトロトロしたものに決まった。こちらは生地が柔らかい分ひっくり返すのが難しいのだが、あえてそこはチャレンジしていくスタンスらしい。さらに大阪風のたこ焼きに必須なのが天かすらしいが、そこは昨日お好み焼きに使った天かすが残っていたので問題ない。ちなみにお好み焼きパーティーを略しておこパとも言うらしい。何でも略せばいいというものではないと思う。あとスイーツ系には天かすやキャベツを入れないでおく。見た目だけならベビーカステラみたいになった。なら最初からそっちを作ればよかったのではとは言わないが。
まあとにかく準備は整ったのでタコパが始まる。意外だったのが言い出しっぺのハルキよりアキヒコの方がひっくり返すのがうまかったことだ。千枚通し(たこ焼きをひっくり返す時に使う針のようなもの)は当然なかったので竹串で代用していたのだが、苦戦する自分やそこそこできるハルキを横目にアキヒコはプロとまでとはいかないが、変に慣れた様子でまん丸のたこ焼きを転がしていく。
「なんでそんなにうまいんだ?」
聞くと、
「学祭でたこ焼きを作ったことがあるので」
だそうだ。ハルキも同じ学校に通っていたから当然たこ焼きを作ったことがあるのだが、そこは生来の器用さが差を出しているらしい。最初は張り合っていたが、最終的に諦め焼けるのを待つことに専念するようになった。
結局後半はほとんどアキヒコが焼いていたのだが、任せたのが悪かったのか目を離した隙にたこ焼きの位置を混ぜまくってどこに何が入っているのかわからなくしてしまった。もちろん本人もわからない。つまり、食べてみてのお楽しみというわけだ。
「では、いただきます」
まず第一弾が焼き終えたので食事開始。さて何が入っているのか。
ハルキ、こんにゃく「まずいわけじゃないけど特別うまくもない」
アキヒコ、チーズ「当たりですね」ハルキが悔しがっている。
自分、エビ「普通においしい」
一投目は無難なもので終わった。では二つ目。
ハルキ、バナナ「意外といける」
アキヒコ、チョコ「スイーツですね。おいしいですよ」
自分、マシュマロ「おいしい」
といった感じに、スイーツ系は意外といける。だが、当然これだけあるのだからハズレもあるし、苦手なものだってある。
「うえっ」パクチー苦手。
「これは・・・・・・なし・・・・・・ですね」グミ。
「・・・・・・・・・・・・」わさび。
こういった感じで闇鍋のようなロシアンルーレットのようなタコパが繰り広げられた。その後も生地がなくなるまで焼き続け、その頃には気分はともかく腹は満たされた。こういった当たりはずれを楽しむのがタコパの醍醐味だと言う。ホントか。食べ終え休息をとっていたが、何となく気になっていたことを口に出す。
「そういえば、たこ焼きなのに誰もタコ食べてないんじゃないか?」
たこ焼きと言いながらタコの姿がどこにもない。材料を買ってきたのはアキヒコだ。当然タコも買ってくると思っていたのだが、アキヒコはまるで悪びれもなく、
「私、タコ苦手なんですよね」
とあっさり認めた。
「・・・は?」
「じゃあなんでタコパに参加するんだよ」
とハルキが突っ込んでいる。
「そういえば学祭の時も食ってるの見た覚えがない気が・・・」
「たこ焼きの生地は好きなんですよね。タコなしなら食べられるんですよ」
まったく反省の色もない。
タコの入ってないたこ焼きは果たしてたこ焼きと言えるのだろうか。とにかく初めてのタコパは何か不完全燃焼で終わってしまった。
翌日、また前触れもなく帰ってきたセイジは土産にたこ焼きを持ってきて二人がやたら喜んでいたのを不思議そうに見ていた。
ちょい足し設定
ハルキ・・・意外とスイーツ系は当たりが多いのが発見。海鮮と肉はだいたいうまい。でもやっぱりタコが一番だと思う。イカは似てるけどなんか違う。ネギと大根おろしをかけるのも好き。
アオ・・・変わり種もおいしかったがやっぱりタコで、ソースとマヨネーズの王道が良い。タコ単体はあんまり好きじゃないけどたこ焼きは好き。