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月明かりの魔法店  作者: 神楽一斗


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39 絆の糸③

 虹色の万年筆が、新たに生まれた魔法を事典に記す。


 No・336 虚空(こくう)検索の魔法

 宇宙に記された記憶層・虚空と接続し、あらゆる記憶を検索する。

 虚空への接続には、使用者に資格の付与が必要。


「〝虚空〟って何?」

 事典を見たマナが首を傾げている。

「万物のあらゆる情報が記されていると言う、記憶の層です。アヤさんにも権限が与えられたんですね」

 ミコトさんに言われて、初めて認識した。わたしが縄文杉から与えられた贈り物とはこの事だったのだ。


「それで、ツキノさんの居場所はわかったの?」

 虚空で絞り込んだ四人の中に、偶然にも、同じツキノという名前の人物が二人存在した。わたしは二人の名前と現在地を紙に記した。

「同じ名前で同じ顔なんて、運命を感じるね」

 マナが妙に嬉しそうにしている。

「でも、どちらが妹さんなんだろう」

「実際に会ってみたら、わかるんじゃないかな」

 魔法でさらに絞り込むことも出来そうだったが、ヒナさんなら、会うだけでわかるような気がしたのだ。


 次の日の夕方。わたしたちは、ヒナさんを伴って、とある百貨店の化粧品売り場に来ていた。

 探しているうちの一人、三村ツキノさんはこの場所で働いているらしい。買い物客を装って、それとなく本人がいないか探してみる。

「ねえ、マナっ、一応これも仕事なんだよ」

「ちょっと試すだけ」

 化粧品のサンプルを試しているマナをつついていると、店員さんが通りかかった。スラリとしたスタイルのいい女性。髪が長いので雰囲気が違うが、顔はヒナさんに瓜二つだ。

「……ヒナさん、どうですか?」

 小声でヒナさんに確認する。彼女はかなり驚いているようで、店員さんを食い入るように見つめている。

「驚きました。こんなにそっくりな人っているんですね」

「世界中から絞り込んだ結果ですから」

 わたし自身も初めて使う魔法だが、自分にもそっくりさんがいるのか確認してみたくなる。倫理上、あまり乱用するのはよろしくないが。

「あくまでわたしの直感ですが、あの人は違うような……。でも、もう一人の方を見てからでないと、断言は出来ないですね」

 ヒナさんは自信なさげにそう言った。確率は五十パーセント。次のツキノさんに会えば、きっと答えが出るだろう。


「マナ、いつまでやってんの。次行くよ」

「ファンデだけ買ってきていい?」

 マナはちろっと舌を出すと、足早にレジへ向かっていく。我が妹ながら、相変わらず緊張感がないというか、自由というか。ヒナさんにそっくりな店員さんに化粧品を渡しているマナを見て、思わずため息が出てくる。

「いいですね、姉妹って」

 傍らでヒナさんがクスリと笑った。こんな何気ないやり取りも、外から見ると良いものに見えるのだろう。ヒナさんたち姉妹も、そんな関係になれるのだろうか。


 北川ツキノさんの居場所は、わたしたちの町にある、市立の大きな図書館を指していた。沢山の本に囲まれた静かな空間。少し中に入ったところで、本棚の前に彼女の姿を見つけた。髪を後ろでまとめ、眼鏡をかけている。顔はもちろんヒナさんにそっくりだが、化粧品売り場のツキノさんと違って控えめな印象を受ける。

 彼女はここで働いているらしく、カートに載せた本を棚に戻しているところだった。仕事の邪魔をしないように、わたしたちは少し距離を取って観察した。

「……間違いありません。妹です」

 わたしが聞くまでもなく、ヒナさんがつぶやいた。

「わかるんですか?」

「自分でも不思議なんですが、繋がっている感覚があるんです」

 ヒナさんはじっとツキノさんを見ている。化粧品売り場の時と違い、その表情には迷いが感じられた。三十年以上前に離れ離れになった双子の妹。どんな話をしたらいいのか悩んでいるのだろうか。


 しばらくそうしていると、不意にツキノさんが本を持つ手を止めた。何かを探す仕草をしていたが、こちらに気づいてヒナさんを見つける。そのまま、二人は見つめ合ったまま動かない。

 先に動いたのはツキノさんだった。こちらにゆっくり歩いてくると、柔らかい笑顔を浮かべてヒナさんに頭を下げた。

「お姉さんですよね」

 ヒナさんは黙ってうなずく。ツキノさんは少し声を落として続けた。

「ツキノです。お久しぶり……なんですよね。事情は聞いています。少し待っててもらえますか。もうすぐ仕事が終わりますので」


 仕事を終えたツキノさんと合流し、わたしたちは近くのレストランに入った。二人きりになるのを躊躇ったのか、一緒にいるように懇願されたのだ。

 ヒナさんのお母さんは、ツキノさんに手紙を託していた。ヒナさんがツキノさんに会いに来る事があれば、渡して欲しいと言付かったものだ。


 読み終えたヒナさんは、涙でボロボロになりながら、わたしに手紙を差し出した。

「わたしが読んでもいいんですか」

「ぜひ、立会人になって欲しいんです」

 その意図はわからなかったが、魔導師としての大切な仕事のように感じられて、わたしは文字を追った。


 手紙には、自らが抱えていた苦しみと共に、沢山の謝罪の言葉が書かれていた。

 三十五年前、ヒナさんのお母さんは、経済的に二人の子供は育てられないと判断した。彼女は病院で不妊に悩む夫婦に出会い、双子のどちらかを養子に出す事を考えた。

 自分で育てたいという気持ちと、双子を離れ離れにしてしまう事への葛藤。何より、どちらかを選ぶということが、彼女を最も苦しめていた。

 養子に出された子は自分を恨むかもしれない。一方で、自分で育てる子には不自由な思いをさせるかもしれない。色々な思いを抱えたまま、彼女は〝選択してしまった〟と言うのだ。

 手紙は、どんなに責められても構わないが、二人は幸せに生きて欲しいという言葉で締めくくられていた。


 数日後、ヒナさんはツキノさんを伴って店を訪れた。表情はとても晴れやかで、丁寧にお礼を言われて少し照れてしまう。


「それで、お支払いの件なんですが、沢山魔法を使っていただきましたよね? おいくらになりますか」

「あれはわたしが勝手にやったことなので、気にされなくてもいいですよ」

「いえいえ、そういうわけには」

「大丈夫ですって。姉は人助けが趣味ですから」

 マナが横から雑にフォローしてくる。まあ、あながち間違いでもないが。

「うちのお店は、契約外のお代は頂きません。そうですよね?」

 と、ミコトさんに視線を送ると、優雅な微笑みが返ってくる。つまり、最初に使った魂繋ぎの魔法も例外ではない。あれもあくまで値段を提示しただけに過ぎない。

「それは駄目ですよ、ここまでして頂いているのに」

 ヒナさんはなかなか引き下がらない。振り返ってみると、うちのお店は、お金を払いたいと食い下がるお客様が多い。改めて不思議なお店だと思う。

「時々遊びに来てください。お二人の立会人として、ちゃんと幸せになられているか、見届けさせて頂きます。幸せになることが契約条件です」

 そう言うと、ヒナさんたちは顔を見合わせて苦笑した。


 お二人のお母さんが何より守ろうとしたのは、彼女たちの幸せ。わたしはしばらく見守っていこうと思う。お母さんが手繰り寄せた、二人の絆の糸が切れないように。

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