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月明かりの魔法店  作者: 神楽一斗


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33/45

33 天候操作の魔法①

 わたしの学生の頃の記憶。勉強に関してはそれなりに自信があったが、運動面はそうでもなかった。特に球技は苦手で、球技大会などがある日は憂鬱で仕方がなかった。


 最初、その少女は迷子なのかと思った。魔法店に続く道の途中で立ち止まって、そわそわしていたからだ。

「こんばんは。大丈夫?」

 わたしが声をかけると、彼女は驚いてこちらを振り返った。よく見ると、膝を少し擦りむいているようだった。ハルカちゃんと最初に出会った時のことが脳裏をよぎる。

「怪我してるの?」

「大丈夫です。転んだだけなので……」

「良くないよ、すぐに手当しないと」

 わたしは少し迷ったが、彼女の膝に手をかざした。こんなところにいる以上、魔法店のお客様に違いないからだ。


 彼女を連れてお店のドアをくぐると、ハルカちゃんが目を丸くしてこちらを見た。

「もしかして、同じ学校の子?」

「うん、隣のクラスの本田さん、だよね?」

 彼女はわたしとハルカちゃんを交互に見ながら、うなずいた。


 本田フウカちゃんは、ミコトさんの前に座ると緊張した様子でうつむいた。確かにこのお店は、小学生がひとりで来るにはハードルが高い気がする。わたしがジュースを出してあげると、やっと顔を上げてくれた。

「学校に関するお悩みがあるとお見受けします。事典に聞いてみましょうか」

 ミコトさんの合図に合わせて、わたしは魔法事典をテーブルに置いた。頁がめくれていき、彼女が必要としている魔法を示す。

 事典が示したのは、「天候操作の魔法」だった。


 ミコトさんはカードを取り出して、サラサラとペンを走らせる。


 ご注文 No・060 天候操作の魔法

 現金でのお支払い 480万円

 時間でのお支払い 200日


 わたしの治癒の魔法と同じ価格と日数。こんな大金を小学生のフウカちゃんが払えるわけは無い。そうなると、時間で払うことになるのだが。

「ミコトさん。わたしはあまり気が進まないんですけど」

「何がですか?」

「こんな小さい子に、時間の価値を判断するのは難しいと思うんです」

 わたしが言うと、ミコトさんは真剣な顔になった。

「何かを得るということは、対価を払わなければならないのです。それは立場や年齢に関わらずです」

「いや、それはそうなんですが」

 いつになく、ミコトさんが厳しい気がする。

「フウカちゃんはどうしてこの魔法が必要なの?」

「……明日、運動会なんです。わたしは運動が苦手で、きっと失敗しちゃうから」

 彼女はハルカちゃんを気にしているのか、か細い声で答えた。

「そっか、雨になれば延期になるもんね」

 わたしも球技大会を体調不良を名目にパスした経験があるので、気持ちは凄くわかる。でも、楽しみにしてる子もいるだろうし、自分の都合で行事を中止にするのは問題がある。今日のミコトさんが厳しめなのはそういうことなのかも。


「ハルカちゃんはどう思う?」

「わたしは楽しみにしてたけど、明日の天気予報は雨だったよ」

「あれ、そうだっけ」

 わたしは慌ててスマホを確認する。確かに、明日は大雨予報になっている。

「それなら、魔法を使わなくても良さそうだね」

 わたしが言うと、彼女は何かを言いたそうな顔をして、うつむいてしまった。何か思うところがありそうだ。

「どうかした?」

「いえ、あの……」

 彼女は口ごもりながら、仕切りにハルカちゃんを気にしている。どう聞けばいいのか迷っていると、ミコトさんが代わりに声をかけた。

「魔法とは、陽のエネルギーが起こす奇跡なんです。つまり、正しい心で無ければ、その効果を発揮出来ません。偽りの言葉を使っているうちは魔法は使えない、という事です」

 フウカちゃんの目が泳いでいる。何か隠している事があるのだろうか。

「慌てなくても大丈夫です。あなたにとって、一番大切な事が何か、ご自身の心に聞いてみるといいでしょう」

 ミコトさんはいつもの柔らかい微笑みを浮かべた。フウカちゃんはしばらく考え込んでいたが、ちらりとハルカちゃんを見てからゆっくりと話し始めた。

「……ごめんなさい。本当はわたしの為じゃないんです。明日の運動会を楽しみにしている人がいるから、中止になると困るんです」

 ハルカちゃんの事かと思ったが、二人は親しいわけでは無さそうだ。落ち着いて話を聞くため、わたしはお茶とお菓子の用意を始めた。

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