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第八話「専属冒険者という名の奴隷」

「これにて契約成立です。お疲れさまでした。ではこちら契約金1億ゼニーとなります。このお金で装備品等々、パーティーの皆様でお分けください。配分は自由です」


 さてこんな感じで話は着々と進み、最終的にアレスを含め他のメンバーも契約を結ぶこととなった。

 しかし契約金1億ゼニーは得られたものの、結局そのお金は装備品なり冒険する際の必需品一式を買い揃えるために使わなければならなかった。それらの装備一式は全て自腹でそろえる必要があった。わざわざ冒険者ギルド側から無償で用意してくれるわけではなかったのだ。そうなると、アレス自身に残る金はほとんど残らない。自由に扱える金は全くと言っていいほど残っていない。


「はあ、自由と引き換えに得た金もこれっぽちじゃなあ……。世の中、やっぱ甘くねえや」


 自由を求めて冒険者になろうと都会まで来たものの、結局その期待は早くも裏切られてしまった。理想と現実のギャップに、アレスは軽くリアリティーショックを起こしそうになっていた。


 好きな時に討伐依頼を受けて、好きなだけお金を得る職業。それが冒険者という職業だと彼はここに来るまでそう思い込んでいた。

 しかし実際蓋を開けてみると、待っていたのは専属契約というほぼ奴隷のような待遇。確かにSランク冒険者ということもあって高額な報酬は得られるが、結局縛られの身であることは田舎の時から何ら変わっていない。都会に来ても田舎の領主の駒のような存在のままだと、彼はそう思っている。


「さあ行こ行こ! お姉たま! 早く装備品一式買って、アスピリッサ観光しよーよ」


「わかったわかった、アリシア。ちょっとそんなに服、引っ張らないでくれる?」


 クリスティンとアリシアは契約金を受け取るや否や、部屋を出て行った。心なしかその姉妹、楽しそうである。

 そして一方、もう1人のメンバープロポリスはというと、


「……998、999、1000!」


 契約の話がまとまってから、彼は早速腕立て伏せを行っていた。相変わらずの筋肉馬鹿っぷりだ。もうここまで来ると、ツッコミを入れる気力すら湧かないといったのが彼の心情だ。

 そんな感じで“ヒポクラーン”のみんなは結成初日から、単独行動を取り始めていた。ここまでまとまりのない冒険者パーティーというのも珍しい気がする。


 ここまでの流れを振り返ってみるに、残念ながらアレスはこの都会でもレールの上を歩む人生となりそうだ。そういう人生にしたくないがために、彼はわざわざ都会に出て冒険者を選んだのだが、結局行き着いたところは専属契約。理想と現実が違いすぎると、彼はさぞかし憤慨していることだろう。

 しかしよくよく考えてみると、レールの上から外れた状態で一攫千金を掴もうと考えること自体、現実離れしたものなのかもしれない。そもそもの話、今の世の中、レールの上に乗った人生を歩んでも金を稼ぐことは容易ではない。

 世に居る商人連中だってその大半は一匹狼で動いているわけではなく、むしろ誰か別の人達とタッグを組み、利益集団なるモノを形成している状態だ。

 これらは人間が魔獣を集団で狩る時の原理と同じことが言えるかもしれない。一人だけの力でマンモスやリザードマンといった魔獣を倒すことは困難を極めるが、それを大人数で一斉になってかかれば魔獣の息の根を止めることは容易い。そして魔獣を倒した際は、みんなで肉を配分する。

 技術が発展し、質的な豊かさを持った世の中になっても、それらの原理原則だけはどの時代になっても一向に変わらないように思える。当のアレスもそんなことを思っていることだろう。


「クソ! 俺の仲間があんな感じだけどよお、ここまで来たらやるしかねえわ! 目指すは一攫千金! 絶対にやり遂げてみせるからな!」


 そんなわけであれよこれよという間に、アレスにはパーティーの仲間ができた。しかもメンバー全員Sランクの啓示を受けた冒険者で、これまた想像していなかった展開である。若干チームワークに難がありそうだが、ここから一攫千金の夢を掴み、その稼いだお金で都会の一等地に畑と山を買うためには彼彼女らの協力が必要。何とか良好な人間関係を築いていきたいと彼は思っているに違いない。


 これがプロポリスと双子のジュリー姉妹との出会いだった。

 早速この翌朝には、アスピリッサ冒険者ギルドからの直々の命令を受け、異国の魔獣討伐遠征に任務に赴くことになった。


 そこからアレスを筆頭とした冒険者パーティー“ヒポクラーン”の伝説が幕を開けた。結成してからわずか1年余りで、アレス達は魔獣討伐の依頼を次々と達成し、世界中から大きな称賛を受けることになった。

 一度街を歩けば「キャー! アレス様~! 素敵~!」といった黄色い声援が飛び交い、アレス自身も極上の女の子からひっきりなしにアプローチを受けるようになった。

 公私ともに充実し、毎日がウハウハの連続だったのである。

 田舎在住だった時と天と地の差だった。Sランク冒険者で実績を積むごとに周りからチヤホヤされ、「生理的に気持ち悪い」とかそういったことも一切耳に入らなくなったばかりか、気にすることもなくなった。なぜならSランク冒険者だから。そんな彼の前に、あらゆる罵詈雑言は無意味な物となったのだ。金もあるし、人はこちらから何をするでもなく向こうの方から寄ってくる。Sランク冒険者となったアレスの生活は、その日を境に一変したのである。


 だがそうした生活を送れたのも、彼がとある依頼を引き受け、あのクソ女神に出会うまでの話である。あのクソ女神を魔獣から救い出したことをきっかけに、まさかあんな転落人生を歩むことになるとは、アレス自身も全く想像してなかったに違いない。

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