最低な二人
愛情の行き過ぎもまた怖いですが人もまた怖いですね。
『ヤンデレ、それは好きな人への愛情が暴走をしすぎて愛情表現が暴走をしてしまうことをいう』
まるで機械音声のように先輩が読み上げると、静かにスマホから僕の方へ視線を動かした。
童顔めで僕より年下に見られがちな先輩が同時にため息をつく。
「つまり、恋人がヤンデレなのに圧迫感を感じてるのか」
「そうなんだ、ほんと困ってるんだ」
僕はため息と共にこの3ヶ月間で溜め込んできた感情と共に同意を吐き出した。
大学生活において初めてできた恋人、始めはその興奮と初々しさにいつも見えていた景色はまた違った色づきを見せていた。
が、同じ景色を見続けるのは飽きる。それでも、景色を見続けようとすると細かな変化や違いを探し始めたりするし、それが初めは大きく捉えていた良い面であっでも、細かく見れば悪い面であったりする。
そう、僕はこの3ヶ月目にして恋人の悪い面が目立つようになり苛立っていたのだ。
「どういったヤンデレなの?」
眉を顰めながら問う先輩の質問に素直に答える。
「あの、すでに長期間の同棲を前提に話を進められているんだよね。」
「それぐらい、愛してもらえてるってことじゃないの〜?」
呆れに似た怠めのを出しながら、2本刺さった歯ブラシ内の一つを取り出しブラッシングを始めた。
「それが、僕の将来の夢とか入る企業にまで口を出してくるんですよ。」
そう、僕が彼女に対する嫌な点それは異常なまでの縛りだった。
副業がうまくいくまで、仕事をする。
うまく行ったら仕事を辞め副業1本に絞るという夢を掲げているのだが、遠回しにも恋人は副業をやめろと言ってくるのだ。
また、他の友人と話していても毎日嫉妬の連絡が届く、その他も多々あるがとにかく愛情の行き過ぎに困り果てているのだ。
「なるほどな、どうにか、別れ話を切り出せないのか?」
ブラッシングを終えた先輩が鏡越しの僕にいう。
「言い出すと何をされるか、どんな被害が出るのか怖くて…」
彼女とSNSでも繋がっているのだが、遠回しに毎日僕の内容に関連した綺麗な輝かしいものばかりである。
それが別れを切り出したとなればおそらくその内容はより直接的に黒く変わるのが目に見えておりどんな実害が出るかもわかったものではない。
「これ見てくださいよ。先週デートした日のツイートです」
とある恋人のSNSの画面を先輩に向ける。
(もし、同棲するなら、公務員とか安定した仕事について欲しいなぁ〜静かな生活を送っていきたいなぁ)
「困ったもんだな、これじゃあ別れた後はこれが口に変わること間違いなしだ」
服を着替え終えた先輩はさらに不快そうに言う。
まだ掛け布団を纏ってうずくまる僕の横に風を切るようにそっと座って、僕の目をじっと見つめ両頬を摘んだ。
「それで俺と浮気することにしたわけか」
先輩は先程とは違って、ニッとイタズラそうな笑みを浮かべる。
「そうですね、はい…」
その笑顔の異質な無邪気さに身に目を逸らし、纏った掛け布団をぎゅっと体に寄せる。
「まぁ、徐々に嫌われるのがいいんじゃないかな、そうしたら実害も出ずに別れられるさ、この関係も続けられるよ、早く服着ていこや寝坊助さん」
「朝弱くて、ごめんなさい。」
最低な胸の高まりが、目の前の景色を新しい色に変えていく、新しい服に着替え僕は浮気相手と今日もデートに出かけることにした。
いかがだったでしょうか!楽しめていただけましたらまたお越しください!