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第十話「過酷な馬車の旅」

 馬車に揺られること2週間少々。メデューサの討伐のため、アレス達一行はカッペ山に向かっていた。馬車での移動は相変わらず、過酷だ。アレスの隣に座っているプロポリスは道中、馬車の乗り心地について、こんな文句ばかりを言っている。


「うー、腰痛てえよアレス! あとガタンゴトンしすぎて、ろくに寝れやしねえよ!

 だから俺は最初から嫌だったんだよ! こんな遠方の依頼! とにかく移動が辛えんだよ!」


 “舗装されていない凸凹道を走らされて、ろくに眠れやしない”プロポリスはそんな言ってもどうにもならない不満ばかり、彼にぶつけ続けている。それも、馬車での移動の際中ずっと。だたでさえ馬車での移動はテンションが下がるのに、この筋肉馬鹿のせいでそれにさらに拍車がかかっていた。


「うっせー! この筋肉馬鹿! 文句があるなら、この船を降りることだな! 少しは我慢しやがれ!」


 グチグチどうにもならんことを横で聞かされ続けていたアレス。そりゃあ、船を降りろの一つや二つ、つい言ってしまうのも無理はない。本来であるなら、いくら相手にブツブツと文句を言われようと、受けてめてあげるのが筋だとは思う。しかし長距離の移動の疲れもあって、アレスはプロポリスに対して、ボロカスに言っていた。


「はあ? 船を降りろだと? 何言ってんだ、お前! 降りる船なんてどこにあんだよ!」


 っとまあ、プロポリスにはアレスの言わんとしていることが全く伝わっていない。それはさておき。とにかくアレスとプロポリスは2週間ずっと、こうした言い合いばかりしていた。お互い移動の疲れで相当お溜まっているものがあるのだろう。一回火がつくと、歯止めが利かなくなっていた。


「うっせえ! そんなのどうでもいいだよ! お前はいい加減口を閉じろ! さもねえと、外に放り出すぞ!」


 その言葉通り、アレスは早いこと、生粋の筋肉馬鹿の彼を外に放り出してやりたかったのだ。雪が降りしきる極寒の中で。


「ひいい! それだけはご勘弁を……。筋肉が固くなっちまうだろうが」


 寒いのが極度に苦手なプロポリスに対して、彼はこう言い返した。彼の不平不満を収めるためのキラーフレーズだった。

 そしてその一方、同じパーティーメンバーのジュリー姉妹はと言うと。


「わーいわーい! 快適快適―! ビュンビューン!」


 姉妹の2人とも自身の風魔法で、快適な空の旅を楽しんでいた。まあ、快適な空の旅というか、一種の空間異動である。


「ひっくしゅん! 外は寒いけど、あんな馬車に揺られるくらいなら、こっちの方がまだましよねー、クリスティン!」


 手足を大の字にまるでムササビのように空を駆けながら、姉妹はたわいもない談笑をしていた。一般的に冒険者が空を駆ける時、大抵魔法のステッキやホウキなど、何か道具に頼る。しかしこの姉妹は勝手が違っていた。何と手ぶらで空を飛べてしまうのである。手足を大の字にムササビのように広げるだけで、空を駆けることができるのだ。しかもそれは、アレス達の乗っている馬車と並行できるだけの速度で。アレスにとって、空中移動の魔法を使える姉妹のことを羨ましく思っていた。


 姉妹による空の旅は何とも快適そうである。しかも彼女達はその風魔法だけに留まらず、火炎魔法をも駆使して、それで温度調節を図っているらしい。さすが属性魔法の使い手がなせる技である。彼女達からしてみると、空を移動しながら暖炉でぬくぬくしているような感覚に違いなかった。


 カッペ山を目指したアレス達の2週間の旅は、ざっとこんな模様である。プロポリスとアレスは空中で移動する術を持っておらず、ずっと馬車での移動を強いられているのに対して、一方のジュリー姉妹はムササビのような構えで、快適な空の旅を楽しんでいる。実に対照的な両者であった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「よっしゃあ、やっとカッペ山の麓か。しんどかったな……」


 2週間以上の月日をかけて、ようやくアレス達は目的地へと達した。

 この山の頂上に例のエルグランドの街を襲ったメデューサがいるらしい。ギルドの職員の情報によると、「このカッペ山は巷で死の山と呼ばれているとのことです。メデューサの石化の光線に当てられた人々のオブジェが山の至るところにあるらしいです」とのことだ。アレス達は今回、そんな背筋も凍るようないわくつきの山を攻略し、メデューサの元にたどり着かなければならない。またその時職員は、


「アレス様。カッペ山山頂までの道中は、“即死クラス”と呼ばれる冒険者連中の誰もが恐れる超凶悪モンスターが待ち構えています。またその他にも山中の至る所に“即死トラップ”なるものがたくさん設置されておりまして、現状私達が確認できる限りで言うと、爆破系・崖からひょっこり大岩ローリング系・丸太串刺し系・ヌルヌル粘着トラップ系などがあるとのことです。……気をつけてください」


 っと、このような忠告もしてくれた。もう聞くからに命の危険しか感じないとアレスは思っていた。仮に仕事ではなく、プライベートでこの山を登ろうと誰かに誘われても絶対に登りたくはない。いくら金を積まれてもまっぴらごめんである。


「あとこれらの悪質トラップは、冒険者のいかなる攻撃をもってしても一切無効化できません。一度でもトラップにハマったら即死です。もしくはそれに準ずるダメージを負ってしまうでしょう。なので気を付けてください、アレス様。

 いくらあなた達と言えども、自力で抜け出すことは不可能です。」


 っとこのようなことを職員から真剣に言われもした。



「本当ド畜生極まりないぜ、カッペ山……」


 一体全体どんな神経をしてたら、こんなド畜生なトラップを思いつくのやら。本当にそのメデューサという魔獣、たちが悪い。アレスはギルド職員からそれらの説明を受けている時、率直にそう思っていた。

 カッペ山に設置されている即死トラップ。細心の注意を払いつつ、頂上へ向かう必要があったのである。

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