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月明かりの魔法店  作者: 神楽一斗


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32 魔法のカスタムメイド③

「結論から言いますと、チョコちゃんと会話する方法は、ズバリ魔法です」

「はい、だからこうして、お願いしているつもりですけど」

 ナナさんは首を傾げた。

「正確には、猫専用の魔法があるようなんです」

 調合魔法でチョコの意識を探って達した結論。ヒゲの秘密とは、猫専用の魔法を出すアンテナ。彼らは猫だけが使える、一種の伝心の魔法で会話をしているとしか思えない。信じ難いのだが、チョコが嘘をついていない限り、確かなはずだ。


「この子が魔法使い」

 わたしが調査結果を伝えると、ナナさんはかなりびっくりした様子でチョコを見た。

「魔法と呼んでいいのかはわからないんですが、原理は近いもののようです」

 古来から、猫を神のように崇める文化もあるらしいが、あながち間違いでは無いのかも知れない。


「チョコちゃんと会話出来るように、魔法を調合しましたので、まずは使ってみてください」

 わたしは出来たてホヤホヤの魔法を封じ込めたミサンガを、ナナさんに渡した。

「会話するには、まずチョコちゃんの目を真っ直ぐ見て、気持ちが通じるように念じてください。うまく波長が合った時が、魔法を使うタイミングです」

「波長ですか……難しそう」

「ずっと一緒に暮らしてきたナナさんなら、大丈夫ですよ。いつもの感じで、気持ちを伝えればいいんです」

 ナナさんは手首にミサンガをつけると、そっとチョコの前にしゃがみ込んだ。


 チョコはナナさんを見ると、目を細めた。その瞬間、わたしの脳裏にチョコの意識が伝わってくる。ミサンガにつけた意識同調のビーズの効果だ。


 チョコがナナさんと過ごしてきた中で生まれた感情の断片が、時系列に流れていく。


 ナナさんが小さい頃は、姉妹の感覚。彼女は一緒に遊ぶ相手だった。彼女が学校に行く時、置いていかれるのが寂しかった。


 高校生の頃は、親子の感覚。玄関で見送る時、車に気をつけるように、いつも祈っていた。


 そして大人になった今は、祖母と孫の感覚。彼女のこれからの行く末を案じながら、ずっと見守りたいと思っている。


 そして、何より強く感じたのは、ナナさんに対する感謝の気持ち。


『いつも、ありがとう』

『こちらこそ。長生きしてね』


 心の中で二人がそう会話したのが聞こえた気がした。


 No・335 以心伝心の魔法(猫用)

 猫と人間の意志の伝達を可能とする。

 使用する際は、対象の猫と意志を交換するための手順を踏む必要がある。


「随分レアな魔法が出来たね」

 魔法事典に記された新しい頁を見ながら、マナが言った。

「ナナさん専用のカスタムメイドだからね」

 そんな話をしていると、契約の間からミコトさんと一緒にナナさんが戻って来た。


「……あの、本当にお代は?」

「先程お話しした通りです。これはモニター契約ですので」

 ミコトさんが契約書を手に取って見せた。生まれたばかりの以心伝心の魔法(猫用)の価値はまだ定まっていない。よって、ナナさんにモニターとして使ってもらうことになったのだ。

「でも、チョコも高齢ですし、いつまで生きられるかも……」

「その点はご心配なく。まだ時間はありそうですよ」

「えっ?」

 ミコトさんは青い砂時計をランプの灯りにかざしながら微笑んでいる。寿命を測る時に使う砂時計だ。

「たまにお話を聞かせてくだされば、それで結構ですから」

「はい……」

 ナナさんは、差し出された虹色のキャンディを不思議そうに手に取った。


 以心伝心の魔法(猫用)の効果を確認するため、わたしは定期的にナナさんの家にお邪魔する事になった。

 いつ訪ねても、チョコはソファの上で丸くなったままほとんど動かない。わたしと目が合うと瞬きするのは、きっと挨拶をしてくれているのだろう。ミコトさんが言うように、体の方はまだ元気のようで安心した。


「どうですか、魔法を使ってみて」

 わたしが聞くと、ナナさんは嬉しそうに笑った。

「チョコが色んなことを考えている事がわかりました」

 ナナさんがその顔を覗き込むと、チョコはまたひとつ瞬きをする。

「最近は、結婚相手を見つけなさいとか、自分が生きていられる内に、子供が見たいとか。本当にお婆ちゃんの視線で」

 クスクス笑いながら、ナナさんはチョコの耳の裏側を撫でた。

「わたしの方がずっと心配されていたみたいです。いつか、ひとりにしてしまう時が来るからって」

 そのとき、魔法計が僅かに反応した。ナナさんが魔法を使ったのだ。わたしが視線を向けると、彼女は肩をすくめて苦笑いした。

「……無理はしない程度に頑張れ、ですって」

「優しいですね、チョコちゃん。……チョコさん、かな?」

 チョコはひとつあくびをすると、満足そうに目を閉じた。

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