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第四話「大都会アスピリッサ」

 アレスが蒸発を決行してから、実にいろんなことがあった。蒸発決行前に、アレスはあらかじめ、母親のタンス預金から引き出し、そのわずかばかりのお金で安宿をいくつも転々としたり。また真夜中に馬車で移動している最中、突然、野生の魔獣から奇襲攻撃を喰らい、少々痛い目にあったりなど、とにかく都会までの道中、大変苦労が絶えなかったのである。

 しかしそんな苦難を乗り越え、ついにその2週間後。アレスは、あこがれの土地アスピリッサにたどり着いたのだった。

 そして、彼の華麗なるSランク冒険者の道は、ここ大都会アスピリッサから幕を開け、莫大な財産と社会的地位を手に入れたのである。……だがそれも彼が、あのクソ女神と出会い、女神の加護をかけられるまでの話であることは言うまでもない。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「うわー! なんてキレイなんだ! 水の都アスピリッサ! ほんと来てよかったよ!」


 初めてアスピリッサの地に降り立った時、アレスは、この大都会の街並みに感銘を受けていた。学園生時代の“エデンの園”先生の話の通り、アスピリッサはまさに水の都であり、街の至る所に大小様々な運河が、張り巡らされていた。彼にとって、それらの光景は圧巻だった。特に彼が目を奪われたのが、運河を行商人と思しき人らがカヤック(小型の木造船)に乗って、盛んに行き来している様だった。カヤックに乗っているどの行商人も、船内に詰め込まれたありったけの木箱を厳重に管理している。どの木箱もこれでもかというほど、ロープでグルグル巻きにされていた。よほどそれらの木箱を、運河の中にポチャンとさせたくないのだろう。船頭を除き、船に乗り合わせている行商人連中は、それらの木箱から一時も目を離すことがない。まるで我が子が船から身を乗り出し、水没しないように見守る親のような目で、行商人連中は木箱を管理していた。


「都会人ってすげー! 己の子供でも何でもない木箱を守るために、あんだけ命を懸けるなんて……。

 やっぱ田舎者とは面構えから何もかも違うぜ! かっけえええ!」


 都会のことを一ミリも知らない彼は、単純にその人達の仕事ぶりを見て、そのような印象を抱いたのだった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 アスピリッサの街を練り歩くこと、1時間少々。アレスは、都会と田舎のあまりの違いの数々にテンションがアゲアゲだった。彼の口からは次々と、都会に対する称賛の言葉が出てやまない。


「うひょー! 何てカラフルな街並みなんだ! マジで絵画の世界に降り立ったような気分だぜ!」


 アスピリッサの街は、彼の住んでいた田舎の町のそれとまるで違っていた。色彩豊かなキャンパス画のような家々が、運河に沿って連なるように建っているのだ。しかもそのどの家もくすんだ鼠色ではなかったのが、アレスにとっては衝撃的に映った。田舎の地方の家屋特有のそこら辺を歩けば、どこにでも落ちているようなドロドロの土を、雑にこねて塗りたくったような家もなければ、朽ちた樹木を適当に寄せ集めて、ただ何となくつなぎ合わせただけのような造りをした家が、ホントどこにもない。

 むしろ確認できるのは、魚の刺身のように赤々とした外壁や他にはマンゴー色のまさに艶のある色、他には出来立てほやほやのヨーグルトのようにクリーミーな色合いのした外壁だけ。


「凄すぎるよ、アスピリッサ! こんなの芸術じゃん! 芸術作品そのものじゃん!」


 アレスはアスピリッサの家々を見て、率直に芸術作品の域に達していると思っていた。見れば見るほど美しくて惚れ惚れしてしまっている。まるで一種の恋心のようなものが、アレスの心に生じかねないまでのレベルだった。

 彼は今まで生身の女の子にしか恋心を抱いたことはなかった。しかし、ここに来て彼のストライクゾーンがこれらの家々の外壁まで広がりそうな始末である。とにかく曲線美や様式美といった外壁諸々が美しいと、アレス本人は感じているのだ。


「いったいぜんたい、どんな建築材料が使われてるんだよ!? 田舎と金の掛け方が違いすぎるよ、都会人!」


 こういった都会の一面を見るだけでも、彼のテンションは増々、うなぎ登りのように上がっていくのであった。


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 さらに街中を歩いていくと、これまた彼の故郷にある教会とは、比べ物にならないほど煌びやかな大聖堂が建っていた。彼の故郷にある教会は、どれも例外なくみすぼらしい。だが大都会アスピリッサの聖堂はやはり流石と言うべきか、建築の素材から何から何まで実にエレガントだった。光沢と言い、建物の様式美と言い、それらの芸術展の高さに、思わず立ち眩みを起こしそうなレベルだったのだ。


「うひょー! なんてお美しいんだ、この大聖堂! 実にエレガント!

 ……ってか、それにしてもどんだけ人いるんだよ! 都会の人口密度って奴は、どうなってんだよ!?」


 さらに大聖堂の周りには、大勢の人々が集まっていた。まるで年に一回開催されるお祭りの時のような騒ぎっぷりで、アレスはこれらの光景にまたもや息を吞まされていた。

 この一帯は、言わば一種のパワースポットなのだろうか? とにかく人々の集まり加減が尋常ではないと、アレスは思っていた。しかもこの一帯に居る人達は見渡す限り、ほぼ美男美女ばかり。田舎とはルックスの良さが段違いだ。


「うひょー! 極上の女の子がそこかしこに歩いてる! すげー! さすが都会クオリティー!」


 彼は聖堂周辺に集まる数多の女の子を見て、終始、頬が緩みっぱなしだった。いやらしい笑みが込み上げてやまない。田舎ではまず間違いなく、お目にかかれない極上の女の子が、ほぼ入れ替わり立ち代るようにしてすれ違えるなんて、まさに絶景だと彼は思っていた。


「ここは美女達のお披露目会なのかよ!? 本当冗談抜きで、都会にこれだけのルックスの持ち主が生息していたとは……」


 アレスはシンプルに、驚きを隠せなかった。噂ではかねがね聞いていたが、まさかこれほどまでとは思わなんだ。それが彼の心情である。


 田舎といった閉鎖的な空間で、「可愛い、お美しい」とひたすら持て囃されてきた女の子も、おそらくここ大都会アスピリッサに来れば、まず間違いなく見劣りすると、彼は思っていた。彼が住んでいた田舎の世界では、千年に一人の美女とあれだけ持て囃されてきた女の子も、ここアスピリッサに来れば、余裕でかすんでしまうだろう。田舎ではそもそもの話、女の子の数自体が少なく、単純に比較対象があまりない。田舎という閉鎖的な空間の甲斐もあって、絶世の美女だと勝手に脳内変換してしまっていたのだろう。

 こうしたところを一つ一つをとっても、ザ・都会クオリティーなるものをたくさん感じられて、彼は終始大満足だったのである。


「はっ! こんなことしてる場合じゃない! 俺は都会に来て、お嫁さん候補を探しに来たわけじゃねえ! 冒険者になりにきたんだ!

 さっさと都会の冒険者ギルドに行くぞ! 極上の女の子はその後だ!」


 いつまでも通りすがりの極上の女の子を見て、鼻を伸ばしているわけにはいかなかった。彼は当初の目的通り、アスピリッサ・冒険者職業あっせん所こと、冒険者ギルドに向かうことにしたのであった。都会の極上の女の子を見て、目の保養にしたいというその溢れんばかりの欲求を抑えながら……。

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