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「さあ、次の衣装だ」
「あ、ああ………」
一坂は曖昧な返事をしつつ、個室から出てきたウサギのおかげで、少しだけ気分を取り戻すことができた。
バニーガールがカーテンに手を掛ける。
一坂はどこからかドラムロールの幻聴が聞こえた気がした。
確かに雰囲気はでているかも。
カーテンが開いた。
「…………はあ?」
一坂はミカンの姿にぽかん。
黄色い帽子と少し丈が短めのワインレッドのスカート。そしてなんといったか。服が汚れないように上から着る、ダボっと大き目の、よく幼稚園児が着てる……
「スモックだ」
スモックだった。
無表情でうんうん頷くバニーの横で、ぶゆーでんぶゆーでん、と覚えたての武勇伝ネタ(舌が全然回ってないので何の武勇伝かはわからない)でリズムに乗る園児。
短めのスカートが無防備にフリフリ揺れて、スラッと伸びた健康的な肌色が一坂の視界でちらついた。
これは、合法なのか?
しかし、ミカンは体の発育具合は〝まあまあ〟だが中身はキッズ。
なのでこのマニアックなイメクラプレイが奇跡的に法(?)の網目を潜ってしまっていた。
彼女の無邪気さがイケない感じを極薄化し、むしろ微笑ましさすらある。
なんつーか、お遊戯会?
「ミカンだっていずれ幼稚園に通うことになるだろう」
「いや、ないだろ」
一坂は珍しく冷静にツッコんだ。
「つまらんやつだな。想像してみろ。ミカンが元気に幼稚園や小学校に通う様を」
詩織に促され、目的を忘れてるんじゃないのか? と思いつつも、まあやってみる。
「…………………………」
やっぱり、やめた。
もしそうなったとしても、自分はそこに立つべきではないから。
「…………………」
「……なんだよ?」
「いや」
黒い瞳のウサギさんは、いつもの無表情で一坂を、じーと見た後、素知らぬ感じで次の衣装を物色し始めた。
「頼むから普通のにしてくれ……」
一坂はげんなりしながら一応言ってみる。
「わかってる」
またカーテンが開いた。
メイドさんが出てきた。
「普通のにしろおおおおおお―――――――っ!」
一坂は絶叫した。
「お約束というやつだ。気にするな」
一坂は、もうなんか不思議の国にでも迷い込んだ気分だった。
案内役はもちろん、この無表情なうさぎさん。
そして、その後も続く、ミカンのコスプレショー。
セーラー服やゴスロリといった定番から、ギャル婦警テニスウェアアイドル衣装和服巫女服修道服ハイカラさんカウガール軍服サリー女騎士未亡人吸血鬼魔法使いスーパーの店員。
世界津々浦々の衣装を網羅していった。
今さらだけど、この店なんかおかしいぞ?
「さて」
詩織はなんかやり切った感で、ふうと額をぬぐうと、
「おちゃらけはこれくらいにして」
「……やっぱりおちゃらけてたんだな?」
無視して再びミカンと一緒に試着室へ引っ込んだ。
一坂はもういい加減にしてほしかった。
正直、様々な伝統衣装に身を包んだミカンは、口には出さなかったものの全部ヤバいくらい似合ってはいた。
ブロマイドにして販売したら即時完売。速攻でファンクラブが出来るほどに。
つっても一坂としてはもっとラフなもの。
何度も言うように普通の格好にしてほしかった。
「これで文句はないだろう」
黒ウサギがカーテンの向こうの世界。
その中心に立つ少女をお披露目した。
テーマは〝はなまる元気な女の子〟。
「全体的に明るく、動きやすさ重視でコーデしてみた。ライム色のシャツに白のパーカーは元気で活発なミカンにピッタリ。赤のプリーツスカートは少々短めだが、スパッツを穿くことで下着が見えることを防止。ミカンの容姿で無防備に動かれたのでは目のやり場に困るであろう世の男への配慮も完璧。むしろそっちの方がとか言うやつは○ね」
詩織がぺらぺらと解説した。
「………………………」
「おい一坂。鼻なんかほじるな」
「ほじってへんわ!」
完全に言いがかりだった。
「ほら」と、詩織が差し出してきたのは赤のリボンと青のリボン。
「どっちがいいと思う?」
聞いてきた。
どっちでもいーべ、と内心思いつつ、それを口にしてはいけないことくらい、モテない街道の脇に生えるぺんぺん草の一坂にもわかる。
「赤だな」
青は格ゲーの2Pキャラみたいだし、赤は単純に好きな色だ。
それにミカンの金髪にはこっちの方が合うような気がするし。
「……なんだよ?」
「別に」
ふいっと背を向けた詩織。
「よかったなミカン。大好きなパパが選んでくれたぞ」
わざとらしく言った。内心めっちゃこそばゆい。
きりり、とグラデーション調の金髪を赤いリボンで飾られたミカン。
姿見に映るガーリーにおめかしされた自分の姿を玉翠色の瞳が見つめる。
ほぅ、と小さくため息が漏れ、ぷにっとしたほっぺがほんのり赤くなった。
そして、じー、と何か期待を込めて、一坂に上目遣いしてくる。
「あ~なんすか~(白目を剥いて鼻をほじる)」
ジュウ~………(涙が床を溶かす音)。
「だぁー泣くなっつーの! わかったわかった! 似合う! 似合うってますから泣き止んでくださいお願いしますから!」
「やたー」
ご機嫌ちゃんでバンザイした。
よほど嬉しかったらしく、漆黒の尾がテンションアゲアゲで飛び出した。
くねくねとジュリアナフィーバーを踊りだす。
「よかったなミカン」
「そんな微笑ましいっすか!? どう見てもこの状況は肉片ブッシャーまで秒速5センチメートルだろうがよ! おいこらミカン! お前その尻尾とか出すの禁止っつったろ!」
そんなことをここに来る前に言い聞かせていた。
「あ」
顔に、わすれてた、と書いてある。これだよ………。
「幸い誰にも見られていないのだから、そんなに怒るな一坂パパ」
「パパじゃねーっつーの!」
「はいはい」
全く相手にしてくれない。
せっかく壮絶な顔芸までしたのに、黒ウサギは裁判ならぬ、会計にさっさといってしまう。
少し切なくなった。
「きゃはははー!」
ミカンは大爆笑だった。
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おきな




