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第十四話 何もない日のランチ


 何もない日というものが時折ある。食材がないのもそうだが、やる気がないということもある。冷蔵庫の中にあるのは常備しているような食材と冷やご飯ぐらい。買い物に行ければいいのだが、外はあいにくの雨。そして手の込んだ物をつくる気にもなれない。料理は嫌いじゃないのに時々やる気の起こらない日というものはある。

 となると、今あるもので何とかしなければならない。改めて冷蔵庫に入っている食材を吟味する。飲みかけの牛乳や食べかけのジャム、卵は二個だけ、スライスチーズとスライスハムはだいたい常備してある。そして野菜室にそれだけはなぜかまるまる一個あるキャベツ。冷やご飯は二、三人分といったところか。あとはメニューを決めるだけなのだが、こういう日にもってこいの料理がある。ちょうど必須のご飯もかろうじてある。ならば決まりだ。

 冷やご飯をレンジで温め始め、その間にスライスハムを数枚短冊状に切る。このスライスハム、一枚ずつ食べるのには便利なのだが、まとめて切るとくっついてしまい剥がすのに手間がかかる。失敗して半冊になってしまったが無視。キャベツは二、三枚はぎ取り適当に切る。ご飯が温まったら油を引いて温めておいたフライパンにまずキャベツ、そしてご飯とハムを一気にぶち込む。最後に溶き卵を流し込み木ヘラでパラパラになるよう混ぜる。味付けは塩こしょうと鶏ガラスープでシンプルに。

 ずぼらランチの定番、焼きめしができた。三十分かからなかった。

「できたぞ」

 リビングでゴロゴロしていたハルキに声をかける。こちらも今日はやる気なしデーだ。

「おー、サンキュ」

 声もやる気がない。それでも腹は減る、ということでズルズルとやる気を後方に引きずりながらやってきた。ちゃぶ台に並べられた焼きめし二人分、味噌と出汁の素をお湯で溶かしただけの簡易味噌汁に浮かぶ乾燥わかめが栄養分をカバーしている。

「それじゃあ、いただきます」

「召し上がれ」

 こうしてやる気のない日の昼食が始まる。適当に作った焼きめしは店のようなパラパラとは言えず、卵も白身や黄身が所々固まっている。いつもなら丁寧にするのだが今日はこれでいいかと投げてしまった。それでも味は普通にうまいと思う。プロの味なんか遠く及ばない、そこそこおいしい家庭的な味だ。

「チャーハンって誰が作ってもそれなりの味がして便利だよな」

 あと中途半端に残っている食材を片付けるのにも便利だし、とハルキ。しかしそこでふと、疑問が浮かび上がる。

「焼きめしだろ?」

 少なくとも自分はこれを焼きめしのつもりで作った。

「チャーハンじゃなかったのか?」

 炒めたご飯、卵、ハム、キャベツ。具材は変わらない。味付けも鶏ガラスープと塩こしょうだけ。

「チャーハンと焼きめしの違いって何だ?」

「あー、考えたことなかったわ」

 自分もだ。

「チャーハンは中華だから、中華の味付けはチャーハン?」

「鶏ガラスープってどっち」

「具材の違い?」

「レタスチャーハンは店で食べたことある。でもキャベツ入ってたのもあった」

「ごま油が中華でサラダ油なら和風? じゃあバターで炒めたら洋風か?」

 果たして、両者の違いは何か。自分たちが何を食べていたのか、作っていたのかも知らず何十回も食べてきた何か。

 炒めた味付きのご飯、名前が違うだけで国籍まで変わるのだろうか。

「このどっちだ論争、何度目だ?」

 食べ物・料理問わず、こういった話はいくらでもある。

「ちょっと前にも同じような話、してなかったっけ? あの時はチャーシューと焼き豚だっけ?」

「で、その結論は覚えているのか?」

「・・・」

 調べたはずだ、だがもう忘れている。そしてまたラーメンを食べるたびに同じ疑問にたどり着くのだろう。結局その程度の雑学知識は覚えては忘れるだけだ。きっとチャーハンと焼きめしの違いもすぐに忘れてしまう。

 やる気のない日は考えるのも鬱屈になる。結局チャーハンでも焼きめしでもどっちでもいい。定義が決まっていないならあとは言ったもんがちだ。

「チャーハンでも焼きめしでもいいし、チャーシューと焼き豚の違いを覚えていなくてもかまわない。それより問題がある」

「問題?」

「今日の夕飯をどうするか」

 卵と冷やご飯は使い切った。ジャムや牛乳はおかずにならない。野菜室に唯一キャベツがほとんどそのまま残っているくらい。こういう日に限って長期保存できるインスタント食品や缶詰は切らしている。そして外は土砂降り。

「・・・」

「・・・・・・」

 外出を拒絶するかのような雨音、ほとんど中身がないにも関わらずけなげに働き続ける冷蔵庫の稼働音だけがむなしく響いていた。






 ちょい足し設定


 ハルキ・・・チャーハンや焼きめしって手軽な感じだけどカニとか入るとちょっと豪華。でもカニチャーハンと言われ出されたのがカニカマだったと、食後台所に捨てられていたパッケージでわかった。

 アオ・・・中途半端な野菜や肉を片付けるのに焼きめしは最適。それでも水分の多い食材は注意。モヤシはべちゃべちゃになった。ハムじゃなくてソーセージとか入れるとボリュームアップ。チャーシューまたは焼き豚でもいい。



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