俺はパパじゃねーっつーの!
初めまして、おきなと申します。
〝小説家になろう〟様で初投稿でございます。
頑張って書いたので、読んでくれるとうれしーです。
秋山一坂は十七歳である。
身長一六七センチ。指名手配映えする人相とカラスのような目つき。赤い前髪と黒髪のツートーンという謎髪質と、人よりも少し金に汚いという点を除けば、まあ普通の男子高校生だ。
「パパー」
彼女はいない。
現在は木造のボロアパートで一人暮らし。成績は下から数えた方が早くいつも赤点ギリギリなのだが、目下の悩みは今月の家賃をどう工面するかだった。
「パーパー」
彼女はいない。
何かと小言が多い保護者気取りの幼馴染はいるが、生憎あの女とはそんな青春を感じさせる甘酸っぱい関係ではない。
だから一坂は異性と恋愛関係になったことはない。
「ぱあああぱあああぁぁっ!」
何度でも言う。
彼女は、いない。
しかし―――
「うるせええええっ! 俺はパパじゃねぇーっつーの!」
娘は、いる。
正確にはその後ろに(?)がつくのだが。
ここは一坂の家の四畳半。
芋ジャージ姿のその少女は表情を、ぐじゅっと崩し、怒髪天の一坂を大粒の涙で潤んだエメラルドグリーンの瞳で見つめた。
見た目から歳は一坂と同じか少し下くらい。腰まである毛先に行くほど色を濃くするつやつやの金髪と、あどけない苺のような甘い顔立ち。翠玉色のぱっちりお目めは煌めく星々のように輝き、その透明度は見ていると吸い込まれそうだ。
まるで絵本から出てきた天使か妖精のようだった。
しかし現在、その神秘的なまでに整ったお顔は一坂の怒声にびっくりして、涙と鼻水でぐじゅぐじゅだった。
「アイヤーその、なんだ、えーと……泣くなミカン! 頼むから!」
慌ててミカンという少女をあやしにかかる。
だが、生憎〝赤ん坊〟の扱いには馴れておらず、あたふたしてばかり。
シャキン!
「へ?」
一坂の顔面スレスレを、謎の黒い物体がもの凄い勢いで通過していった。
背後で、ゴトッ、と何か重いものが畳に落ちた。
テレビだった。
ブラウン管のテレビが真っ二つに切断され、まるで巻き藁を居合で切り飛ばしたが如く上半分がずり落ちたのだ。
「……………………」
一坂は口をあんぐりと開け、その長く伸びたものの発生元を辿った。
わかってはいたが、ミカンだった。
彼女はえぐえぐ顔で鼻をスンスンすすり、細い腰から伸びた漆黒の尾を心情を表すかのようにぶんぶん振っていた。
その先端はギラギラと鋭利に尖り、まるで博物館で展示されている恐竜の骨格標本を黒く塗って、テカリ加工を施したかのような禍々しいフォルムだった。
絶対にデンジャラス&クライシス。
「お、おーけーおーけー。とりあえず落ち着いてその尻尾をしまってくれ。な?」
ぐすん………こくん。
凶悪な尻尾が彼女の腰へ掃除機のコードのように引っ込み、跡形もなく収納された。物理的にどうなっているのだろう。
「よ~しよし、いいこだ~」
一坂は猫なで声になりながら警戒レベルを少し下げ、彼女の目頭に溜まった涙をテッシュで拭いてやろうとする。
ジュウ~……。
「あ熱っつ! そうだった! こいつの涙は何でも溶かす強酸なんだった!」
ティッシュは一瞬で蒸発。無差別でかつ雑に何でも溶かすヤバい涙が指先を掠め、一坂は激痛に床をゴロゴロ転がった。
「こんの〝エイリアン〟が! あと少しで俺の指の数が減って、危うく妖怪人間になっちまうとこだったじゃねーか!」
…………ぐず。
「ああああごめんごめんごめーん! これでも食って機嫌直しておくんなはれ!」
学ばない一坂は無様に取り繕い、ダンボールから蜜柑を引っ掴んだ。
「!」
ミカンの注意が一気に蜜柑へ向いた。
目が〇(←こんなん)になっている。
現金な話だが彼女はすでに、このオレンジ色の果実に心を奪われていた。
ぱくん。もぐもぐもぐ………ぱあぁぁ~。
まるで太陽のようなニコニコ笑顔。
大好きな蜜柑を頬張りながら表情を蕩けさせ、ご満悦の夢見心地。
泣きべそなんてさよなら、である。
「はぁ~……」
一坂は墜落するように畳に腰を下ろし、疲れの濃い息を吐く。
すでに狭い四畳半はボロボロ。天井には凄惨な大穴が空き、あの涙によって溶解された壁や床や家具がハチの巣になっている。ついでにテレビも真っ二つ。
かろうじて破壊を免れた時計が午前七時半を指した。
「パパー!」
ミカンがご機嫌に、どーんと体当たりしてきた。
にっぱっぱーの満天笑顔で纏わりつき、猫のようにごろごろ甘えてくる。
(………パパじゃねーっての)
一坂はちゃぶ台にもたれながら頬杖を突き、心の中で悪態を吐いた。
口に出したら今度こそ、このアパートがぶっ壊れちゃうから。
(どないして俺がこないな目に……)
トホホ、と肩を落とし、おなかをさする。
別に穴が開いてるとか内臓をぶちまけたとかそういうわけではない。
しかし、状況証拠的にミカンは一坂から生まれ(一坂は認めていない)、彼を父親(これも認めてない)と認識しているのだ。
世界初、エイリアンの美少女を生んだ男 一七の春。
いつもなら金儲けのひとつでも画策するところだが、今はそんな気力はない。
昨日までは〝チキュー星人〟らしい、平穏な日々を過ごしていたのに。
―――そう。
一坂の日常は、今朝目を覚ました時点でわりとお気楽に崩れ去ったのだった。
これは辺境の惑星〝チキュー星〟で繰り広げられる、二人の親子(?)の物語。
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おきな




