第十四話「いざ、女神の加護」
「お願いなの。私にパンを恵んでほしいの! お腹ペコペコで全然力が出ないの」
女神をアレス達のキャンプへと一旦、連れ帰った時のこと。図々しくも女神は以上のお願いをアレス達にしてきた。自称、全知全能の神様を名乗る女神が、一丁前に下界の食べ物を(※それもパン)欲求してくる。
「全知全能と噂される女神が、頭を下げてこんなお願いするか、普通……」
そうしたお願いを受けた時、ますますアレスは、この者が本当の女神だとはまるで思えなかったのである。
その後、女神のお望み通り、余っていたパンを分け与えたところ、
「ん~~、おいしいなの! 舌がとろけるなの! ……あと、もしジャムとバターがあったら、それも恵んで欲しいなの!」
パンを頬一杯に膨らませながら、女神はまた以上のお願いもしてきた。色々と注文の多い女神だと、この時アレスは率直に思った。
結局、周りにはジャムはなかったものの、幸いバターはある程度余っていたため、お望み通りそれも与えることにした。女神は律儀にパン1つ1つにバターを塗りたくると、次々とそれらを口に放り込んでいった。
バスケット一杯に詰め込まれていたパンも女神があっという間に、ペロッと平らげた。そこに申し訳なさなど微塵もなかった。ただ食欲赴くままに女神はパンを貪り続けたのである。
「おい……。俺達の貴重な食料が」
暴食な女神のせいで、アレス達の昼食はお預けとなったのであった。
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女神の石化の効果は不幸中の幸いとも言うべきか、アレス達がストックしていたパンを食した辺りから急速に解けていき、たった今、全身の封印が解かれたところだった。
「わーありがとうなの! メデューサの石化はパンを食べることで解除が早くなるのね! これは世紀の大発見なの! 色んな意味でありがとうなの!」
っと、封印が解けて早々、女神は以上のようにお礼を述べていた。アレス達がカッペ山までの移動の最中に、行商人から買い求めたこのレーズン入りのパン。女神が言うには、この何の変哲もないただのパンが、メデューサの石化光線の特効薬になるとのことらしい。少なくとも女神自身は、自信ありげににそう述べている。まあ話半分に聞いた方がいいだろうと、アレスはこの時そう思った。
さて、女神の石化の封印が解け、やっと身体の自由が利くようになったところで、
「お待たせなの、皆さん! それじゃあ早速、勇敢なあなた達冒険者に、私自ら加護を授けたいと思うの! 一旦、表の広場に出て欲しいなの!」
っと、女神から以上の提案を受け、アレス達一同はキャンプから外に出たのである。燦々と照り付ける青空の下、今まさにアレス達は女神から加護とやらものを授かろうとしていた。
「さあさあ、横一列に並んで欲しいなの!」
女神の指示にアレス達は従う。珍しくアレスを含めた他のメンバーもそわそわしているというか、今まで前例のなかったことに少々落ち着かない様子だった。
「ではいかせていただくなの。……これから私の石化の封印を解いてくれたあなた達冒険者に、ステータスアップの加護を授けさせていただくなの。効果は、あなた達の全ステータスの強化! それも10倍!
是非是非、今後の魔獣討伐の旅に役立ててほしいなの。以上が、私があなた達に授ける加護の全容なの! どうかご武運を、冒険者のあなた達!」
そう言ったのを皮切りに、女神は目を瞑り、手を合わせた。すると、まもなくして女神の体がまばゆい光に包まれ出した。そうして女神の身体が輝き始めたと同時に、上空一帯に雨雲も発生し、それまで快晴だった天候が突如、一変してしまった。
「嘘だろ、なんちゅう魔力だ。こいつ天候を自在に操れるのか」
魔法を詠唱しただけで、雨雲を発生させるというその離れ業に、アレスは思わず目を疑った。彼にとって、それはにわかに信じがたいことだった。天候を意のままに操れるのは、世界広しと言えども神々のみと、通説ではそう言われている。伝説として名高い歴代の大魔法使い達でさえ、天候を変えるだけの魔力は持っていないとされているのだ。故に今ここで魔法を詠唱し、雨雲を発生させてみせたあの女神が、神々と同等な存在か、少なくともそれに準ずるだけの力を有していることになってしまう。
「クソ、こいつが神だなんて認めたくねえ……。俺達からパンを分捕っていったこいつが、神だなんて!」
アレス達から散々パンを欲求し、それを全てペロリと平らげてしまう気遣いのなさを持っている女神。彼にとって、それらはどうしても受け入れがたい現実のようであった。