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よかったね

「……で、ミカンが急に大きくなって頬の怪我を治したと」


 詩織にしこたまボコられた一坂は、足つぼマットの上で正座させられていた。


「そ、そうなんだよー。俺もびっくりしちまってさー。アハ☆」


 キャハッ、とぶりぶりかわい子ぶってこの場を乗り切ろうとする。

 その横で一坂の学校指定ジャージを着せれたミカンがご機嫌に蜜柑をパクついていた。


「……ふむ。まあいい」


 案外すんなりだった。

 なんだか拍子抜けの一坂は、念のためもう一度セクシーポーズをサービス。

 詩織は冷静に目の前のグロ画像を無視すると、


「これを見てみろ」


 テレビをつけた。

 しかし画面は、ザザー、と砂嵐状態。


「相変わらず調子悪いな」


 ぼやきながらブラウン管のテレビにチョップをかます。

 ニュース番組が映った。


「さすが伝家の宝刀。おかげでしばらくテレビを買い替えなくてすむ。よっ! きのくにや!」

「適当なこと言ってないで、さっさと見ろ」

「? なんだなんだ? そんな面白いもんやってんのか? それより俺はせっかくだから星座占いが気になるね。金運が気になって気になって」


 残念ながら、星座占いコーナーはまだのようだ。

 画面の中では二人のアニメキャラが対話形式で朝のニュースをポップに紹介していた。


『みんなおはよう。今日の担当は私、バーチャルキャスターの鮭高菜ツナマヨと』

『………ZZZ』

『ちょ、ちょっとユカリっ。何まだ寝てんのよ!』

『……ふぁ? あ、ツナマヨちゃんおはよ~』

『おはよーじゃないわよ! もう生放送始まってるから!』

『………………。ど~も~、梅時雨ユカリで~ふわあぁぁ……』

『でっかいあくびしてんじゃないわよッ!』


 微笑ましい二人のやり取り。


「相変わらずボケとツッコミのバランスが絶妙だな。キャラクターとしてはコテコテだが、それゆえに抜群の安定感がある。いいコンビだ」


 一坂が評論家気取りでうんうん頷いている。


『むにゃむにゃ。それでツナマヨちゃん。今日はどんなニュースが入っているの~?』

『……もういいわ』


 ツナマヨちゃんは朝刊の一面を棒で指した。


『今日の明け方、あの宇宙連合から各国政府に通達がきたの。驚くんじゃないわよ? なんでもこのチキュー星に未知の生物、エイリアンが侵入したらしいわ』


「…………………………」


 一坂は嫌な予感がした。

 

『この報告を受けて警察の人たちが一斉に捜索を開始したわ。しかもこのエイリアンは宿主の体に寄生すると、その体内で卵を孵化させるの。そして生まれてから間もなく急成長を遂げて、宿主を自分の親と認識する習性があるらしいわ』


「パパー」


 一坂のことを〝パパ〟と呼ぶミカンが、蜜柑片手にぶんぶん手を振っている。


「………………………………………」


 ツナマヨちゃんは無情に話を続ける。


『危険視するところは、一つにその尻尾』


 ミカンの腰から凶悪極まりない漆黒の尾が、ギュオンッ!、と飛び出した。


『その尻尾は鉄でさえ簡単に切断してしまうほどの驚異的な鋭さがあるそうよ』


 器用に蜜柑の皮を切除した尻尾は、勢い余って一坂の顔面スレスレを通過。

 頬に任侠映画風のカッチョイー傷をつけて天井に大穴をあけた。

 一坂は白目を剥き、鼻水を垂らした。


『二つ目は強力な酸の涙』


 ミカンは綺麗に剥けた蜜柑を掲げながらこっちに駆け寄り―――こけた。


『こっちもどんな物だろうと容赦なくドロドロに溶解してしまうの』


「うえーん」


 ミカンは泣いた。


「家が! 家があああああって熱っつ! 尻があああああああっ!」


 スプリンクラーのように飛びきった強酸の涙が一坂のケツを掠めた。

 あまりの激痛に悶絶しながら床を転がる。

 足つぼマットの上で正座の方がまだマシだった。

 そうしている間に壁やら家具やらが問答無用でハチの巣になっていく。


「ひいいいっ!? このままじゃ俺んちがバターになっちまう!」


 一坂は穴のあいたおしりをさすりながら、てんわやんわの大慌て。

 ミカンは、えんえん泣いて格安ボロアパートの日あたりを良好にしていく。

 これなら夜にはさぞ綺麗な星空が拝めることだろう。


「自宅でキャンプなんて随分洒落てんじゃねーか!」


 一坂が、今夜はバーベキューかな?、とか軽く現実逃避していると、


「あ、あれは―――っ!」


 床に転がる蜜柑を発見。

 脳内で、ひらめきの星がキュピ―ンと光った。

 

「ええーいいちかばちか! やったんぜちくしょったれえぇぇ―――っ!」


 一坂は蜜柑を引っ掴むと、雑っぱらに皮を剝き、


「泣きやめぇぇぇ―――――っ!」


 大泣きするミカンの口の中にぶっ込んだ。


 パクン………もぐもぐ………ごっくん………パアァ~。


 泣きやんだ。

 一坂は蜜柑をウマウマするミカンの前で、ぐしゃ、と膝から崩れ落ちる。

 疲れ切っていた。


「あかん……これは絶対にあかんヤツや……」


 悪夢から目覚めてまだ一時間も経過していないのに、コレである。

 一坂は自分の平和な日常が、お気軽にぶっ壊されたのを確信した。


 奇跡的にチーズになる運命を免れたブラウン管。

 ツナマヨちゃんがお待ちかねの星座コーナー開始を宣言した。


『今日の一位はやぎ座よ!』


 一坂はやぎ座だった。


『よかったわね!』


 全然よくねえ………。





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※数ある作品の中からこの作品を読んでくださり、本当にありがとうございます。

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                              おきな

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