第一話 オムライスの儀式
得意料理は何だと聞かれたら答えられる料理がまず一品出てくるのは料理上手だからとかいう理由じゃない。ただたまたま日常的に料理をする環境にあったことと、その中で特に練習を重ねた料理がそれだったという話だ。
Q得意料理は何ですか?
A.オムライスです。
特別珍しくも難易度がむちゃくちゃ高い訳でもない料理は、しかし初心者には難しい料理とも言われるだろう。それは実際に作ってみて実感したことだ。ただ作るだけならその工程は多くない。材料も一般家庭では珍しくも高価なものでもない。ただ卵でチキンライスを巻く、その工程一つがこの料理の難易度を一気に爆上げしている。
そもそもなぜオムライスが得意と言い切れるほどに練習したのか。きっかけは日曜の昼間に見ていたバラエティ番組だった。今都会で人気(主に若い女性)のオムライス専門店が紹介されていた。だからオムライスを作ったという訳ではない。それをきっかけに始まった会話が理由だ。
『こちらが当店一番人気の高級○○卵を使ったふわふわとろとろオムライス~自家製デミグラスソースがけ~スープ・サラダセットです』
ふわとろだけじゃ足りなかったんだろうか、やたら無駄に長いメニュー名を注文されるたびに復唱しているんだとしたらここのスタッフすごいなとか思いながら、番組のゲストがおいしそうにオムライスを食べるのを見ていた(ちなみにその時のゲストは元人気アイドルグループの一員で最近卒業してソロ活動し始めたばかりの歌手だった)。
ふわとろ(×2は必須)という名前の通り、そのオムライスはいわゆるおしゃれな店で女の子がバシャバシャと写真を撮りたがりそうなビジュアルだった。ただ俺の中のオムライスというのは薄焼きの卵でチキンライスを巻いてケチャップをかけたラグビー型の卵料理なので、今テレビに映っているオムライスがどうもオムライスには思えなかった。
「なあ、ああいうオムライスって、もはやオムライスと言っていいのか?」
畳の上でごろごろと寝そべりながらテレビを見ていた俺に突然質問を投げかけられ、そいつは
「は?」
と、言っている意味が伝わってないのか、阿呆でも見るかのような目をして俺を見下ろしていた。伝わっているかもわからないし答えないことにも気にせず俺は言いたいことを言ってしまう。
「いやだって、オムライスって言えば薄焼き卵でチキンライスを包んだあれだろ? なのに今テレビでやってるやつは薄焼き卵じゃないし、そもそも包んでないじゃん、乗せてるだけじゃん」
ここでようやく俺が言っている意味を飲み込めたらしく、そいつは「ああ」と視線を俺からテレビに向ける。
「でも今流行のオムライスってああいうのだろ。ふわとろとか、ドレスとか」
「ドレス? 何それ、オムライスが着飾るの?」
頭の中に野菜や肉でドレスアップしたオムライスが皿の上でオホホホと楽しげに笑っているシュールな映像が浮かんだ。今度は俺の方が意味わからないモードだ。俺の言葉に口では返さず、そいつはついとテレビの映像を指さした。そこには先ほどのふわとろ何とか(ふわとろ一回分は省略)ではなく別の店のオムライスらしいものが紹介されていた。ちゃんと最初から見ていなかったから知らなかったが、どうやらオムライス特集だったらしい。次の店もやはり女子に大人気のカフェレストランらしく、十代二十代の女子たちが一時間並んでも食べたいオムライスとして紹介されていたのが先ほど聞いたドレスオムライスとやらだった。正確にはドレス・ド・オムライスというらしい。なんか外国の貴族みたいな名前のそれは、これまたトロトロの卵をぐるりと巻き込みドレスのような見た目をしているものだった。絶対一般家庭でつくるやつではないな、と一般家庭からオムライスが遠のいている気がして少し寂しくなった。他にもオムレツをライスの上に乗せてからナイフで切り込みを入れるとぱかりと割れてとろとろの卵がライスを覆う姿に思わず「おお!」と感嘆の声を上げてしまった。まあ、俺が求めてるオムライスの姿ではなかったけどね。
「え~これもオムライス? みんなオムライスに何求めてるの。こんだけトロトロの卵ばっかりって、じゃあ十年後には逆にガチガチの卵を乗せたオムライスが流行るの?」
「いや、ガチガチの卵ってなんだよ。ゆで卵じゃ余計オムライスから遠のくだろ。逆を行くなら普通のオムライスが流行ったりするんじゃないのか?」
けっこうまじめに返された。実際その傾向はあるらしく、オムライス特集でも懐かしのオムライスとか、昔ながらのオムライスという名前で紹介されているのは昔から家庭で食べられているラグビー型のオムライスだった。生○○とか、半熟とかが流行った後は固めや昔懐かしいものが流行るらしい。というかわざわざ昔ながらとか付けないとだめなんだろうか。
まあ流行は置いといて、
「オムライスのオムってオムレツから来てて、薄焼きの卵で包んでるとか意味があるんだって。その定義じゃあれはオムライスじゃないんじゃない?」
Google先生に聞いた答えを自慢げに語るが、もうこの論争に飽きてきているらしいそいつは適当に返してきた。
「呼び方なんてそのときで色々変わるんだろ。それより昼食の準備が何もできてないんだけど」
そういえば時計は正午を指している。腹時計もそろそろ飯にしろと訴えている。そもそも昼飯前にこんな飯テロ番組をされたら腹がすくというものだ(オムライスとは認めにくいが、ちょっとうまそうに見えたのは事実だ)。
仕方がないと身体を起こし台所へ向かう。冷蔵庫を二人してのぞき込めば、まるで狙ったかのように卵と鶏肉がある。ここで親子丼にしようと言うのはひねくれているだろうか。既に口の中はオムライス一択だ。幸い冷凍庫には昨日作り置きしたご飯が残っている。ケチャップは常備。ついでにタマネギやピーマンなどの野菜もある。
俺の下から腕を伸ばし冷蔵庫から取り出した卵をじっと見つめる小さな頭も同じことを考えているのだろう。メニュー名を言わず、必要な材料を二人でテーブルの上に並べた。卵、ご飯(二人分)、ケチャップ、鶏肉、タマネギ、お決まりのグリーンピースはなかったので緑要員はピーマンで。そう思って野菜室から取り出したのだが、取り出された野菜がテーブルに並べられるとそいつの眉間に皺がよったのを見逃さなかった。
「なんだおまえ、野菜嫌いなのか?」
いつもは大人よりもしっかりしていると言われるほどかわいげのない子供だったそいつにも子供らしい部分があったことに思わずにんまりと口角が上がってしまう。
「別に・・・」
素直に言えないところがまた子供らしくてちょっとかわいらしいと思えてしまった。まあこの頃はまだそこまで気を許すほどの仲ではなく、お互いの好みなど知るはずもなかった。そんな頃だから素直に嫌いなものを言えるはずもなかっただろう。
俺は一度テーブルに並べた野菜を手に取り、シンクではなく冷蔵庫の野菜室に黙って戻す。
「? なんで」
「今日は贅沢にチキンだけライスで作ろう」
不思議そうに俺の行動を見守っていたそいつは俺の言葉に驚き目をぱちくりと瞬いていた。きっとからかわれると思ったのに俺の反応が意外すぎて驚いていたらしい。そのまま見ていたい気もしたがちょっと恥ずかしくて、俺はそれ以上何も言わず余裕ぶって鼻歌を歌いながらキッチンに鶏肉を運んだ。皮付きの鶏もも肉はまだ料理に慣れていないので切るのに苦労する。しばらく背中に視線を感じていたが、少しして
「わざわざ気を遣わなくても良いのに・・・でも、ありがとう」
思わず後ろを振り返ったがそのときには既におらず、電子レンジにご飯を入れていた。その横顔がほんのり赤く染まっていたのは見間違いではないはずだ。
元々俺は好き嫌いを無理になくす必要はないと思っている。俺自身嫌いなものはあるし、うちの親はそれを許してくれるほどしつけには緩かった。好きなものを食べて栄養さえとれれば問題ないのに、無理に嫌いなものを一緒に食べて好きなものを台無しにしてしまう気がした。
まあとにかく、野菜抜きのオムライスを作ることになったのだが、先に言ったように初心者には少々難易度の高い料理だ。レシピ自体はネットでいくらでも手に入るし、今回は初心者向けのサイトからレシピを拝借して作ることにした。初めての料理で冒険するほど無謀ではない。
卵を割る、今回二人分なので四つとレシピには書かれているが、大人と子供一人ずつではどう考えても多すぎるので三つにして、他の材料も一,五人前にした。卵を割るのは何とかできた。小学校の家庭科で教わったやり方だ。学校の無駄に思える授業にも役に立つことはあるのだと感謝した。鶏肉は面倒くさくてもも肉一枚分を切る。他の具材がないのだからそれを補うと考えればいいだろう。
材料を切り終えたらチキンライスから調理を始める。定番のケチャップライスだ。火を使うのでここからは俺一人で行う。まず鶏肉をフライパンで炒め塩コショウで味付けする。ここでまず第一関門。塩コショウ少々とはどの程度なのだろうか。おっかなびっくりで振った塩はぱらりぱらりとかかる程度、逆にコショウは軽く振ったつもりだったのに一気に出てしまい、換気扇の風で俟ったそれは俺のすぐ横で見守っていたやつの顔に直撃した。
「あ、悪い」
ゴホゴホと咳きこみながらこちらをにらんでくる姿に思わず謝る。肝心のコショウはフライパンにあまり入ってなかった。もう一度振るうときはしっかり距離を置かれてしまった。
鶏肉もどの程度焼けば良いのかわからない。生焼けはまずいと思いしっかり目に焼くことにしたが後でやり過ぎたと後悔することになる。解凍したご飯を加え木べらで混ぜながら炒め、さらにケチャップを入れるのだがやはり加減がわからない。レシピには大さじや小さじで説明されているがこの家にそんなものは用意されていない。なので小さじはティースプーン、大さじはカレー用の大きめのスプーンで代用した。まあ味が薄くても後でケチャップをかけるから大丈夫だろう。辛くなりすぎるよりはマシだと思い、少しばかり薄い色のチキンライスができた。
さてここからが最大の関門。できたチキンライスをいったん皿に盛り、溶いた卵をフライパンに流し入れる。フライパンを持ち上げるのでコンロの前には一人で立つ。そこそこ重いフライパンを回すように傾け卵を広げていく。なるべく均等に厚さをそろえたいのだが中々うまく行かない。苦戦している間に卵が固まってきてしまったので慌てて先に作っておいたチキンライスを入れる。オムライス最大の難関であり特徴でもある卵を包む作業だがサイトに書いてある、フライパンの端にライスを寄せて~とかの指示は想像していたより難しかった。木べらで卵をちょっとずつライスにかけて包もうとするが既に卵は一部が茶色くカリカリになってしまっていてうまく包めない。結局最後には皿に盛った後無理矢理ラグビー型に押し込んだ。生まれて初めてのオムライスは中々の芸術作品となっていた。
幸いこれは俺の分で、二回目に焼いた小ぶりなオムライスはやはり完璧とは言いがたいが一回目よりはだいぶんマシなできばえだった。
レシピに書かれていた所要時間をオーバーしてやっとできたオムライスをちゃぶ台に並べた頃にはオムライス特集の番組は終わっていた。
オムライスを運んだ後、麦茶を入れてリビングに戻れば、先ほど並べたオムライスに付け加えられたものがある。俺の分、特に見た目がひどく、卵の隙間から鶏肉が顔をのぞかせているそれを隠すように、ケチャップでデコレーションが施されていた。これは俺の分なのだとはっきりわかるように、『はるき』と書かれている。書いた犯人はわかっている。俺の他に一人しかいないのだから考えるまでもない。ただこの親切なのかどうかもわからない行為に、思わず笑わずにはいられなかった。既に自分の席に座っている犯人は恥ずかしそうにそっぽを向いてこちらと目を合わせない。
「くくっ、これ、お前が書いてくれたのか」
自分の分よりまず俺の分に書いたのだろう。まだ小さなオムライスには何も書かれていない。
「おまえ、ちゃんと子供なんだなあ」
「なんだよそれ、馬鹿にしてるのか」
「違う違う、むしろ安心したってこと」
そう、いつも何事にも興味ありませんと素っ気ない態度を崩さず、子供らしいところを見せないこいつも、オムライスに名前を書くくらい子供らしいところがあったのだ。まあこの頃はまだお互い信用しきっていなかったから警戒していたところもあったのだろう。子供らしい行動を自ら見せないようにしていたのかもしれない。後で聞いたら嫌いなものを笑わなかったから少し信用しても良いと思い始めていたらしい。
ただ『はるき』はカタカナで書いた方がよかったかもしれない。文字の大きさの配分を誤ったらしく、最後の『き』は明らかに小さくオムライスからはみ出ていたし、『る』は○の部分がつぶれて『ろ』にも見えた。
「書きにくい名前なのが悪い。改名しろ」
「いやいや、オムライスに書きにくいから改名しろって、どんな理屈だよ。しかも何だよ、このできばえ」
まあ書きにくい名前だっただろうな。○のつく字は特に書きにくいのだろうか。試してみようとケチャップを手に取り、小さなオムライスを皿ごと奪い取る。
「おいっ」
「まあまあ、俺が見本を見せてやろう」
俺の分は書いてもらったんだから、こちらは俺が書くべきだろう。オムライスに名前を書くのは子供にとってはちょっとした楽しみだ。『はるき』に比べれば二文字は書きやすい。
俺の『はるき』に習ってこちらもひらがなで書く。よし、うまくいったと最後の『お』が終わろうとした瞬間、ケチャップは咳き込んだかのようにブシュッと塊を一気に吹き出し、『あお』の○部分をつぶしてしまった。結果ダイイングメッセージみたいな『あお』が完成した。なんかホラーゲームの演出されたタイトルみたいだ。
結局どちらの名前もまともなできばえにならなかった。
「そっちだってひどいじゃないか」
「いやいや、これは事故だから。何事もなければうまくできてたって」
負け惜しみみたいな言い訳だが、その主張が通ったのかどうか、確認する前に腹の虫がいい加減にしろと盛大に鳴き始めた。それは誰の、ではなく奇跡的にどちらも同じタイミングだったのが後々笑い話として語り継がれることになる。
「ま、とりあえず飯だな」
「そうだな」
改めて各々の席の前に自分のオムライスを置く。そして手を合わせ、
「「いただきます」」
やっと遅めの昼食が始まるのだ。
ちゃぶ台に並ぶ黄色いラグビーボール型の物体。赤い化粧を今か今かと待ち望んでいるように見える。考えてみれば中身もケチャップライスだから内も外もケチャップ味だ。某有名チェーン店ならデミグラスソースだとか、明太子ソースだとかバリエーションも多いのだろうが、家で作るものにそこまでの創作性や高級感は求めない。オムライスを食べたいと思って食べるのはいつだって家で作るシンプルな形なのだ。
まあそれはそれとして、今日も我ながら美しくできたと思う。初めて作った時は悲惨だった。辛うじて卵で巻いたと言えるレベルのそれは卵の混ぜ方が適当だったために所々白身が固まり白の斑点がいくつも浮かび上がっていたし、卵の厚さは場所によってバラバラ。端っこの方は焦げかけて茶色くパリパリになっているのに中央の方は分厚くブヨブヨ、破れた卵の隙間から飛び出ている鶏肉は念入りに焼いたためか香ばしいを通り越している。中のご飯はやはり薄味。上からかけたケチャップでごまかした。ご飯は固まっている部分もあり餅みたいだった。
お世辞にも上出来とは言えないそれだったが、不思議とうまく感じたのは自分たちが苦労して作ったからもあるが、きっとそれだけではない。
「何にやにやしてるんだよ」
会心のオムライスを前に初体験を思い出しにやにやしてしまっていたらしい。麦茶の入ったグラスを両手に台所から出てきたその顔の眉間には隠す気もなく皺が寄っている。子供のうちからそんな顔すると老けるの早くなるぞ。
「いや~、我ながら完璧にできたと思って」
「オムライス一つ作れたくらいで誇ることじゃない。それにあれだけ毎日作れば誰だってうまくなる」
可愛くない評価。まあ確かに毎日昼食の度にオムライスを作っててうまくならなかったらどれだけ才能ないんだと嘆きたくなるな。その後しばらくは卵すら見たくなくなったものな。それでも忘れた頃、昼食のリクエストを聞いたらオムライスと何度も答えてくるくらい気に入ってくれているのだろう。
「あんまり生意気言うと、ピーマンやグリーンピース入れちゃうぞ」
「今どっちも家にないだろ」
今というより、基本的にこの家にその二つがあること自体あまりないのだが。甘いと言われるかもしれないが、他で栄養とれてるなら無理に嫌いなものを食べなくていいというのが持論だ。やはり食事は楽しくあるべきだ。
ちゃぶ台に並べられた大小のオムライス。そこに麦茶が添えられる。初心を思い出しついでに良いことを思いついた。
「そうだ、久しぶりに名前書いてやるからお前も書けよ」
「は? 書きたかったら自分のに書けよ」
「いいじゃんか、最初の頃はよく書いてくれたじゃん」
最近はやらなくなっていた儀式のような習慣。なぜか書くのはお互いの名前。
「たまには初心に帰ってってな」
そう言って文句も無視して小さめのオムライスを取り上げ、逆に大きい方を相手の前に置く。
「今日はうまく書けるかな~?」
そう子供扱いすればむっとした顔つきになり
「いつまでも昔のことを繰り返し言って年寄りかよ。そっちだってひどかったくせに」
「お前だって言ってるじゃん。それにあれは事故だったろ」
こんな会話もオムライスを作るたびに繰り返されるネタだ。そしてなんだかんだ言ってやってくれるんだよな。
ケチャップの残量を確認し、逆さまにすると一文字ずつ、一気に書き上げるのがうまく書くポイントだと学んだのは何度目の時だっただろうか。その頃にはオムライスもオムライスと呼ぶにふさわしい形になるまでになっていた。
美しい黄色の楕円形に「はるき」の名前が刻まれた。ひらがなで書くのは最初に作った時以来、何も言わずともお決まりとなっている。そして相手の名前を書き終えれば自然ともう一方にケチャップを差し出す。俺もケチャップを慣れた手つきで操り、見事な「あお」の文字を書ききる。書き終わったオムライスは交換しお互いの目の前に並べられたところで、
「「いただきます」」
食事を始める。
この家のオムライスはいつだって世間が言う昔ながらの卵を楕円形に巻いたシンプルなもの。最初からさらにお互いの好みも反映して中身は大きめの鶏肉だけがごろごろと、ケチャップライスは濃すぎずべたつかない程度に少し薄味、上にかけるのはケチャップのみ。
味も見た目も文句なし。専門店のような最高と言える味ではないが平凡で好みの味。ただ一つやめてほしいことが。
きれいに書かれたマイネーム。ただ小さなオムライスには陰も形も残っていない。あるのは黄色全体を覆う赤いケチャップの海だけ。
「なあ、せっかくきれいに書けたのに速攻消されるのはなんか悲しいんだが」
「全体に塗らないとケチャップの味が行き渡らないだろう。それに食べてたらどうせなくなるんだし」
食べ始めてまずすることはケチャップを卵全体に塗りたくること。きっとラテアートとかもこいつにとって楽しいのは最初の数秒だけなんだろうなと、少しもの悲しい気分になるのも久しぶりの気分だった。
ちょい足し設定
ハルキ・・・初めて作ってからしばらくオムライスを定期的に作った結果得意料理に。二十ちょっとだけど流行のとかインスタ映えとかには惹かれない。だがオムライス食べすぎてトロトロのやつも良いかもって思えてしまった。
アオ・・・十歳前後なので食べる量はハルキに比べ少なめ。本当は卵料理の中で一番オムライスが好き。今は自分好みに作られる家のオムライスが一番好きだけど口にはしない。