親子は同じ帰路に着く
アパートから少し離れたところにある公園に一坂とミカンはいた。
あれから帰路に着いた二人だったが、ここの遊具に心を奪われたミカンが園内に突撃。ジャングルジムにしがみついた彼女に根負けし、仕方なしに寄り道する運びとなった。
(にしてもなー……)
一坂はブランコに乗るミカンを後ろから押しながら頭を悩ませる。
その種はもちろんあの清純度一〇〇%のイケメン野郎、名取のことだ。
彼は一坂たちが待ちに待った宇宙連合からの使者だった。
できるなら、あの場でミカンのことを打ち明けるべきだったかもなのだが………
《過去回想》
「名取さん、実は……」
「さあ、あとの始末は私に任せてあなたたちは家に帰りなさい」
「いや話が―――」
「ここでのことは他言無用でお願いします。便宜上、私の行動は秘密裏が好ましいので」
「あのはな――」
「それではよろしくお願いしますね」
路地から追い出された。
《過去回想 終了》
(あんにゃろ人の話全然聞かねーっ! しかも一〇〇%善意で言ってきやがった!)
一坂は断言する。
あの男とは絶対に反りが合わないと。
(………ま、いっか)
とりあえず今日のところはミカンが無事だったことでよしにしよう。
それに先に現れた二人組もいるし、報告くらいはしてくれるだろう。
そうなれば……
「……………………」
「パパ?」
ミカンがこちらを振り返ってきた。
隣のブランコに腰を下ろした一坂はぶらぶらさせながら、
「実は俺、拾われっ子なんだ」
雲一つない夜空に流すように、ぽつりと呟いた。
なんでこんなことを話す気になったのか。
一坂自身にも定かではないが、不思議と口調に淀みはない。
幼いミカンがどこまで理解できるかはわからないが、なんとなくというやつである。
「昔、俺は詩織に拾われたんだ」
あの時のことを思い出しながら、語る。
「それまでのことは何にも覚えてない。目を覚ました時にはベッドで寝ていた。俺の名前を付けたのも詩織なんだ」
自分が何者で、本当は何歳で、どこで生まれたかもわからない。
しかし、一坂の声は悲壮感を感じさせない。
それは既に自分の中で何度も整理をした結果だった。
「それから俺の両親になってくれる人が現れて、温かかった。こんな俺を息子として受け入れてくれた。多分だけど……愛して、くれてたんだと思う」
一坂は申し訳なさそうに顔を伏せる。
「だけど俺にはその感情の扱い方がわからなかった。どうやら昔の俺は、愛情ってやつにあまり縁がなかったらしい」
家族という特別に自分という異物が混ざることが、どうしても違和感だった。
自分がいる限り、あの明るい場所には必ず影が差す。
まるでパズルに一つだけ違うピースが混じっているようで、それのせいで絵は絶対に完成しない。
「あそこに俺の居場所はあったが、俺がそれを受け入れられなかった。それが後ろめたくて、結局家を出ちまった。とんだ恩知らずだよ」
まるでその辺に石でも投げるかのように、一坂は話す。
「そんな俺なのに、あいつだけは……詩織だけはずっと一緒にいてくれたんだ」
一坂の行為を咎めるわけでも、諭すわけでもない。
ただ、傍に。
一坂が今も孤独じゃないのは彼女の存在があったからに他ならない。
どれだけ知り合いを作ろうと、その穴は決して埋まることはなかっただろう。
だから決めたのだ。
詩織のいる、この日常だけでも守りたいと。
一坂の価値観に置いて、彼女の存在はまさしく頂点にあった。
そこに現れたのが、ミカンだった。
ミカンの存在は一坂の守るべき普遍を壊してしまう可能性を十二分に孕んでいた。
なにせ事の規模は惑星レベル。
いくら詩織が異を唱えようと。
たとえ自分のやっていることが非情であろうと、自分の守るべきもののためなら、そうすべきだと思った。
「気付いちまったんだ。お前はもう、俺と詩織の日常にいるんだってな」
思わず戸惑い、目を逸らし、覆い被せてしまったその感情。
それは心の中に空いた、決して埋まることのなかった穴に注がれ、秋山一坂をいつの間にかまるごと満たしてくれていた。
「だったら俺は、失いたくない。詩織とお前のいる日常を」
それを自分は一度は手放した。拒絶した。
それなのにこの少女は今もこんな自分に純粋な感情を送ってくれる。
自分ができなかったことを。
ただの一度でも、両親と呼ぶべき人達に向けることのできなかった、その笑顔を。
だからこの笑顔を守るためなら、自分は―――
「……そろそろ帰るか」
一坂はブランコから降りて、歩き出した。
「パパ……?」
ミカンが、呼んでいる。
「パパっ!」
自分が置いてかれると思ったのか、ミカンは不安げにより声を張り上げた。
(…………悪い)
一坂は背を向けたまま、ポリポリ頬を掻いた。
(やっぱ慣れるまで、もうちょっとだけ時間をくれ)
心の中でそう謝ると、一坂はゆっくりと振り返り、
「あいよっ」
耳と頬を真っ赤に染め、不器用な笑顔を浮かべながら、応えた。
「―――っ。パパー!」
まるで夜に上った太陽のような笑顔だった。
ブランコを投げ出し、どーんとぶつかってくる。
一坂はそれを背中で受け止め、おんぶした。
背中越しに伝わってくる。
そこにある温かい重さがくすぐったく、そして心地よい。
ずっと感じていたい。
この温かい感情をできるなら、ずっと。ずっと………
「……………………」
一坂は静かに目を閉じ、小さく首を振った。
見上げた遥か上空に広がる星々の煌めき。
その薄暗くも明るい夜空の下を、二人は同じ帰路に着いた。
ゆっくりと歩いてく。
ゆっくり。ゆっくりと。
第二章、終了。
ここまで読んでくれて、本当にありがとうござります。
感想など頂けると嬉しくて踊ります。
第三章は近日中に投稿予定。
もしよかったら、そっちも読んでくださると嬉しおすうぇ。




