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第十三話「あっさり終わったメデューサ戦」

「ふう。これで全部だな? アリシア」


「たぶんね。くたびれた……」


 メデューサが息絶えたと同時に、石化されていた人達と魔獣は元の姿に戻り始めていた。

 石化の効果はまず上半身から、まるで卵からヒナが孵るようにして表面の石化の成分が崩れ、封印の憂き目に遭っていた人間と魔獣は、徐々にだが息を吹き返していた。

 そうした形で順調に事は運んでいたのだが、しかしここで一つある問題が発生していた。


「キャー魔獣よ!」

「うわっ! 目が覚めたと思ったら、なんで俺達、魔獣に囲まれてんだ!?」


 本来ならメデューサの石化効果の被害に遭っていた者達同士、種族の垣根を越えて、喜びを分かち合う場面だったと思う。

 しかし当の魔獣達はどうやらそうではなかったようで、むしろ人間達を食ってやろうと躍起になっている。


「冒険者のみなさん! せっかく助けてもらってあれだけど、ついでにこいつらも退治しちゃってください!」


 っといった具合に、せっかく人間と魔獣の両者の魔法が解けたところまではよかったものの、石化から息を吹き返した魔獣が人間たちに牙を向け始めたため、アレス達は応戦せざるを得なかった。

 確かに、長年の封印で魔獣達がお腹を空いていただろうことは理解できる。だがしかし、命の恩人たるアレス達人間のその同胞に対して、あろうことか魔獣は食って掛かろうとしている。

“そりゃないだろう”、といったのがアレスの率直な心情であった。


「「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃー!」」


 アレス達一行はそれから、まるで火の粉を振り払うかのように、多くの魔獣を殲滅していった。例のメデューサが石像にしていた魔獣の数があまりにも多かったこともあって、その全てを葬りさるまでには少々時間がかかっていたものの、そこは流石Sランク冒険者。無事人間側に誰一人として、死傷者を出すことなく、殲滅を完了したのである。


「はあ、いったいどっちが本ボスなのやら」


 アレスが魔獣を討伐していた際、率直にそのようなことを思っていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ありがとうございます。冒険者の皆さん! 石化の魔法だけに留まらず、あの大勢の魔獣から私達を守ってくれるなんて。感謝しかございません!」


 アレス達が全ての魔獣を蹴散らしたところで、人々は彼彼女らに一斉に押し寄せてきた。

その数およそ数百といったところ。先ほどの魔獣の襲撃で、誰一人として犠牲者を出さなかったこともあってか、みんな歓喜にむせび泣いていた。


「わかった、わかったから! そんなに押すな! 身動きが取れねえって!」


 アレスはこの手の感謝を今までの冒険者人生の中で腐るほど受けてきている。行く先々の土地で、このように野次馬が押し寄せてくる体験をしているため、この場にいる人達のことも至極うざったらしく思っていた。

 タイムリープする前までの彼は、多くの人達から手放しで称賛されたい。そしてチヤホヤされたい感情でそれはそれはいっぱいだったが、今となっては何をするにしても変に人々から注目を集めてしまい、ただただ生きずらいと思っている。

 アレス本人曰く、「満足に道端で立ち小便すらできねえ」とヤキモキするほどだった。以前の彼からしてみれば、有名になってからこのような感情を抱くことになるとは、思いもしなかったのである。


「冒険者の皆さん! 助けてくれて、本当にありがとうございます。せめてあなた方のお名前だけでも、私達に教えてください!」


 人々からは感謝の言葉を述べられると同時に、アレス達はこのようなお願い事も受けていた。

 人々は彼彼女らが冒険者パーティー“ヒポクラーン”その人達であることに、まだ気づいていない様子だった。まだ名もなき冒険者程度としか思っていないのだろう。この事態を受けてアレスは、次のことを言った。


「別に名乗るほどの者じゃありません。そんなことより、早くあんた達を家に帰さないと。それが先決です」


 ここで自分自身が一度、冒険者パーティーヒポクラーンのリーダー“アレス・ゴッドバルト”と安易に名乗ってしまえば、この場がますます収拾がつかなくなることが、彼には容易に想像できていた。

 一般の人の多くはアレス・ゴットバルトの名前こそ知れど、実物の顔までわかる人はそう多くない。アレスの肖像画は世界各地に存在しているが、大抵それらは実際の彼の顔よりも非常に誇張されていると言うか、とても美化され描かれている。そのため、いざ目の前にアレスその人が居たとしても誰も彼の存在に気づくことはない。もちろんアスピリッサ在住の市民なら、おそらく10人中10人が知っていると思うが。

 これは余談だが、アレス自身が聞いた話によると、世界各地にアレス・ゴットバルトを語る偽者がたくさん蔓延っているらしく、時々アレス本人が風評被害を受けているとのことだ。アスピリッサから遠く離れた地方ほど、そのような傾向にあるらしい。

 まあ、そのような話はさておき、アレスはいい加減この人達を別の場所に送り届けたかったからなのか、ここに居る人々に対して以下のことを言った。


「みなさんよく聞いてください。今からあなた達を、水の都アスピリッサにある冒険者ギルド前に一斉に転送します。……このちびっこピンクのツインテールの娘が、あなた達に術をかけて送り届けてくれますよ」


 とそう言うと、人々は転送という言葉に過剰に反応したのか、アレスに対して、


「転送! この娘、その地まで私達を転送してくれるのですか!? そんなことが現実に可能なんですか!?」


 結果、彼らのボルテージを上げてしまう形となり、ますます事態の収拾がつかなくなってしまった。そうしてより一層、アレス達一行に人々が押し寄せてくる形となったところで、


「クリスティン! 早くこの人らをアスピリッサに転送してくれ!」


「ラジャー!」


 そう答えると妹クリスティンは、早速またあの時のように、指先でオーケストラの指揮者のように円を描き、彼らの足元に紋章を浮かばせた。まるで暴徒と化した民衆を鎮圧する勢いで、彼女は慌てて指先で円を描く。

 そしてそれからものの数秒も経たないうちに、彼らは紋章の書かれた地面に続々と吸い込まれていき、みんな鼻叫喚の声を上げたまま、姿を消していったのだった。


「ふう、やっと一難去ったか。本当に野次馬連中を相手にする時は、骨が折れるな。むしろ魔獣討伐の方がまだ手ぬるいまであるな」


 そう言って一息ついた後、アレスは、


「さてこれでこの場に居るほとんどの連中が、アスピリッサに行ってくれたわけなんだが……。あと、こいつどうしよう」


 と言って、彼はその場に未だに取り残されているある者に視線を向けた。


「おいおい、アレスよ。こいつって本当に女神その人なのか? いかにもガキというか、女神と言うには、少々神々しさが足りてないと思うんだが」


 筋肉馬鹿プロポリスがこう言うように、メデューサによって石化された中に女神と名乗る者がまだ一体だけ取り残されている状況だった。しかしその女神と名乗る者は、他のどの魔獣やどの人間よりも石化の効果が解除されるのが遅く、まだ腰の辺りまでしか石化が解除されていない状態だった。

 見た目的な特徴で言うと、背中には純白で大きな翼が生えており、衣服の類も伝承にある通り女神様の物そのもので、純白で実に透き通っていた。身体のラインが丸見えで、実質衣服の役目をまるで果たしていないほどであった。

 またこの女神と名乗る者の顔立ちも、稀代の肖像画家が人生をかけ、仕上げたかのような至高の美しさがあった。ただし、その顔立ちには少々、幼児を思わせるあどけなさが残り、またその独特の口ぶりも相まって、いまいちその者が女神様だとは、この場に居る誰もが思えなかったのである。おまけに身体つきも幼女そのものだ。


「あんたたち、ありがとうなの! 女神の私を助けてくれて……。とってもとっても感謝してるの!」


 齢8歳にも満たないこのような口ぶりに、プロポリスも含めてこの場に居る全員、女神であることを疑っていた。無論、アレス本人も彼と同意見である。


「何度も繰り返すようだけど、私、このメデューサに200年間ずっと石像にされて、とってもとっても惨めだったの!

 石像にされてから私、ずっと天界にSOSを出し続けてたんだけど、ゼウスといいガイアといい、ミカエルといい誰も来てくれなかったの!

 私、女神様なのに、誰も助けに来てくれなかったのは、なぜぇなぜぇ?」


 っと、いったことを女神と名乗る者は、盛んにそれらの愚痴をアレス達に語り掛けていた。いつまで経っても石化の封印が解かれない女神。アレス達はこの女神のせいで、カッペ山頂に足止めを食らう羽目となっていた。

 すでに人間は全員、大都会アスピリッサに送り届けたというのに。そのためアレスは、“いい加減時間も時間だし、この女神の名を語る者を放っておいて、俺達はとっととアスピリッサに帰還しますか”と、一旦はその方針を固め、女神に一言断ってから、この場を去ろうとしていた。だがしかし、当の女神がそう言われるや否や、まるで駄々をこねる幼女のように泣きじゃくり、


「待ってなの! 私を放置しないでほしいなの! もっと私に構ってなの! 最後まで見届けて欲しいなの!」


「うるせえ、お前のことなんて待ってられるか。俺達にそんな時間はねえんだよ。早くアスピリッサに帰ってギルドから報酬をもらって、一息つきたいんだよ。……とういうわけで、悪いな女神。さらばだ」


「待って待って! 私は女神! 私の石化が解けるまで、あなた達がこの場に留まってくれたら、ちゃんとお礼をするから! それもとびきりのやつを!

“女神の加護”というとびきりのお礼をするから、ひとまず私を置いていかないでほしいなの!」


 といったことを女神は言っていた、アレスも仕方なしに今もこうしてこの場に残り続けていたのである。純粋に彼は女神の加護がいかなるものか興味があった。

 この女神と名乗る者がパーティーメンバーである彼彼女達に、いったいどのような物をもたらしてくれるのか? 今まで依頼主の人達や民衆の人から、散々多種多様の施しを受けてきたが、人外の存在である女神からそういった施しを受けた経験は今まで一度もなかった。


「ほほう、女神の加護か。そいつは楽しみだな。ふはははは。……それはそれは、たっぷりと、弾ませてもらわねえとな~」


 一瞬このようにアレスは、悪の大王様のような不敵な笑みを浮かべていた。結局アレスは、女神から以上の加護を授かるべく、この場に留まることにしたのであった。

 最初彼は、あまりの石化の解除の遅さに、“この口うるさい女神を自身の神殺しの大剣で、丸ごと捌いてやりたい”といった欲求があったが、それをぐっと抑え、こうして女神の復活を待ち続けていたのだった。


 しかしその後も一向に石化が解除されなかったこともあり、アレス達は女神に一旦、あるお願い事をした。


「女神さんよお。このままじゃ埒が明かねえから、ご同行を願う。……地上にある俺達のキャンプまで」


「わ、わかったなの! 渋々受け入れるなの!」


 女神が余計な一言を言い放ったのはさておき、ひとまずアレス達は女神から了承をいただくことができた。女神の加護については、カッペ山の麓にて改めて授かることにしたのである。

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