第三十二話「看守副主任ことハビエル・ユンケル」
「ふう……腹一杯だぜ。マジでありがとな。……そういえば、あんた名前何だっけ?
そういえばまだ聞いてなかったな」
A5のステーキを平らげたアレスは、ナフキンで口元を拭いながら看守である彼の名を尋ねた。
「……ハビエルだ。ハビエル・ユンケル」
海賊王のようなモジャモジャな髭の彼はそう答えた。
お互いA5のステーキはすでに平らげていた。今、この彼ら2人しかいない空間はすっかり談笑ムードに包まれている。
看守ハビエルはアレスのことを囚人番号で呼ぶことはなく、一方、当のアレスもそんなハビエルのことを一看守としてではなく、近所で出会った気の合うおじさんのような感覚で接していた。
そうした温和な空気に包まれていた中、アレスは続けて、ハビエルに対して以下のように話を続けた。
「そうかハビエルか。ハビエルはもうここに居て長いのか?」
「まあな。もうかれこれ20年くらいだ。そう思うと長いような短いような……。不思議な感覚だな」
ハビエルはポツリとそう呟いた。そういう彼の瞳は何か遠くの方を見ているように感じられた。
「そういやさっきは悪かったな。後輩の前であれだけ怒鳴り散らして。……俺も仕事の立場上、ああしてないと周りに示しがつかなくてな。
それまでの無礼を詫びる。申し訳ない」
ハビエルはふと何かを思い至ったかのように、そう言った後、深々と頭を下げてきた。
「いやいや、良いってことよ。もう別に今は何も気にしてない。そういうのはお互いなしにしようぜ。
水臭いっちゃあ、ありゃしない」
アレスはそう言って、彼に頭を上げさせた。
そうして彼がゆっくりと頭を上げたことで、引き続き先ほどの話に戻った。
「まあ、よく20年も看守を続けてこられたモンだ。最初の頃なんて、辞めよう辞めようとばかり考えてたのにな。
……ちょうどここの看守をやり始めたのも、アレスさんと同じくらいの年齢の時だったと思う」
過去を懐かしむように、ハビエルはゆっくりと息を吐きながらそう口にした。
アレスとハビエルとの歳の差は、少なく見積もっても15年かそこらは離れているように思える。ハビエルから見れば、おそらくアレスは遠い昔の自分を見ているような感じなのかもしれない。
何か過去の自分の姿をこのアレスに重ね合わせている。そういった雰囲気をハビエルからは感じ取れた。
「それはそうと、いつも楽しく読ませてもらってるぜ、アレスさんの自伝。記念すべき10冊目ということもあって、今回はかなり内容が濃かった。
ちょうど今日、1冊を読み終わったところだ。明日からはまた読み直すつもりだ」
そう言うや否や、ハビエルは自身の制服の内ポケットから、1冊の冊子を取り出した。
彼は冊子の表紙をアレスに見せる。表紙の名前は”ヒポクラーン冒険譚 灼熱の大地と深緑の泉カラフサーフ”。著者はアレス・ゴットバルト彼の名である。今から約2カ月ほど前に出版された彼の自伝本である。過去数カ月でアレスと冒険者パーティーヒポクラーンのかつての仲間達と繰り広げてきた冒険エピソードが多数掲載されている。
「あらそりゃどうも。こんなところで読者と巡り合えるなんて。
どうだった? 今回出版された本の感想は? 参考までに是非ともお聞かせ願いたい」
ハビエルが自伝本の愛読者であることを知って、急に前のめりになるアレス。ハビエルは彼の意向を受け、以下のように言葉を続けた。
「今回は、砂漠の主バジリスクの攻防戦のチャプターがイチオシだったな。
手に汗握る描写の数々。息を呑んだぜ。世界最強の冒険者はやっぱり伊達じゃねえな。とても楽しませてもらったよ」
「おおお、そうかそうか。そう言ってもらえて何より。照れるな」
社交辞令抜きのガチめな感想を聞き、照れ臭くなったと思われるアレス。頬が緩み、ニッコリと微笑んでいた。
その様は、まるで愛しのあの子からラブレターを貰って、思わず笑みがこぼれてしまう時のようだった。
「休憩時間はいつもこれを読ませてもらっている。俺にとって、まさに心のオアシスだよ」
「心のオアシスって、嬉しいこと言ってくれんね。看守さん。
生まれてこの方、初めて言われたよ」
「あんたの本のおかげで、俺はそれだけ心をリフレッシュできんだ。
以前までは、葉巻が手放せなかった俺だったけどよお、今じゃすっかりそいつに頼らなくてもよくなった。ありがたいことだぜ、本当に」
「おー、そうかそうか。俺の自伝本って、一種のセラピー効果ちゅうか禁煙効果まであるのか。それも何て言うか、実に嬉しいもんだね」
「看守業っていうのはな、中々ハードな仕事なもんで、陰鬱な気分になりがちなんだよ。葉巻がねえと、人生やっていけねえと思わされるくらいに。
前までは手放すなんてこと、全く考えられなかった。
……受刑者の動向は常に気にしておかないといけねえし、間違っても外に逃がすなんてことはあってはならねえ。四六時中、気を張り詰めておかないとならんし、一秒足りとも気を抜いちゃいけねえ。心が休まる暇なんて全然ねんだよ。
……そういった中でアレスさんの冒険譚を読んでいると、不思議と若返ったような気分になるんだ。魂が浄化されていく感覚っていうのかな。まあそういうことだ」
「魂が浄化って……。何ていうか、教会の牧師みたいなこと言ってくれんね」
ハビエルの一連の発言を受け、率直な感想を述べるアレス。
「俺はただ、旅先であった出来事をダラダラ書いて、まとめてるだけだぜ。
稀代の芸術家みたいに、魂を込めて1つの絵を完成させるレベルの熱量で書いたわけじゃない。そんな魂を浄化させるほどの立派なモノじゃねえよ、アレは」
まるで教会の牧師のように教えを説き、迷える子羊の心を救ってしまっているようなこの構図に、アレス本人は若干戸惑いを覚えているようだった。
「いったい何がどういう訳あって、俺の自伝がハビエルさんの心を浄化してんのさ?
何度も言うように、あんなのただただ起こった出来事を記しただけの殴り書きの報告書みたいなもんだ。
別にそこまで人々を夢中にさせるようなモンでもないと思うんだがな。何がそうさせてんだ?」
アレスのこれらの純粋な疑問に、当のハビエルは次のように答える。
「ちょうどアレスさんと同じ歳の頃だったかな。俺もアスピリッサの専属冒険者を目指していた時期があったんだ。それも30年以上前のことだな。俺も表舞台に立って、活躍してみたいとちょうど思っていたんだ。
……けど結局、適性試験で落とされちまって、専属冒険者の夢は断たれちまったけどな。ひょっとしたら俺のそういう過去の人生経験があって、より共感できたところがあったんだろうな」
「そうか」
ハビエルが以上の話を始めると、アレスはそれまでとは一転、真剣な目つきで話を聞きだした。
続けてハビエルは過去の自身の話を以下のように展開した。
「専属冒険者の道が断たれてから、その後、俺は保安騎士団に入隊することにしたんだ。
こっちの方も倍率は厳しかったんだが、何とか入隊することはできた。保安騎士団に入ってからは、主に街の治安維持とか、街の近辺に出没する魔獣を討伐したりといった任務をこなしていたな。
けどそこも5年で辞めちまった。そして今に至るって感じだ」
「えーそれはもったいないな。保安騎士団って花形じゃないか。お給金もいいって聞くし、人生安泰じゃないか。
冒険者ほど危険な魔獣討伐をこなす必要もない。働く時間もきっちり区切られている。そんでもって、まとまった休みも定期的に取ることもできるし、何不自由ないと思うんだけどな」
保安騎士団は先ほどアレスが言ったように、ここアスピリッサでは花形の職業と見なされている。専業冒険者ほどの大金を手にすることはできないが、それでも保安騎士団は超が付くほどの大組織であり、全アスピリッサ市民にとってまさに憧れの的だった。
その一方で、フリーの職業冒険者はそもそも労働時間といった概念がないし、何をするにしても全責任は自らが負わなければならない。またかつて世界に名を轟かせていたアレスはひっきりなしに討伐依頼を寄せられ、そもそもまとまった休みなど取りようもなかった。
常に突発的に何かしらの案件が来ることを想定しておかなればならないのが、まさにフリーの職業冒険者の宿命と言えよう。
「まあそれは色々あるんだけどよお、ほら保安騎士団で定期的にアスピリッサ近辺に生息する魔獣を掃討しに遠征に出ることがあるだろ? 知ってるか?」
ハビエルは以上のことをアレスに尋ねる。
「ああ。何カ月かに一度、保安騎士団の中で選抜隊が組まれて、遠征するって話だろ。
前に保安騎士団が近辺に出現した魔獣を討伐するために討伐隊を組んでいた時があったんだが、その時に講師として呼ばれたことがあったから、事情はよく知ってるよ。
保安騎士団って、一匹の魔獣を狩るのに役割が1人1人明確に分けられるんだよな。
……逆に手足の攻撃しか役割を与えられていない騎士が、命令に反して首やら胴体を攻撃したら、処罰の対象になるんだよな?」
「そうだ。騎士1人1人に魔獣に対して、攻撃してもいい部位とダメな部位がしっかり定められてるんだ。
尻尾なら尻尾。指先なら指先。横っ腹なら横っ腹。前足なら前足といった具合に。
与えられた役割以上に欲張って攻撃しちゃあならねえっていうのが、保安騎士団の決まりだった」
「フリーの職業冒険者をやってる俺からしたら、好きなだけ臨機応変に攻撃したらいいと思うんだがな。前に講師として、保安騎士団の連中に魔獣討伐のノウハウを指南してた時、改めてそう思ったよ。外野の意見としてな」
「まあ実際問題、そういう訳にはいかないんだよなこれが。単独行動は絶対に許されない。不必要に与えられた部位以外の攻撃をしたら、当然上からペナルティーを喰らう。
そうしなきゃならねえのも、いかんせん団員の戦死するリスクを極力減らせるからなんだよ。不必要に攻撃をして、リスクを増大させるよりかは、事前に綿密なフォーメーションを練って、効果的にかつ死亡リスクを減らすことが、まず騎士団の意向として重要視されるんだ。
まとまった組織的行動を1人1人正確に取れさえすれば、ちょっとやそっと想定外のことが起こったって、問題なく対処できるしな。
……あとそもそもの話、保安騎士団が1人でも死なれようものなら、王国側が多大な賠償金を遺族側に支払わなきゃいけねえ。そういう事情もあって、そのような方針を取ってるんだ」
「俺も直接、保安騎士団のお偉いさんにあんたと同じような話を聞いたぜ。
少しでも死傷者が出る可能性のある危険な任務に、保安騎士団は人員を割くことはできない。都市近辺に出現した魔獣は極力、保安騎士団が対処することになっているが、少しでもリスクが高いと判断されれば、基本的に冒険者ギルドの専属冒険者に討伐を委ねるらしい。アスピリッサの元老院連中の意向だと聞いたことがある」
「そうそう。とにかく保安騎士団は、安全志向なんだよ。決してリスクのある任務に人員を割く真似はしねえ。討伐の許容範囲を超えた魔獣は、全部冒険者ギルドの専属冒険者に丸投げだ。
そりゃ重宝されるよな、専属冒険者は。どんな危険な地帯でも、フリーの冒険者はどんどん挑んでいって、成果を出してくる。貰うべきモノを貰って当然だぜ」
保安騎士団事情を流れるように語るハビエル。これだけ聞けば、保安騎士団はまさにローリスクで、気楽で思い悩むことは一切ないように思える。組織のルールさえ守れば、定刻通りにお家に帰ることができ、安定したお給金を受け取れる。これ以上、何を求めることがあろうか。
しかしこれらのことを語ったハビエルの表情はどこか哀愁が漂っていた。それから彼はトーンダウンした状態で、自身の思いの丈を以下のように明かした。
「さっき俺は昔、フリーの冒険者を目指していた時期があるって言ってたよな。保安騎士団の仕事を続ければ、続けるほど、かつて専属冒険者になりたかった頃の欲が熱を帯びてくるって奴なんだろうな。
保安騎士団時代の俺は、規律に反して、単独行動ばっかり取っていたよ。
魔獣の横っ腹のみの攻撃しか許されていなかったとしたら、欲張って首元にも切り込んでいったり、それ以外にも前足や魔獣の眼球を潰しに行ったりもしていた。
案の定、俺が単独行動を取る度に、周りの騎士団連中は大慌てだ。そんで上の人から再三ペナルティーを喰らって、それが溜まりに溜まって、騎士団との関係性も悪化して結果、騎士団から追い出されちまった。
組織人がオリジナリティー出しちまうとダメなんだな。俺はその保安騎士団上層部の考え方が、どうしても合わなかった。
……まあ早い話、専属冒険者崩れの俺、いやそもそもの話、崩れてすらないんだけども、先輩らの命令がどうしても受け入れられなかった。最後まで自分を捨てることができなかったんだよな」
「なるほど。俺がまだアスピリッサの専属冒険者になる前の時も、そういう組織の駒のような型にはめられた生き方が嫌で、フリーの冒険者を目指してたっけな。
……でも今思ったんだけど、ハビエルって騎士団を脱退した後に、もう一度フリーの冒険者を目指そうとは思わなかったのか?
それだけ組織人として生きるのが嫌だったら、挑戦してもよかったんじゃないか?」
率直にアレスは以上のことを彼に尋ねた。
「保安騎士団に入団した当初は、まだそういう気持ちに燃えてたな。
けど結局、保安騎士団を辞めた時には、完全に消え上せていたよ。
迫りくる日々の忙しさで、徐々にフリーの冒険者になりたい気持ちが薄れていったんだ。……いやむしろ薄れざるを得なかったと言った方がいいのかもしれない。
そもそも保安騎士団に入団してからは、フリーの冒険者にステップアップすることを考える余裕すらなかった。日々色んな出来事が押し寄せてきて、手が付けられなくなって、とにかく現実の厳しさを嫌と言うほど思い知らされた。
生きるって大変なんだなって、その時になって初めて実感したぜ」
「確かに生きるって大変だなとは思う。……でもフリーの冒険者になれなかったことに後悔はないのか?」
「まあ完全に後悔はないと言われたら嘘になるけどな。でも現実は厳しいモノだと悟ってからは、少なくともそう思えるようになってからは、肩の荷が下りたっていうのかな? それまで見えなかった一面ちゅうのが見えるようになってきたんだ」
「ほうほう。それは俗に言う、心境の変化ってやつか?」
「まあそんなところだな。以前までの俺は、専属冒険者になれなければ、人生は灰色一色だと強くそう思い込んでいた。だがフリーの冒険者なんかになれっこないと踏ん切りがついてからは、それからまた人生の捉え方が違って見えるようになっていったんだな。
……人生って捉え方1つなんだなって、その時思ったよ。夢を追い続けて最後まで叶わなかった時は、人生灰色だって本気で思い込んでたけど、そうじゃないんだって気づけるようになった。
不思議なもんだよ。別に無理して、夢なんて追わなくていいし、引け目に感じなくてもいい。周りにどうたらこうたら言われるかもしれないが、一旦、自分の中で踏ん切りがついてからは、不思議とそういう視線だったり周りの声なんかが自然と入ってこなくなるんだな。
……著名な著者さんのよくある啓発本には、"夢を抱き続けろ。諦めるな。さもないと人生不幸になる"とかそういうことがたくさん書かれてたりするけど、ああいうのはだいたい嘘っぱちだ。
現に俺は今、休憩時間がてらアレスさんの冒険譚を読んでるだけで、人生満たされてるしな」
「そうかそうか。でも俺からしたら、ハビエルさんのその考え方は理解に苦しむな……。あんまり分かってあげれねえよ」
「別に分かってもらわなくてもいいさ。人それぞれに人生の楽しみ方があるってもんだ。
……すまねえ、自分語りばっかりしちまって。アレスさんは、今後どうするつもりなんだ?」
「えっ? どうするつもりって?」
「噂で聞いたんだが、アレスさんってどこぞやのロリッ娘悪魔にステータスを下げられて、冒険者の引退を余儀なくされたらしいじゃないか? 今後、専属冒険者以外で、何かキャリアプランでもあるのか?」
「いや、今のところ特にない。もう冒険者界隈からは足を洗って、実家に帰っておとなしく農業するつもりだ」
「俺がこう言うのも変だが、それはもったいないな。若手の冒険者見習いの指導員として、セカンドキャリアを築いていったらいいんじゃないか?」
「えー、でも俺、経歴に泥を塗ったんだぜ? 今更、もう戻れねえよ。
それに銀行野郎の策略で、一文無しにさせられたしよお。もうここアスピリッサに俺の居場所はねえんだ。
せっかく別荘も買ったのに……。それも売って金にして実家に戻るための旅費にするしかないかもしれない状況なんだ。
……こうなる前は、有り余ったお金でダラダラと余生を過ごそうと思ってたのにな。
中央銀行で窓口のあんちゃんと揉めあいになって、その人生プランは全てパーになりそうだ。とりあえず別荘にあるインテリアとか彫刻品の数点をオークションにかけて売りさばいて、身辺整理していかなきゃならねえ。
それからは実家のお母ちゃんの元に帰って、いけ好かない田舎の領主から金にモノを言わせて、そいつらが所有している土地を全て買い取るつもりだ」
「なるほどそうか。個人的には、せっかくSランク冒険者として一世を風靡したんだから、セカンドキャリアもここアスピリッサで形成していったらいいと思うんだけどな。
たかだか女神の加護でステータス1にされたからといって、冒険者界隈から足を洗わずともいいと思うのにな。肩書は十分なんだし、それにまだ余生を過ごす年齢でもないだろ」
「ははは……。まあ一生、食って困るだけの資産は手に入れたし、人生の目標は十分達成できた。ただアスピリッサの一等地に畑と山は買えなかったけど、それに相当するでっかい土地と豪邸も買えたんだ。
まあもう十分だぜ。そもそもアスピリッサの一等地に畑と山すら存在していなかったんだし、俺の人生はこれでいい」
「ゴットバルト邸だっけ。あの国家予算張りの大豪邸。まるで国のトップが所有するような邸宅だよな。俺も人生で一度はこの目で見てみたいぜ」
「まあ今度、招待してやるよ。ここから出られた暁には。……約束する」
「おーありがとさん。またその時は、色々と俺のお話に付き合ってくれよ」
「オッケー了解。そん時はよろしくな」
そう言うと2人は握りこぶしを合わせた。お互いこうして親密になったところで、不意に2人の居る部屋のドアがノックされた。
「副主任。おられますか?」
どうやら彼の部下が来たようだ。
「もうこんな時間か。取り調べ時間、長めに取っておいたのにな」
はあーっとため息をつき、壁にかけられた時計に目をやるハビエル。どうやら取り調べの終了の時間がやってきたようだった。
「時間が来たようだ。今日は付き合ってくれてありがとうな。じゃあ、戻るか」
そう言われるなり、再び手枷足枷を装着させられるアレス。
「えっ!? おいおい。この流れは俺を無罪放免にしてくれる流れじゃねえのか。恩赦してくれる流れじゃねえのか?」
「それはそれ。これはこれだ。俺は例え誰であろうと、特別扱いはしない。囚人は囚人。仕事に戻ったら、お構いなしだ。そら、さっさと歩け! 囚人番号151番!」
ハビエルの仕事モードのスイッチが入ったようで、再び乱雑に扱われ出したアレス。
「えー待ってくれよ! もうちょっと丁重に扱いたまえよ! 俺、誰だか知ってる? 元はと言えども、あの冒険者パーティーヒポクラーンのリーダーのアレス・ゴットバルトだぞ!
頭が高い、控えろ! だぞ!?」
「うるせえ! やかましいぞ、囚人番号151番! とっとと歩け!」
そうしてハビエルから再び首根っこを掴まれたまま、アレスはこの小部屋からつまみだされたのであった。




