第十二話「口ほどでもなかったメデューサ討伐戦」
山頂に到達後、紋章魔法による副作用が和らいできたところで、アレス達は早速行動を開始していた。
「うわー、アレス。見てよこれ。生きたまま、石に変えられてる……。
ジュリー姉妹の姉アリシアはそう言った。カッペ山の頂上に着いた早々、辺りにはおびただしい石のオブジェがあり、それも人間だけに留まらず、リザードマンやゴーレムにスライムといった一般的な魔獣やモンスターの物まで多々あった。これが元々は全て、生きた人間に生物だったのだ。ゾッとさせられる光景だった。
「気味が悪いぜ。まさにいわくつきだな、ここは」
ギルドの職員からの話によると、メデューサの石化光線を浴びると、全身に石化の効果が回り、わずか1分足らずで全身が硬直してしまうらしい。光線が少しでも皮膚にかすめただけでも、毒が回るように石化の効果が全身に回ってしまうとのことだ。
「でも私達がメデューサを討伐すれば、この石化の封印も解けるんだったよね?」
再び姉アリシアがアレスにそう話しかける。
「そうらしいな。そういう意味じゃ、まだ救いはあるな。ゾンビとかマッシュとかスネーク系の毒と比べればな」
当該の魔獣を倒し、封印を解けばみんなが元通りになる。他の即死級の魔獣に比べれば何とも良心的な魔法の効果だった。
「まあそんな感じだし、おそらくだが今回の魔獣はとてつもなくランクが低いはずだ。たぶん俺達が目をつぶっても楽に対処できる相手だと思うな。
でも、石化魔法にだけは気を付けろよ。唯一の懸念材料はそこだけだ」
「それなら大丈夫。だって後方には私に妹もいるんだし。石化光線がちょっとかすめるぐらい、どうってことないでしょ」
姉アリシアは自信満々だ。アレス達ヒポクラーンはこのように敗北を知らない。故にどんな状況でいかなる魔獣が出てこようと常に冷静さを保てるのだ。これが俗にいうSランク冒険者の強さと言える。彼彼女らにとって、メデューサ討伐など朝飯前のことなのだ。
「まあそれもそうだな。あはははは。……ってなわけで、メデューサさんよ。さっさと出てきておくんなまし。もったいぶらなくていいから。
……どうせ、そこに居るんだろ? 俺達にはバレバレだぜ」
アレスがそう言うなり、視線をそちらの方に向けると、
「あらら。すごいわね、あんたたち。私の透視魔法を見破れるだなんて。……やるじゃない。面白そうな戦いになりそうね」
今回の討伐対象であるメデューサが、姿を現すなり不敵な笑みを浮かべた。ギルドの職員の話の通り、頭は蛇系のモンスターがうじょうじょと毛先のように生え散らかし、下半身は完全にアナコンダのそれだった。上半身は美しき人間の女性の姿をしているが、魔王に魂を売り魔獣と化したタイプのそれは、もはや人間らしい心を失っているように見えた。破壊の限りと己の欲望のために、幾多の人間を手にかける。まさにド畜生極まりない典型的な魔獣そのものだった。
そのようなド畜生なメデューサの強者ぶった態度に、アレスは苛立たしく思ったのか次にこう言っていた。
「うっせー。こっちとしたら、何にも面白くないんじゃい! なんでお前程度の魔獣を倒すためだけに、2週間も馬車に揺られねえといけねんだよ!」
鬱憤がよほど溜まっていたのか、アレスの言葉にはトゲがあった。それにムカッと来たのか売り言葉に買い言葉であるかのように、メデューサは次のように言った。
「お、大口を叩けるのも今のうちですわよ。み、見くびらないでいただけます? たかだか人間風情で」
こうした言われようにメデューサは不慣れだったのか、少々歯切れが悪かった。
「黙らっしゃい。それはこっちのセリフだ。たかだかお前のような低ランクの魔獣風情で、調子に乗るな! かえってこっちの格が下がるんだよ!」
アレスは容赦なく、言葉をぶつける。
「それになんだよ、その髪。お前って、元人間なんだろ? なんで頭に蛇、植え付けてんだよ。……これも契約ってやつの代償なのか。悪魔との。気味が悪いな」
「わ、私が元人間だった頃の話を蒸し返さないでくれる?? 私を挑発したいのか知らないけど、そんなことを言えるのも今のうちよ。
……もう頭にきた。その減らず口、さっさと黙らして差し上げますわよ!」
そう言うなり、メデューサは早速、石化光線を放射してきた。エルグランドの街の住民を恐怖のどん底に貶めた必殺魔法。一度、石化の魔法を浴びたら、最後は生きたまま石の彫刻にされる恐ろしい魔法。メデューサは頭や指先から、ありとあらゆる体の部位からお構いなしに、光線をぶっ放してきた。
「おっ、前フリが短くて非常に助かる! 人語を喋れるどの魔獣も、まるでマイクパフォーマンスっていうか、いちいち長ったらしんだよ! えいや、そいや!」
メデューサが先制攻撃を加えてきたところで、ついに戦いの火ぶたが切って落とされた。前線はアレスに筋肉馬鹿のプロポリス。後方はジュリー姉妹。華麗に彼彼女らは連携を取りつつ、石化光線の使い魔、メデューサ討伐を開始する。
あたりに立てられている数百体の石のオブジェ。それらに被害が及ばぬよう、巧みな位置取りでアレス達はメデューサに攻撃の隙をつく。
そうこうしているうちに、メデューサは徐々に劣勢に追い込まれ、体力を失っていくと、最後ヒポクラーンのリーダーアレスからとどめの一撃を食らい、
「てやんでい! とどめの一発! 斬撃、“神殺しの大剣!”」
所要時間、たったの1分30秒。当のメデューサは大して何の見せ場も作れず、首と頭をアレスによって一刀両断されてしまったのである。
「そ、そんな! 悪魔と契約したこの私が、簡単に倒されるなんて! 暗黒のデーモン様! お許しくださいませ!」
そうした断末魔をあげた後、メデューサは簡単に息絶えた。
「ふう……。今回も楽な仕事だったぜ」
アレス含めヒポクラーンの全員、汗1つもかかず討伐を終えてしまったのであった。




