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お前は、誰だ


「………なぜ負けた……なぜ勝てない……」


 ワッチワンはうわ言のように呟く。

 散らかった床に仰向きに倒れ、己の復讐が成されなかったことへの単純な自問自答を繰り返していた。

 復活した右目は再び閉ざされ、残った愛玩動物のような左目が虚空を見つめた。


「……あのガキのせいで……あの、メスガキっ」


 現実を見ない堂々巡りは自らを顧みることはない。

 頭の中で捻じ曲げられ、いわれのない責任転嫁へと昇華された。


「メスガキ……あのクソメスっ!」


 ワッチワンはいまだ混濁する意識の中、それに縋るように憎悪の対象を探す。


「……オレは負けないっ! 負けるはずがねぇ! あんなクズ親父の……弱者と同じことをした奴に、この、オレが―――」

「黙れよ、ワッチワン」


 その憎悪の対象が、いきなりワッチワンの左目を覗き込んできた。


「俺はお前を諭すつもりなんかない」


 一坂は語り掛ける。

 ちょうど自分がひれ伏していた時に、そうされたように。


「俺はお前の親父さんの顔も名前も知らないが尊敬している。そして若輩の俺が一人の親として、その人と同じことができたことを誇りに思う。お前は、そんな俺に負けたんだ」

「…………………………」


 違う。

 今のこいつは、ヤツじゃない……。


「お前は……誰だ………?」


 朦朧としたワッチワンの目に、誇らしげに笑った顔が映った。


「俺は秋山一坂。この宇宙でたった一人のミカンの父親さ」


 そう言い残し、一坂は踵を返した。


 その足は淀みなく。

 こんな状況でも覚まさない、呑気な眠り姫へと向いていた。




「……………もういい」




 一坂の背後で気配が荒々しく膨れ上がった。


「!? しまっ―――」


 反応するより速く、ワッチワンがもの凄い勢いで横を通り過ぎた。

 大きく飛び上がり、いまだ真っ二つ状態の獲物に指先から伸びた鋭い爪を突き出した。


「………………っ。ハぁあ! ……そうだよなあ!」


 ワッチワンの裂けた口がついに歓声を上げた。

 それには自分の思惑がハマったことへの達成感と、あまりのあっけなさ故の拍子抜け感が混じっていた。


「〝お前達〟の弱点は、昔から決まってるよなあ!」


 ワッチワンの太い爪は、一坂の右肩を貫いていた。

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