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うざい人登場

 光線が止み、辺りは今の騒ぎが嘘のように静かになった。

 瓦礫と化した工場。

 壁は全壊し、機械の類も見事に崩れてしまっている。

 ちなみに不良連中は皆気を失い、その辺で、きゅぅ……、とのびていた。


 一坂は、おそらくあれの下敷きになっているであろう、愛車の捜索を断念し、


「大丈夫か?」


 力が抜けてぺたんと座り込んでしまったミカンに、しゃがんで目線を合わせる。


「パパ……イタイ?」


 ミカンが手を伸ばしてきた。

 きっと傷を治そうとしてくれているのだろう。


 それはありがたい。

 ビームの被害はないが、それでも体はボロボロだ。

 今までプロレス雑誌しか立ち読みしてこなかったけど、次からはボクシング雑誌にも目を通そうかな。


 一坂は頭の片隅でそんなことをふと考えながら、ゆっくり伸びてくる細い手を取った。


「たいしたこたあねーよ」


 首を横に振って照れくさそうに小さな笑みを浮かべた。

 なんというか、惜しい気がしたのだ。

 この傷が何かの証のようで。

 本当にちょっとだけ、誇らしかったから。

 それに今はどちらかと言えば、喉が渇いていた。


「お?」


 帰ったら詩織が淹れた茶でも飲もうと思っていた矢先、遠くからたくさんのサイレンが聞こえてきた。

 おそらくさっきの光線を見た誰かが警察に通報したのだろう。


「逃げるぞミカン」

「……………………」

「ミカン?」


 どうしたことか。

 ミカンはぺたんと地面に腰を下ろしたままの、いっこうに動かない。

 やはりさっきの初めてのビームで体力を消耗したのだろう。

 立ち上がれないほど疲れているとは。


 しかし、一坂の予想は半分しか当たっていなかったらしい。


「……パパ」


 ミカンが座ったまま、両手を広げてきた。

 甘え色の瞳が、まっすぐに見上げてくる。

 その澄んだエメラルドの輝きに、一坂の姿が映っていた。


「……………ったく、しゃーねーな」


 今の彼女が求めているもの。

 それをようやく察することができた一坂は、ぶっきらぼうに言いつつも、しゃがんだ背を困った甘えんぼちゃんに向けた。

 そこに飛び込んできた体重を支え、立ち上がる。


「えへ~」


 背中しにミカンの声が聞こえてくる。

 振り返らずとも見なくても、その顔がどうなってるかすぐにわかった。

 途端にくすぐったい感情が、一坂の中にじわっと湧いてくる。

 しかしどうして、それが悪くない。


(………やれやれ)


 本日何度目かになる独り言ち。

 すると背中から穏やかな寝息が聞こえてきた。

 横目で見ると、ミカンが背中にぴったりと顔をつけ、すやすや眠っていた。


(……ほんと、しゃーねーな)


 一坂はせっかく眠った子を起こさないように気を遣いながら、なるべく早足でこの場を去ろうと………


「キミキミ、ちょっといいかな?」


 後ろからテンション高めな声が掛けられた。

 片手にマイクを持ったスーツ姿の、その男。


「僕は日朝テレビ随一のテレビレポーター、――――真田部!!(ババーン)」


 変な人だった。

 初対面で悪いが一坂はこの男に虫唾が走るイラ立ちを覚えた。

 そんな人の気も知らず、この真田部とかいう男はグイグイ距離を詰めてくる。


「キミ達は今までここにいたんだよね? ん? ん? ちょっと話を聞かせてくれるかな……あーカメラさーん。こっちこっちっちー」


 まずい。

 自分だけならまだしも、ミカンまでカメラに映すわけにはいかない。


「すんません。俺たち用事が……」

「キミたちもさっきの青い光を見たんだろう?」

「あの、だから用事……」

「きっとあれは今世間を騒がしているエイリアンのもので間違いないと思うんだ。それを僕ってば確信しちゃってさ。居ても立ってもいられずやってきたってわけ。おかげで警察よりも早く到着できたし。ほんと僕ってば行動力の塊だね!」

「いや、おい……(いらっ)」


 会話がまったく成り立たない。

 それとも時間を稼ぐためか。

 こうしている間にも真田部は聞いてもいない自慢話をべらべらしゃべっている。


「いいからどけっ!」


 痺れを切らした一坂は真田部の顔面に蹴りをぶっかました。


「きゅぅ……」


 真田部は気絶した。

 一坂はそんな男には目もくれず、一目散にこの場から退散した。


 ミカンはずっと寝ていた。

 鼻提灯を三つ膨らませて。





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※数ある作品の中からこの作品を読んでくださり、本当にありがとうございます。

 少しでもいいな、と思っていただけたなら、応援していただけるとものすごく励みになります!

                              おきな

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